バイオ医薬ベンチャーの日本抗体医薬です。
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がん細胞に10分で大穴 日本抗体医薬、3年内に治験
2017/4/27付日本経済新聞 電子版
バイオ医薬ベンチャーの日本抗体医薬(横浜市、成田宏紀社長)が2月に設立され、新しいがん医薬品の開発を進めている。膵臓(すいぞう)がんや卵巣がんの分野で、がん細胞に穴をあけて殺す攻撃力の高い抗体の実用化を目指す。3年以内に臨床試験(治験)に入りたい考え。
■新しい作用で
日本抗体医薬という社名は、やや大風呂敷に聞こえなくもない。しかし、成田宏紀社長は同社の技術について「抗体医薬の開発のプラットフォームになる」と意気込んでいる。
成田氏は、大和証券系のベンチャーキャピタルであるDCIパートナーズの社長を兼任している。ベンチャーキャピタルが起業するのは米国では一般的だが、日本では珍しい。
有望性を見込み、DCIパートナーズが資金を準備して設立した肝煎り企業なのだ。
その技術は、新しい作用でがんを攻撃する抗体薬を作るというもの。順天堂大学医学部の松岡周二助教の研究がもとになっている。
抗体は特定の異物を認識してくっつくたんぱく質で、異物を排除する。抗体は通常、「補体」と呼ばれる成分や免疫細胞の力を借りて排除している。
松岡氏が発見した手法で取り出す抗体は、それらがなくても、単独でがん細胞を排除する。がん細胞にくっつくと、10分前後で大きな穴をあけ、破裂させて殺傷する。
このような抗体は例がない。免疫細胞が弱ってしまった末期がんの患者でも、治療が可能だ。
特殊な抗体は以下の方法で作られる。
まず、マウスに患者のがん細胞Xを移植する。例えば肝臓がんの細胞だ。2週間ほどするとマウスの中でXを攻撃する力がつく。次に肺がんなどの細胞Yを移植する。すると今度はYを攻撃する力がつく。
これを繰り返すと、マウスのなかで、XもYもともに攻撃する抗体がつくられるようになる。
次に、治療したい卵巣がんや膵臓がんの細胞Zをあつかう。Zに対し、XもYも攻撃する抗体を作る細胞をランダムにふりかけると、Zのどれかに穴が空いて死ぬ。そのZをやっつけた抗体こそが当たりだ。その抗体を取り出して薬にする。
患者から取り出した細胞Zをマウスに入れて、抗体をつくることは簡単にできる。ただ、Zを提供したがん患者にしか効かず、同じ病気の他の患者には使えないケースが多い。
松岡氏の手法は、様々な患者が持つがん細胞Zに効く抗体を探せるという。
松岡氏がこの作用を持つ抗体を発見したのは22年前。「がん細胞の死に方で、大きな穴が空くのを見たのは初めてだった」と振り返る。
▼抗体医薬 特定の異物を認識してくっつき、様々な作用で異物を排除する「抗体」を利用したバイオ医薬品。通常、標的となる異物のたんぱく質を認識して結合すると、免疫細胞や「補体」を呼び寄せ、それらががん細胞を攻撃して死滅させる。ミサイルのように狙った標的にピンポイントで届かせることができ、治療効果が高く副作用が少ないとされている。
ただし、通常の開発方法では抗体医薬の標的にするたんぱく質の選び方が難しく、また標的に結合しても必ずしも効果を発揮するわけではなく開発は容易ではない。がん免疫薬の「オプジーボ」や、多種類の血液がんに使用される「リツキサン」などのように、全世界で数千億円を売り上げるものが多い。
■ヒト応用に研究
そこでヒトに応用させるための研究を続けて、2016年にこの手法を完成させた。XとYでマウスを「訓練」することを通じてそうした抗体が作られると予想した通り、汎用性が高い抗体が得られた。
ただし、なぜがん細胞に穴ができるかはまだはっきり分かっていない。
これまでに、血液がんである悪性リンパ腫や、胸部にできる中皮腫などのがん細胞を死滅させる抗体を3種類発見した。標的にすべき分子が分からなくてもがんが死ぬか否かで探せるので、新薬候補の取得効率は高い。
安全性に関しては、ヒトの正常細胞には作用しないことを実験で確かめた。ただ、生体に投与した場合どうなるかは不明で、今後実験を重ねる必要がある。
また、現在は松岡氏ががん細胞の様子を観察して検索しているため、抗体発見のスピードに限界がある。
松岡氏は「患者が多く生存率が低い膵臓がんや卵巣がんでの開発を優先したい」と話している。
(野村和博)
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うまく行くとよいですね。