抗体医薬開発の最前線 | Just One of Those Things

Just One of Those Things

Let's call the whole thing off

抗体医薬開発が盛んになっています。


その最前線を見ていきましょう。


----------------------------------------------------------
抗体医薬開発の最前線 効果長持ちのリウマチ薬も
編集委員 滝順一
2015/9/28 6:30日本経済新聞 電子版


 「抗体医薬」の研究開発が盛んだ。抗体は免疫反応で体がつくるたんぱく質だ。細胞表面のたんぱく質(抗原)を認識して1対1で結合するため、副作用の少ない薬の開発が期待できる。がん治療薬のほか慢性疾患に対する抗体医薬の開発も進む。中外製薬の岡部尚文・研究本部長に最先端の抗体技術について聞いた。


■画期的新薬に集中 ロシュ傘下で臨床試験のコスト削減


 ――まず中外製薬の研究開発の基本戦略を聞きたい。


 「基本は『ファースト・イン・クラス(画期的医薬品)』、日本でいうところの『ピカ新』の創出を目指す。ジェネリック医薬品で価格競争をしながら、同時にピカ新を追い続けるといった戦略は、中外製薬の企業規模では無理がある。グローバルに打って出てトップ製薬企業になる戦略に絞っている」


 ――そうは言っても、新薬開発にかかる投資額は増える一方で、大型新薬を次々に出すビジネスモデルはもはや通用しないともいわれる。


 「世界市場で新薬を上市するには2千億円くらいかかるといわれる。とくに第3相臨床試験にお金がかかる。中外製薬はロシュグループの一員であり、ロシュはグローバルな第3相試験を進められる規模を持つ。ロシュと一緒にやることで、単独ならグローバル臨床試験にかかるはずの費用を減らせ、その分を(新しい薬剤候補を見つける)探索研究や早期の臨床試験にあてられる」


 ――研究開発への投資規模は。


 「探索研究は鎌倉と御殿場にある2つの研究所で取り組む。ほかに製法や製剤の研究にあたる研究所が東京の浮間(北区)にある。合わせて約1千人、約800億円を投じている」


■2種類の抗原に結合できる「バイスペシフィック抗体」の工業生産を可能に


 ――研究の優先順位で言えば、まず抗体医薬ですか。

 

「抗体医薬の研究は今や世界の製薬で花盛りだ。発売済みや開発中の薬がすでに500くある。しかしこれらが標的とする抗原の種類は30~40しかない。同じ標的に対し各社があれこれ工夫している。分子の形を変えたり認識する場所を変えたり、同じだと先行特許にひっかかることもあるし、工夫によって効能を高めたり使い勝手をよくしたりすることもできる。その競争が激しい。ピカ新を狙うなら他者と同じ標的ではなく、他者がやっていない抗原や、抗体をつくるのが難しいといわれる抗原を狙った薬を生み出したい」


 「例えば、2つの抗原に同時に結合する『バイスペシフィック抗体』がある。抗体分子はY字形をしており、Yの上部で抗原を認識し結合するが、上部の2本の腕がそれぞれ異なる分子を認識するように設計したものだ。オリジナルなアイデアは以前からあったが、つくるのが難しかった。収率が悪く、効率的な工業生産ができなかった。Y字の下部がない単純な構造にしてつくるやり方はあったが、これだと(分解されやすく)体内での半減期が短いため使い勝手がよくなかった」


 「抗体のアミノ酸の並びを工夫して、バイスペシフィック抗体を工業生産できる技術を開発し、血友病の治療薬として実用化を目指している。血友病Aの患者さんは血が固まるのに不可欠な血液成分(第8因子)を生まれつき持っていない。第8因子の投与で治療は可能だが、半減期が短いなど課題がある。第8因子の代わりに血液凝固反応を促す分子をバイスペシフィック抗体の技術でつくった。現在、世界で第2相臨床試験を進めており、近く第3相に入れると思っている。きちんと投与すれば、固まりすぎて血栓をつくることもなく、また抗体に対する抗体が生じることもなく、今のところは効果がみられている」


――ほかには。


 「抗体をリサイクル使用し、効果を長持ちさせる技術(スマート免疫グロブリン)がある。抗体医薬品は抗原に1回しか結合できないため、毎週、病院で点滴による投薬を受ける必要がある。これを1、2カ月に1度皮下注射をすれば、通常の生活ができるようにするため、何度でも抗原と反応できる長持ちする抗体を考えた」


 「結合した抗原と抗体は通常、細胞内の液胞に取り込まれて分解される。血中はアルカリ性だが、液胞内は酸性であることから、酸性になると抗体が変化を起こして抗原を手放すように設計した。抗原だけが分解され、抗体は細胞の外に再び戻ってくる」


 「中外製薬では、関節リウマチの薬である『アクテムラ(一般名はトシリズマブ)』にこのリサイクル技術を応用している。アクテムラは炎症に関係するたんぱく質、インターロイキン6(IL6)に結合し、その働きを中和するが、結合部のアミノ酸配列を変えリサイクルを可能にした。長持ちすることで、容量を減らしたり投与間隔を延ばしたりできる。いま第3相試験にある」


■肺がん治療薬でも成果 東大の研究を応用


 ――抗体医薬のほかには。


 「低分子医薬では、肺がん治療薬の『アレセンサ(一般名アレクチニブ)』が最近の成果だ。細胞増殖を促す酵素の働きを邪魔する薬だ。非小細胞がんの一部の患者において、この酵素の遺伝子(ALK)が他の遺伝子と融合しがん遺伝子として活性化することを、東京大学の間野博行教授が見つけた。2つの異なる遺伝子の融合でがん化を引き起こすことは白血病などで知られていたが、固形がんで起きるという発見は画期的だった」


 「非小細胞肺がんの一部の患者に非常に効果がある。ただ創薬は米ファイザーが先行したため、正直なところ迷った。止める選択もあり得たが、どうせつくるなら、選択性と活性が高いものをつくろうと研究を続けた。その結果、先行薬が効かない変異をもつがんにも効く薬ができた」


 「ロシュと(創薬の出発点となる)リード化合物のライブラリー(収集)を共有しており、約200万の化合物から適したものを選べた。化合物の立体構造をみながら改良を加えた中外製薬の化学者たちの力も大きかった。(非小細胞がんの一部という)限られた患者さんたちに対してではあるが、効果が大きいため1、2相臨床試験を終えた段階で日本国内で世界に先行して承認を受けた。発売後の現在は、大規模な第3相試験で使用成績の調査を進め、有効性の確認をしている」


■取材を終えて


 「ブロックバスター(大型新薬)」に依存した製薬ビジネスは終わったとの声を耳にする。代わりに登場したキーワードは「個別化医療」であり「プレシジョン・メディシン(精密医療)」である。多くの人に画一的な投薬をするのではなく、患者の遺伝的な背景などに即した薬の投与で効能を最大化、副作用を最小化するという発想だ。抗体医薬はその方向にかなうものであり、低分子薬の「アレセンサ」もそうだといえるだろう。


 鎌倉研究所で、アレセンサの分子設計に用いた立体画像を見せてもらった。抗原と抗体の水素結合の位置と距離のわずかな違いが効能の違いに現れるという。また多数のリード化合物から候補を選び出すロボットもあった。ロシュと独ツァイス社の共同開発の装置だそうで、24時間休まず働く。中外製薬がロシュ・グループの一角を占め、こうした装置を利用できたことが、成果の背景にあるのだろう。


 それでは、同社はどこまで独自の研究開発に取り組めるのか。大内香・プロダクトリサーチ部長に尋ねたところ、「グループの一員であるバイオ医薬の米ジェネンテック社も含め、それぞれ独自性を大事にしており、早期段階ではやりたいことをやりたい方法で取り組める」との答えが返ってきた。リード化合物ライブラリーやロボット技術など共有できるものは共有し重複投資を避けながら、それぞれの得意分野を追求できるという。

----------------------------------------------------------


ちょっと、難しかったでしょうか^^;


要は、副作用の少ない薬が開発されているという話です。


次回は、医学生理学賞を受賞した大村氏に関する記事を取り上げます。


ではでは^^


ペタしてね