増え続ける児童虐待について考える | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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アウグスティヌスの格言「己の実力が不充分であることを知る事が己の実力を充実させる」

(連合総研研究員 前田克歳)



 先日、実母による実子(姉妹)殺害の記事を目にした。記事によれば、母親は育児疲れやストレスに悩み、その結果殺害に及んだのだという。この様な悩みは育児を担う者であれば誰もが抱えうるものだが、当然ながらその全てが児童虐待に繋がっているわけではない。そこで、近年の虐待件数の動向をみると、厚生労働省が統計を取り始めて以降増加を続けており、平成25年度には7万件を超えたのだという。しかし虐待の多くは家庭や施設などの密室で行われていることを鑑みると、この数値も氷山の一角に過ぎないと言えるだろう。


 では具体的にはどの様な虐待が行われているのか。平成25年度の児童虐待の現状(厚生労働省)をみてみた。種類別では身体的と心理的で約7割、虐待者別では実母が5割超(実の父母による虐待件数の合計は8割超)。年齢構成では小学校入学前の子供への合計は4割超である。更に子供の命まで奪ったケースは平成16年度以降毎年50~60件程度あり、毎週約1件発生している計算だ。『子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第10次報告)(社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会)』によれば、平成24年度には49例(51人)が虐待により命が奪われ(心中以外の虐待死)ており、このうち2歳までの割合は6割を超えるのだという。


 何故このような事件が増え続けるのだろうか。要因の一つには、核家族化があるのではないだろうか。かつては身内や近所が助け合って子育てをしていたが、現代では近隣との繋がりは希薄化し、密室化した家庭内で育児に孤立し、膨らんだストレスや育児不安が虐待を招いているのではないだろうか。また、広報強化などにより、児童虐待という社会問題や虐待の通告義務が浸透したことも相談(通告)件数の増加に繋がったといえるだろう。


 次に虐待死の加害者側のプロフィールをみると、年齢は実母・実父共に20代が多い。また実母の3割以上が育児不安を感じていたとのことだ。動機には泣きやまないことへの苛立ち、しつけのつもりなども多い。家庭の経済状況では年収500万円未満と生活保護世帯をあわせると6割を超える。地域社会との接触状況については、約7割が乏しいと回答し、行政による支援事業も半数以上が利用していないとのことだ。このような結果からも、育児時の不安、ストレス、孤立感、経済的困窮などが虐待を引き起こす背景の一部にあることがうかがえる。


 虐待のない社会の実現にはどの様な対策が必要だろうか。第一には『発生予防』だろう。虐待に至る前に育児の孤立化や育児不安の解消に繋がる相談窓口の設置、通告先の一層の浸透が必要だ。第二には『早期の発見・対応』だろう。深刻化する前に発生リスクの高い家庭の発見と対応が必要だろう。第三には『専門性の確保』ではないだろうか。児童虐待の対応には専門性が求められるため、児童相談所などへの専門家の更なる体制強化が必要だ。


 一つの命を育むことの大変さは言うまでもない。筆者も4歳の娘を持つ身であり、そのことは理解している「つもり」である。しかしながら、充分に育児参加が出来ているとは言えず、そのことが母親の身体的・精神的な負担やストレスを増加させているといえ、反省すべき点は多い。この様なストレスに加え孤立や経済的困窮などが重なれば多くの方が精神的に行き詰まってしまうことは容易に想像できる。厚生労働省においても、出産・子育てに悩みを抱え、周囲の支えを必要としている者への相談体制の整備や、子育て支援サービスの充実がはかられてはいるものの、虐待の根絶には至っていない現実を鑑みれば、育児に悩む者が相談しやすい窓口や施設の整備、支援サービスの充実、通告先の周知・浸透など、実効性のある支援体勢の一層の充実は急務だ。


 「すべての児童は、心身ともに、健やかにうまれ、育てられ、その生活を保障される」と児童憲章にも謳われている。未来の社会を担う全ての小さな命が、虐待により奪われることなく健やかに成長できる社会が一日も早く実現することを願うばかりだ。