地方活性化は地域から | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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地方活性化は地域から
(連合総研所長 中城 吉郎)


 昨年の暮れも押し迫った12月27日に、政府は地方創生に向けて「長期ビジョン」と「総合戦略」を閣議決定した。同日付で内閣官房から都道府県知事に対し、都道府県と市町村が地方版総合戦略を策定するよう通知を発した。地方の側にボールが投げられ、地方創生は第2ステージに入ったといえる。

 今回の「地方創生」に向けた一連の動きは、昨年5月に増田寛也元総務大臣らの有識者グループが発表した「消滅可能性都市896のリスト」が契機となっている。人口減少がこのまま進むと地方の公共サービスが維持できなくなるのでは、という漠然とした人々の思いを、独自の推計による数値と消滅可能 性のある自治体の具体名を挙げて示したことにより大きな反響を呼んだ。これを取りまとめた本は警世の書とも呼ばれているようだ。

 人口問題の警世の書といえば、スウェーデンの福祉政策の礎となったミュルダール夫妻の『人口問題の危機』が想起されるが、上記の増田レポートとこ れに続く安倍政権の政策対応をみてみよう。

 増田レポートでは、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口のデータを基に、20代~30代の女性の数に注目して2040年の試算値と2010年の人数を比較して若年女性が半分以下に減る自治体を「消滅可能性都市」とした。そして都道府県別の出生率を比較すると東京都の出生率が1.13と他の道府県に比べて小さいことから東京への一極集中が更に人口減少を加速するとした。このように、若年女性の数に注目し人口減少と東京一極集中の問題を結び付けたところに特色がある。

 出生数と転出入数、これらはいずれも個人の自由意思による選択の結果決まるものであり、直接政策目標とすることは難しい。「長期ビジョン」では「国民希望出生率」なるものを1.8と推計し、まずこれを目標とし、さらに2030~2040年頃までに出生率を2.07まで回復させれば2060年には人口1億人が維持 されるとしている。これは数字をそう仮定すればこうなるということであり、実現のハードルはかなり高い。一方、東京への転出入についても、2020年に、地方における10万人分の雇用創出など活用して、東京への転入者を6万人減、転出者を4万人増にさせるとしているが、地方での雇用創出が東京との間の転出入に直接結び付くかどうかは明瞭ではない。目指す所への政策手段とその効果についてはまだ試行錯誤の段階といってよいだろう。

 東京一極集中の是正は重要な政策課題であり、人口減少の問題というよりも、この国のかたちをどうするのかという、より高い視点から議論をすべきだろう。政治、行政、ビジネス、マスコミ等首都機能が一都市圏に集中する現状を是正するには、これまでの首都機能の分散化や分権をめぐる検討結果を踏まえた取り組みが必要である。地域の要望を聴きつつ国民の合意を形成していくのは国の責務であろう。しかし、「長期ビジョン」では一方で「東京は世界に開かれた『国際都市』をめざす」として東京にも配慮していて一貫性がみられない。また、国家戦略特区には東京圏が認定されているし、統合型リゾート(IR)の候補地にも東京圏があがっている。まずは、国の政策のベクトルを合わせていくことが必要となろう。

 政府のまち・ひと・しごと創生本部は、人口減少という課題に対し、短期間に法制化から体制作りまで手際よくまとめてきた、という印象であるが、政策の進め方についてはもっと地域の自主性を生かす工夫が望まれる。「総合戦略」でも地方創生に向けた原則の第1番に「自立性」を掲げているのだが、ややもすると上から目線になりがちである。地方創生二法 のひとつ「まち・ひと・しごと創生法」の組み立ても従来の地域開発立法を踏襲している。今回も国が総合戦略を策定し、冒頭にみたように都道府県、市町村に地方版総合戦略を作成するように通知をした。いわば一律で回答用紙を配布する方式だ。

 地域にはその地域を真剣に考える人たちがいて、さまざまのアイディアが生まれている。そして、そこには地域の独自の時間の流れと連帯のネットワークがある、というのが地域振興に携わった経験からの感想である。地域の現場から出てくる自主性、自立性をどう伸ばしていくかが問われている。職場も同じだが地域も現場が一番ラジカル(根源的)であり、そこから生まれるものを活かすことが大切である。