【朝コラ】第2の“ロスト・ジェネレーション”? | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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第2の“ロスト・ジェネレーション”?
(日本経済研究センター 特別顧問 小島明)


 バブル景気崩壊後の1990年代、とりわけ97年11月の金融危機以後に深刻化した新卒者の就職環境の悪化は「就職氷河期」「ロスト・ジェネレーション」なる言葉を生んだ。その後、団塊の世代の大量定年退職に伴う求人数の増加で「氷河期」はいったん終わったが、ここへきて再び深刻化している。

 日本の雇用情勢は極めて皮肉かつ深刻な問題を抱えている。世界で最長寿国なのに主要国の中では最も早い定年制を維持していること、労働力人口がすでに急速な減少過程に入っているのに高い失業率が続いていること、しかも少子化を何とか食い止めるべきだとの議論も高まっているのに若年層ほど失業率が高く、かつ相対的に賃金の低い非正規雇用の比率が高く少子化を増幅しつつあることだ。さらに、若年層の中でもとりわけ無視できないのが大学、高校の新卒者の雇用情勢が悪化し、再びロスト・ジェネレーションが発生しかねない状況になっていることである。

 それは経済問題として重要なだけではなく、深刻な社会問題ともなる。若者から夢を奪い去り、日本の経済・社会のダイナミズムを弱め、かつ社会不安にもつながりかねないからだ。内閣府の「新卒者支援チームの取り組みについて」と題する資料によると、今春の新規大卒者の就職内定率は2010年2月1日現在で80.0%にとどまった。08年の同日現在の88.7%から大きく落ち込んでいる。新規高卒者の就職環境も悪く、10年1月末現在の内定率は81.1%で08年2月末の 89.4%を大きく下回っている。

 そうしたなかで政府の緊急雇用対策本部が09年10月末に「新卒者の就職を支援し、第2のロスト・ジェネレーションをつくらない」ことを目標としたアクションプランを決定した。ただ、その具体的な措置は、ハローワーク等における高卒・大卒就職サポーターの増員、大学等の就職相談員の配置促進、経済団体、業界団体に対する求人拡大の要請、未就職卒業者向けの職業訓練の実施および訓練・生活支援給付の拡充、「4月就職以外の道」の選択支援(企業に対する中途採用・通年採用の拡大要請や学生・生徒の学校での学び直しや地域活動参加への支援など)といったもので、迫力不足は否めない。

 日本の雇用制度・慣行に関しては、すでに数年前から経済協力開発機構(OECD)が年功序列、終身雇用制度をもう少し柔軟に運用ないし修正しないと、新卒者を含め、若年層に雇用調整のシワが寄りすぎると警告している。新卒一斉採用という日本的な雇用慣行は高度成長期、あるいは不況が軽微、短期な場合には「人材の同質性に企業が競争力を求める場合には好都合だった」(山田久『雇用再生』、日本経済新聞出版社、2009年)が、バブル景気崩壊後の長期不況・停滞のもとでロスト・ジェネレーションの発生につながってしまった。新卒者は雇用されても「非正規社員」としての雇用の場合には正社員になれる可能性が低いということが、問題を深刻にしている。新卒一斉採用のもとで卒業時の景気情勢が若者のその後の人生を規定してしまう結果となっている。

 若者が夢を持てない社会の将来は暗い。社会の活力が失われる。若年層の非正規社員化、フリーターの増加は晩婚化、非婚化、少子化の傾向を増幅する。新たなロスト・ジェネレーションを生まない努力が政府の政策においても経済・産業界のレベルにおいても肝要である。