消費衰退の分析=年収デフレの効果 2/2 | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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消費衰退の分析=年収デフレの効果 ~中流階層の減少と低い所得世帯の増加~
(第一生命経済研究所 経済調査部)


70歳以上で進む年収階層の低所得化

 ところで、給与所得層の中流層が大きく減少してしまい、低所得層が増えたのはなぜなのだろうか。直感的には、雇用形態が非正規化したことが大きいように感じられる。

 そこで、年齢別に年収階層別の世帯状況がどう変化したかを時点比較してみたい。2009年と2000年の各年齢に占める年齢階層別の世帯割合を比べると、2009年の70歳代は2000年のときに比べて、250~400万円の所得層の割合がかなり高くなっている(図表5)。これは、高齢者世帯の中で、公的年金にだけ依存して生活している世帯が増えていることを反映しているのだろう。この状況について、よく考えてみると、高齢世帯の中で豊かな高齢者が減ってしまっていることを意味する。つまり、かつては高齢者世帯の中でも、財産所得や事業収入・勤労所得によって公的年金で生活している人以上に所得を得ている人は結構多く居たはずだ。しかし、現在はそうした人は以前よりも少なくなっている。総じて高齢者でさえも「豊かな老後」を過ごせる経済的余裕がなくなっていると推察される。

 さらに、年代別の構成で特徴的な変化は、40・50歳代でも年収800万円以上の所得を得ている世帯が大きく減っていることである。これは、勤労者の年功賃金カーブがフラット化してしまい、中流の所得階層になることができない勤労者が増えていることを示唆している。年功賃金カーブがフラット化していくことを「時代の趨勢」として是認すると、正社員の処遇や報酬還元が抑制されることに鈍感になる。それが長期間続いた場合には、消費産業にも深刻なダメージが及ぶ。現在の消費衰退が、単に循環的な不況のせいではなく、長期的な賃金構造の変化によってもたらされていることがわかるだろう。

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成長から分配、そして再分配へ

 ここまでみてきた分析から、筆者は「少子高齢化が進むから、経済構造が疲弊する」という構造論を強調することが、消費衰退の裏側にある賃金デフレの原因を曖昧にしてしまっていると感じる。消費衰退の問題は、個別企業の責任だけではない。デフレの問題も、人口減少や金融政策の責任に帰するだけでは十分ではない。

 不況になって勤労者の報酬をカットすることは企業にとって、存亡を維持するためにはある程度必要なことである。しかし、それが極端に進み、慎重姿勢が長期化すると、数年間ごとに繰り返される不況局面では勤労者の賃金水準自体が階段状に切り下げられていく。気がついてみれば、勤労者は驚くほどに貧しくなっている。

 ここ数年の賃金体系では、中堅の正社員がターゲットにされながら、年功賃金カーブが緩やかに変わり、報酬還元進みにくくなっている。そのことは、家計の購買力全体を地盤沈下させて、回りまわって消費産業にダメージを与えている。

 日本経済がデフレ構造から抜け出すためには、まずは、中長期的な生産性上昇の戦略をしっかりと築くことだ。しかし、そうした成長戦略だけを志向しても、デフレから脱却する十分条件は整わない。そこでは、家計の購買力の向上を企図しながら、中流の所得階層を増やすような分配面への配慮も必要になる。確かに、家計の低所得化を是正する措置も必要にはなるが、所得分配の問題はある程度成長を得てから底上げを促すことが適切であろう。

 筆者が不安に思うのは、こうした手順が民主主義の中では採用されにくいかもしれないという点である。よく考えてほしいのは、成長路線を図ることなく、所得分配のみを手厚くして、果たして持続的に国民が豊かになれるかという問題である。財政再建がいき詰まりつつある状況をみるにつけ、成長戦略を先に選択せずに、分配のみを追及しても限界があるという印象を抱く。政策の手順は重要であり、成長→分配→再分配、というルートを間違えると、成長も分配のいずれが大台無しになる恐れがある。

 今、必要なのは成長戦略を採ると同時に、正社員などの雇用創出を図りつつ、報酬還元のルートが目詰まりを起こさないように、労働政策もしっかりすることだ。