ギリシャ問題で見逃された2つの事実 | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

(仮)アホを自覚し努力を続ける!

アウグスティヌスの格言「己の実力が不充分であることを知る事が己の実力を充実させる」

ギリシャ問題で見逃された2つの事実 ~財政赤字削減計画の進捗状況とECBの適格担保基準~
(第一生命経済研究所 経済調査部)


(要旨)

◇ ギリシャの財政赤字は1・2月累計で前年比77.3%減。これは2010年通年での政府計画の3割減を上回るペース。政府の公表数値への信頼の問題が残るほか、今後の更なる景気下振れも予想されるものの、これまでのところ財政赤字の削減が計画を上回るペースで進んでいることは素直に評価したい。

◇ ECBの適格担保基準を巡ってトリシェ総裁は、さらなる格下げが行われないとの作業仮説が誤りであることが判明すれば、状況を注視すると発言。仮にギリシャ国債が格下げされた場合にも、適格担保基準の柔軟な運営をする可能性があることを示唆した。



 ギリシャ支援の具体策を巡って加盟国間の意見対立が続いている。一部報道では、ドイツとフランスがIMFの関与拡大を盛り込むことで合意に達したとのこと。25・26日のEU首脳会合では、何らかの支援計画が示される可能性が高まった。先の経済財務相会合でバローゾ欧州委員長から示された二国間融資のための資金ファシリティーにIMFがどのように関与するのか、それともIMF主導の支援計画にEU加盟国が資金拠出をするのか、具体的な落ち着きどころは今のところ見えてこない。こうしたなか、外国為替市場では、IMFへの支援要請の可能性が高まったことを受け、EUが自力での問題解決能力を失ったとの見方が台頭、ユーロ売りが加速している。だが、市場が然したる関心を示さなかった過去数日のプレス発表や関係者発言の中には、ギリシャ財政危機の今後を占う上で見逃せないメッセージも含まれていたように思える。そこで以下では、筆者が重要と考える2つの出来事を紹介したい。


 第1は、財政赤字削減計画の進捗状況についての最新のプレスリリースだ。22日にギリシャ財務省が発表した2月までの財政収支データによれば、中央政府の財政赤字は1・2月累計で9.0億ユーロと、前年1・2月の39.9億ユーロから77.3%減少した。歳入は前年1・2月対比で13.2%の増加と、2010年通年の政府計画の11.7%増加を上回るペースで拡大。燃料・タバコ・アルコール飲料に対する課税強化を反映した税収増、税還付額の減少、大企業に対する時限課税などが影響したとのこと。一方、歳出は前年1・2月累計対比で9.6%減少、これも2010年通年の政府計画の3.5%減少を上回るペース。健康保険・社会保障関連支出の抑制や一般経費の削減が影響した模様だ。

 そもそもギリシャ政府の健全化計画は、過大な成長率の前提に基づいていただけに、景気の下振れが予想されるもとで赤字削減が計画通りに進まない可能性が指摘されてきた。仮に3月以降も同様のペースで歳出削減・歳入増加が続けば、2010年の財政赤字は実額ベースで前年比6割減と、政府計画の3割減(名目GDP比で4%ポイント低下)を遥かに上回る計算となる(図)。財政改善を過大に見せる一過性の要因が含まれていないかなど、政府の公表数値への信頼の問題が残るほか、今後の更なる景気下振れも予想されるため、試算通りの赤字削減が実現する可能性はさすがに低いものの、これまでのところ財政赤字の削減が計画を上回るペースで進んでいることは素直に評価したい。


 第2は、ECBの適格担保基準を巡るトリシェ総裁の22日の発言だ。現在ECBは非常時対応の一環で、資金供給オペで担保として受け入れる国債の最低格付け基準を従来のA-からBBB-に引き下げている。仮にギリシャ国債がさらに格下げされた場合、本年12月に予定される適格担保基準の時限緩和措置の終了に伴い、ギリシャ国債は適格担保基準を満たさなくなる可能性が出てくる。これに関する質問に答えた同総裁は、「ギリシャ政府が現在公表している財政再建計画を完全に履行すれば、EUやECBがそうであるように、格付け機関や市場参加者も、それが大胆かつ説得力のある計画と受け止めるため、さらなる格下げが行われることはないだろう。したがって、現在予定されている通り、適格担保基準を元に戻すことに何ら障害はない。仮にさらなる格下げが行われないとの作業仮説が誤りであることが判明すれば、我々は状況を注視する」と発言した。

 トリシェ総裁は1月14日に同じ問いに答え、「いかなる国も特別扱いしない」と発言。ギリシャ救済を巡る金融市場の思惑を戒めたことは記憶に新しい。今回の発言を受け、仮にギリシャ国債が格下げされた場合にも、適格担保基準の柔軟な運営をする可能性があることが示唆された。「市場の懸念は別にある」と言ってしまえばそれまでだが、今後ギリシャ財政問題が長期化した場合の将来的な市場の重石が取り除かれた点で重要なメッセージであったと考えている。

(仮)アホを自覚し努力を続ける!




※1)試算の前提となる2009年値が公表資料以降にリバイスされている模様で、この試算はあくまでも目安程度のものと考えていただきたい。プレスリリースでの1・2月累計の前年比の伸び率と、公表数値を元に算出した前年比の伸び率が一致しない。