渡部悦和・佐々木孝博『現代戦争論―超「超限戦」 これが21世紀の戦いだ』(ワニブックスPLUS新書 2020年)読了。
渡部元陸将と佐々木元海将補による1冊。
平成11年(1999)に出版された、中国人民解放軍の当時の現役大佐2名の手になる『超限戦』が今年復刊したこと(角川新書 2020年)と、中国当局の新型コロナウイルスに対する対応が「超限戦的」であったことが、本書執筆のきっかけになったとのこと。
本書では第一章で現代戦について説明し、第二章から第四章までで中国・アメリカ・ロシアそれぞれが考えている現代戦についての説明、そして第五章で日本が今後どう現代戦と向き合い、対応していかなければならないかを述べている。
そして、本書では主に情報戦、宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦、AIの軍事利用について取り上げている。
これらの領域に世界の軍事大国であり、また隣国であるアメリカ・中国・ロシアがどのように考え、対応しているのかが本書ではよく分かる。
そして、これらの領域で日本が完全に立ち遅れているということもよく分かる。
「超限戦」の視点に立てば、あらゆる分野・領域が軍事、戦争に関わってくる。
上で挙げたような、情報戦、宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦、AIなどは、当然のことながら科学力、技術力がモノを言ってくると思われるが、それらの分野で立ち遅れているということは、日本は強みであるはずの科学力、技術力でも米中露の後塵を拝している、ということではないか?
この他にも現代戦を考えた場合の日本の課題が様々挙げられているのだが、では、まずは何をしなければならないか。
本書の総括である第五章でも、
「防衛費の目標については、自民党の安全保障調査委員会が2017年6月に提言したGDP2%(NATOの目標値でもある)が基準になります。一挙に2%は難しいので、防衛費を毎年7%増加していくと6年後にはGDPの1.5%、10年後にはGDP約2%になりますが、ぜひ実現してもらいたいと思います。」(p407)
と述べている通り、まずは防衛予算をきちんとつけることである。
結局のところ、何をするにも先立つものが必要なのである。
また、これは憲法典の改正などしなくても可能なことである。
本書では、現代戦における日本の出遅れの最大の原因は当用憲法九条にあるという。
そして、当用憲法九条や、これに起因する極めて抑制的な防衛政策が現代戦に悪影響を及ぼしているとし、
「現代戦における日本の出遅れをカバーし、中国の「超限戦」に対抗するためには、まず第九条を改正するか、少なくとも専守防衛などの過度に抑制的な政策を見直すべきです。」(p377)
としている。
確かに、当用憲法が戦後から現在に至るまでの日本国の一応最高法規であるから、防衛政策も九条の影響を受けるのは当然である。
そして、当用憲法九条の問題を否定するものではないどころか、非常に重大な問題であるとも思っている。
しかしながら、それは条文の改正をせずともできることを全てやってからやることであって、真っ先にやることかと言われれば、それは違うのではないか、と思う。
繰り返すが、九条の改正に反対だと言っているのではない。ただ、順序が違うのではないか、と言っているのである。
九条の解釈など制定当初と昭和39年以前と昭和39年以後では全く違う。
同じ文言なのに真逆と言っていいほど異なる解釈ができる条文など、変えても変えなくても同じように運用できるのだ。
つまり、解釈さえ昭和39年以前のものに戻せば、防衛政策にいい影響を与えることも可能である。
そして、前述の予算の増額も、憲法典を改正しなければできないというものではない。
経済の問題や憲法解釈の変更の問題なども含め、憲法典を変えずともできることは山ほどある。
日本が現代戦の立ち遅れを取り戻すためには、まずは防衛体制の充実の前提となる部分の改善・強化が必須である。
道のりは遠いように感じるかもしれないが、全てはそれからではないだろうか。
ともあれ、現代戦を考える際に、超限戦的な手法に対抗するには、それを超えるもの、すなわち筆者の言う「超”超限戦”」というものを考えなければならない。
その問題意識をきちんと持つことができる1冊である。