三土忠造『経済非常時の正視 緊縮財政の批判』(呉PASS出版 2020年)読了。
タイトルに惹かれて購入。それと、三土忠造という名前、どこかで見た名前だったので、気になったというのもある。
三土の略歴を紹介する。
三土忠造(みつち ちゅうぞう、1871年8月11日(明治4年6月25日) - 1948年(昭和23年)4月1日)は、明治から昭和にかけての日本の政治家。
讃岐国大内郡水主村(現在の東かがわ市)出身。
長年立憲政友会の衆議院議員として党内にて重きをなし、内閣書記官長を振り出しに文部大臣・大蔵大臣・逓信大臣・鉄道大臣・枢密顧問官・内務大臣(一時運輸大臣も兼務)を歴任した戦前政界の重鎮である。
(Wikipediaより転載)
ということで、政友会の重鎮である。
さて、内容であるが、タイトル通り徹頭徹尾井上準之助の緊縮財政への批判である。
読んでいて、現在の日本のことを言っているのではないかと思ってしまった。
170頁とそれほど厚くもなく、分かりやすく解説してくれている(金解禁に関わる話が主なので、金本位制の知識などは頭に入れておいた方がいいと思うが)ので、比較的読みやすいものと思う。著者も、広く読まれることを前提に書いている。
現代の日本に当てはめても違和感が全くないような部分を引用してみる。
例えば、
「…殊に消費節約は抽象論として何れの時代に於ても常に吾々の守るべきことではあるが経済活動の萎微不振というべき現下の如き情勢に於て為政者が大声呼叱して之を奨励するが如きは却って益々人心を萎縮せしめ、経済界を不況に導く所以であって、甚だ時宜に適せないと思う。」(p152)
「…然るに現内閣は我が財政経済の情勢を実際よりも遥かに悲観的に宣伝し、且つあらゆる方法を以て緊縮節約を唱道するものであるから、(中略)益々人心を萎縮せしめ、不景気はいやが上に深刻となり、生活不安の恐怖に駆られる者が日一日と多くなって来つつあるのである。」(p169)
というようなところは、なるほどその通り、と思わされる。
現在は金本位制ではなく管理通貨制であるので、そのあたりの時代背景などを考慮しても、金解禁によるデフレをいかに脱却すべきかを考察している本書は、現在の日本の経済状況を考える上で非常に有用である。
その一方で、、戦前本書の著者の三土や高橋是清、石橋湛山らデフレをデフレを脱却するための正しい経済政策を訴えていた人々がいたにもかかわらず、なぜその正論が通らなかったのか、というところも押さえておかないといけないだろう。
現在の日本の状況が当時と似ているということは、今正しい政策を訴えても、またしても潰されるということもありうるからだ。
しかし、我々は既になぜ正論が通らなかったのか、その歴史・理由を知っている。だから、正論を通すためにどうするか、その対策は立てられるはずである。同じ失敗を繰り返し、国を亡ぼすようなことはあってはならない。
これまで敗れてきた分、此度こそは勝たなければならない。
そのために、まずは自分のできることを着実に!