白人になりたい日本人 | Kura-Kura Pagong

Kura-Kura Pagong

"kura-kura"はインドネシア語で亀のことを言います。
"pagong"はタガログ語(フィルピンの公用語)で、やはり亀のことを言います。

 Mrs. GREEN APPLEというバンドの『コロンブス』という歌のミュージックビデオ(MV)が問題となっている。このMVを観ようとしたらすでにネットからは削除されていたため、私は記事はスチル写真でしかこのMVのことを知らないが、コロンブスか誰かに扮したバンドメンバーが類人猿に人力車を牽かせたり、音楽を教えたりする様子には何かいやなものを感じる。

「差別するつもりはなかった。」

というのは言い訳にしかならない。

 そもそも『コロンブス』というタイトルにも違和感を覚える。コロンブスとは15世紀末、インドへの新航路を開拓しようとスペインから西へ航海してアメリカ大陸に到達した人物だが、その後この大陸で先住民が住むところを奪われ、アフリカの黒人が奴隷として連れてこられた歴史に思いを巡らすと、彼を英雄として扱う気にはならない。

 

 

 

 

 

 このMVの写真を見ていて、
「名誉白人」
という言葉を思い出した。
 かつて南アフリカ共和国で人種隔離政策がとられていた時、多くの国がこの国に経済制裁をしていたのに対し、日本の企業はこの国から大量の地下資源を輸入した。そのとき南アフリカ政府は日本国民を「名誉白人」だとして白人専用の施設の利用を認めた。
 日本に限ったことではないだろうが、白人に対する劣等意識の裏返しで、自分たちの国は他の非白人国より優れている、と思いたがる人が結構いるようにおもう。そういう人のことを私は「名誉白人」と呼びたくなる。
 
 私の上司だった人で、「名誉白人」がいた。
 
 私は理系の大学院を中退して、同じ大学の別の研究室の研究員として就職したのだが、そこの上司だった人がそういう人だった。夜遅く仕事をしているときはクラシックを流していたので最初彼は芸術好きだと思ったが、彼の好きな芸術は西洋のものだけで、私が日本の民謡や古典芸能に関心を持っていることに対しては冷ややかだった。 
 
 大学の研究室というところは、外国からの研究者がよく来る。彼らは自分と訪問先の研究者の研究について議論し、情報交換をするために来るのだが、大学内で議論や講演会をやった後、街なかの飲食店で懇親会をすることがある。
 そして韓国の研究者が来た時のその上司の態度がひどかった。飲み会で乾杯をする前から上司は韓国人に対して英語でまくしたてる。
「お前たち韓国人は日本を侵略者だというが、キリがないからそういうことはやめろ。」
韓国人研究者は苦笑いをして黙って聞いている。酒も料理もまずくなる。
そんなことが2度あった。
 
 研究室にはキューバ人の女性留学生がいたのだが、その上司は白人と黒人の両方の地を否定るであろう彼女のこともバカにしていた。
 研究室の行事で、大学から車で2時間くらいのところにあるセミナーハウスでセミナーを行なったときのことだ。夕食前に近くの温泉街にある公衆浴場に皆で行ったのだが、風呂から出た後、その上司はキューバ人に
「差別されなかった?」
と薄笑いを浮かべて聞いたのだ。留学生の彼女は日本語で日常会話ができて、公衆浴場では地元の女性と会話を楽しんだようだが、それに冷や水をかける一言だった。
 

 

 

 先述のMVだが、Mrs. GREEN APPLEのアーティストたちは歴史を知らない、という批判があった。いや、彼らは歴史を知っている。

「世の中には優れた者がいて、彼らが劣った者を支配する、そして、自分は優れた者の側にいる。」

彼らやその他MV制作に関わった人たちの頭の中には無意識のうちにそういう「歴史」が入り込んでいたのではないか。」