完結!「ゴールデンカムイ」 | Kura-Kura Pagong

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"kura-kura"はインドネシア語で亀のことを言います。
"pagong"はタガログ語(フィルピンの公用語)で、やはり亀のことを言います。

 活劇漫画『ゴールデンカムイ』がとうとう完結した。2014年から週刊漫画誌『ヤングジャンプ』に連載されていたこの漫画もとうとう最終回が雑誌に掲載され、今月(2022年7月)には単行本の最終巻(31巻)が発行された。

 私がこの漫画を知ったのは東京・新大久保のハルコロという店で単行本を手にしたのがきっかけだ。この店はアイヌ女性が経営するアイヌ料理店で、私は時々ここで吞む。漫画のヒロインはアシリパというアイヌの少女なのだが、そのアシリパの「リ」という文字がほかの文字より小さく表記されている。女将の宇佐照代さんになぜか、と聞いたらアシリパのリは子音だけの音で、アイヌ語をカタカナ表記するときにはそういう音は小さい文字で表記するのだという。その時点ですでに単行本が何点か出ていたが、私が興味を持ったのは第3巻の表紙に描かれた、長髪の老人・土方歳三だ。私は生まれも育ちも東京の多摩地方だが、土方歳三は多摩地方出身の歴史上の人物、として多少関心を持っている。そして、史実では明治初年の函館戦争で戦死しているこの男が網走監獄に40年近く潜伏していた、という設定に興味を持って私は単行本を買い求めた。

 

 物語はこうだ。物語の主な舞台は明治末年の北海道。日露戦争の旅順での戦闘を生き延びた元兵士・杉元佐一は北海道のどこかにアイヌが隠したという金塊を探している最中、アシリパというアイヌの少女と遭遇する。その金塊とは和人の侵略者に武力で抵抗しようとしたアイヌ達が川から採取し、秘匿した砂金のことなのだが、砂金の採取に関わった一人のアイヌが金塊の秘密を共有するほかのアイヌを殺害したという。その犯人とされる人物がアシリパの父であり、彼女は事の真偽を確かめようとしていた。それから二人の金塊探しが始まった。

 

 北海道の自然の中で生き抜く知恵を教わる師匠、そして妹のように守るべき存在、杉元はアシリパのことを思っている。アシリパにとっての杉元は友であり、父代わりの存在であり、ひそかに恋する相手である。アシリパの年齢設定は思春期の入り口の12,3歳だろう。彼女がそれよりも成長した女性という設定だったらこの物語は安直な恋愛アクションになっただろうが、そうはいかない設定がこの物語の面白さの理由の一つだろう。

 

 莫大な金塊をめぐって様々な欲望がうごめく。蝦夷共和国の夢を捨てていない土方。北海道を軍事独裁国家として独立させようとしている職業軍人・鶴見中尉。

 鶴見中尉、彼を信奉する部下は数多くいて、ヒールとしての彼が物語を盛り立てる。最終盤で彼が満州を日本の生命線だと語るが、実際多くの指導者が彼と同じような考えを持ち、日本を破滅に導いたのはご存じの通りた。

 他にも金塊を狙うもの、金塊の秘密にかかわるものが数多く出てきて、それらのキャラクターの多くが実在の人物、というのもこの漫画を面白くした要因である。

 漫画のほぼ全編にわたり、杉元とアシリパの盟友として活躍する白石吉竹は網走監獄からの脱獄を繰り返した脱獄王がモデルだ。柔道家の牛島辰熊と木村正彦をモデルにした牛山辰馬や殺人鬼の家永カノもキャラが立っている。

 

 

 巨大な金塊は結局どうなったのか、金塊争奪戦で誰が死に、だれが生き延びたのか、をここでは書かない。ただし、その後アイヌと和人によってアイヌ文化が継承され、新しいアイヌ文化が創造されている、という最後の説明書きは面白くなかった。明治に入って以降、アイヌがいかに生活の場や言葉を奪われていったのか、その文化を継承するのにどれだけ多くの人が努力したか、そういう話はアクション漫画では取り上げきれない、とわかってはいるが…。

 『ゴールデンカムイ』の実写映画の制作が進んでいるが、アシリパと近い年代の実在のアイヌ女性・知里幸恵をヒロインとする映画『カムイのなげき』(仮題)も来年(2023年)秋公開を目指して制作中だという。知里幸恵はアイヌ語口承文芸を初めて文字に記録し、日本語に翻訳した人だ。この映画も大いに注目を浴びたらいいと思う。