カニとスシ | Kura-Kura Pagong

Kura-Kura Pagong

"kura-kura"はインドネシア語で亀のことを言います。
"pagong"はタガログ語(フィルピンの公用語)で、やはり亀のことを言います。

 

 京都鉄道博物館、週末になると親子連れで賑わう、鉄ちゃんのテーマパークに「カニ」と呼ばれる車輌がある。2015年まで大阪ー札幌間で運転された豪華寝台特急・トワイライトエクスプレスに使用されたカニ24がそれだ。名前にカニはついても、別にハサミがあって8本足で横歩きする、食べたら美味しい生き物とは関係ない。

 

 

 これがカニ24の姿である。現在は濃い緑色に黄色い帯というトワイライトエクスプレスの塗装だが、元々は濃い青に白帯、というブルートレインの塗装だった。この車両は窓が少ない上に、ところどころにグリルが設けられている。この車両は客車とは言っても中に座席や寝台は設けられていない。中にあるのは巨大なディーゼル発電機である。この車両は電源車と言って乗客の乗る車両に電気を供給するための車両である。

 

 

 

 

この博物館では、カニ24を上から眺めるための通路が設けてある。カニ24の屋根はこうだ。発電機を冷却するためのラジエーターが4台並んでいる。運転中に発電機を点検する際、整備士は耳栓をして車内に入ったそうだ。

 

 さて、カニという名前の由来を説明しよう。かつて鉄道の貨車や客車には様々な重量や用途のものがあって、列車ごとにそれらの車両を組み替えていた。そして車輌の重量や用途は現場の職員にとって重要なものだった。そこで鉄道車両の「名前」にはそれらの情報を表す記号が付けられた。現在の鉄道車両でもっとも多く使われいる記号は「ハ」である。大都市圏のJRの通勤電車には「モハ」だとか「クハ」だとかいった記号がついているが、「ハ」は普通車を表す。グリーン車ならば「ロ」。では「二」は何か?この車両が製造された1970年代、国鉄では荷物輸送業務を行なっており、夜行列車も旅客とともに新聞を運んでいた。そして、この電源車に荷物スペースが設けられたので荷物車を表す「二」が付いた。なお、電源車の中には荷物スペースのないものもあったので、そういう車輌には保線用や職員訓練用の車輌と同じ「ヤ」がついている。

 「カ」は重量を表す記号である。国鉄車両の重量を現す記号は7種あったが、この電源車は47.5トン以上という最も重い階級の「カ」である。ちなみに、この電源車とともに編成をなす寝台車にはこれより3階級下、32.5トン以上37.5トン未満の「オ」が付けられ、「オハネ」(B寝台車)、「オハネフ」(車掌室付きB寝台車)、「オロネ」(A寝台車)というように名前が付いた。

 この電源車と呼ばれる車輌は昔から存在していたのではない。20世紀前半は、客車の車軸から伝わった動力で発電する発電機と蓄電池を組み合わせて客車内の電灯の電気がまかなわれた。暖房には機関車(電気機関車やディーゼル機関車の場合は暖房車または機関車に備えられたボイラー)から供給される蒸気を用いた。冷房はもちろんなかった。第2次世界大戦後の混乱期を経て、高度経済成長期になると、鉄道のシステムも大きく変わっていった。そして1958年、長距離列車用に20系と呼ばれる寝台客車が開発された。初代のブルートレインである。当時は走るホテルとも呼ばれた。そこで初めて導入されたのが電源車である。その後、第2世代の寝台客車として14系や24系と呼ばれる系列の客車が製造された。カニ24はその24系の電源車である。だが、新幹線が南へ北へと伸び、高速道路網や航空網が発達すると夜行列車は「時代遅れ」の烙印を押され、過去のものにされてしまったのである。

 

 なお、京都鉄道博物館ではスシ24という車両も展示されている。トワイライトエクスプレスで、ホテルのレストラン並みの食事を提供していた車輌だ。スシとは37.5トン以上42.5トン未満(ス)の食堂車(シ)という意味だ。この車輌で寿司を提供していた、というわけではない。