フェルメールの 小さい絵画に 人だかり
小林英樹 『フェルメールの仮面』
角川書店 2012.8.31発行
- フェルメールの仮面/角川書店(角川グループパブリッシング)
- ¥1,995
- Amazon.co.jp
★本の内容(Amazon.co.jpより)
高い模写能力をもつ折原祐一郎は、破格の条件である
絵画の修復を頼まれるが、それはフェルメールをめぐ
る陰謀の始まりだった。
贋作疑惑が囁かれるフェルメールの絵画を描いたのは
何者なのか?
迫真の美術サスペンス!
折原祐一郎は画才を期待されて芸大を受験するが果た
せず、パリの私塾で学んだ後に小樽で絵画塾を手伝っ
ていた。
画塾の娘・繭と平穏な日々を送っていたある日、かつ
ての恩師シャセリオから一通のメールが届く。
祐一郎の高い模写能力が買われ、19世紀の模写作品の
修復依頼が入ったという。
破格の好条件に一抹の不安を抱きながらも祐一郎は
小樽の美術教師、柚子とフランスのモルレへ飛ぶ。
そこで“あるフェルメールの絵画”について書かれた
謎めいた手記を見つけるが、それはフェルメールの
贋作をめぐる陰謀の始まりだった…。
暗き栄光と平凡な将来。
若き画家が選ぶ道とは―。
完全復元模写をめぐる物議を醸す問題作。
★ここだけの話
著者は、東京芸大卒で愛知県立芸術大教授も務めた方
です。
2000年に『ゴッホの遺言』で日本推理作家協会賞を
受賞しており、その後ゴッホに関する著作を多数執筆
しています。
今回の書き下ろし作品は、一転してフェルメールと
なっています。
しかも30数点しか残されていない彼の作品の贋作に
かかわる興味深い内容です。
私もフェルメールの絵が大好きで、オランダ、ドイツ、
フランス、アメリカなどを旅行した際、現地の美術館
で鑑賞してきました。
大体全作品の2/3くらい見ています。
最近の日本の展覧会で展示されるのは、すでに見た物
ばかりなので、見た点数が増えず残念です。
今回の作品はフェルメールの生きた時代ではなく、
1799年~1835年(一部1842年)のフランスが第一の
舞台、そして現代の日本(主に小樽)とアメリカ、
フランスが第二の舞台となっています。
この二つの時期に発生した、フェルメールの絵のニセ
モノ作りが物語の中心です。
有名な絵の模写は、勉強のため、あるいは個人的に
楽しむためのものなら問題はありません。
ところが商売として儲けるために、これを悪用すれば
ニセモノ・贋作となります。
このあたりをたっぷりと楽しめる内容です。
また、フランスの美術史、新古典主義やロマン主義の
時代背景も当然のことながら、しっかりと描かれて
いて、とても勉強になりました。
最後、贋作暴露までが大変スピーディに展開し、読ん
でいてワクワクしました。
主人公の折原祐一郎(なぜか折原一を意識しますが)
と謎めいた動きをしている(一体誰の見方なのか)
夏目柚子はどうなってしまったのでしょう。
二人とも行方をくらましたまま、物語は終わってしま
うのです。
ミステリの終わり方としては消化不良ですが、本の帯
に美術サスペンスと書いてあるので、これで良しと
しましょう。