掏摸
中村文則の8冊目の単行本であり大江健三郎賞を受賞した
2009年の著作「掏摸」のあとがきで中村は自身の事を
「小さい時、遠くに、塔のようなものを見ることがあった」
と記している。
その当時、あらゆるものに背を向けようとする中村文則を
肯定も否定もすることなくそこに立っていた塔。
中村文則が見た塔、そして中村の分身である
本作の主人公の天才的すり師が子供のころ見て、
成人したら見ることがなくなり、
ある事件で再び見た塔とは、
聖母マリアのような慈愛に満ちた存在であり、
かつまた人を超越し、自らの運命を見通している。
絶対的な神の象徴であったのか。
命令されたある事を成し遂げないと
自分にとって現在一番気にかかっている人が
殺される。
但し成功しても命の保証は無い。
自分のすべての運命が一人の他者の手に握られ、
ただ一人の絶対者に隷属する不条理な人生を歩む男。
子供の頃から集団と馴染めず、孤独な中で万引きをし、
成長するにつれて掏摸を生業としてきた男
この男の心に引っ掛かったのは、自堕落な母親に万引きを
強制され、母親が連れ込む男の暴力を振るわれ続けている、
汚れた衣服、破れた靴を身に着けた少年であった。
世間に馴染めず、アウトローとしての人生を送ることで、
唯一無二の自分自身の存在価値を確かめる。
今日はサン・ジョルディの日、
人類の普遍的な難題”不合理、不条理”を考える中村文則の「掏摸」は
世界中の読書家を魅了している。






