赤いコーリャン:紅高粱
何と荒々しく、心に響き、かつ心象的な映像であろうか、
色彩のもたらす強烈な力に圧倒された、
1987年の張 芸謀(チャン・イーモウ)監督第1作の
「赤いコーリャン」。
「紅高粱」の題名通りの、紅色、金赤、朱赤と
革命そして人間の血を象徴する「赤」色がこの作品を支配する。
青島を最大都市として黄海、渤海湾に突き出した
山東半島を領する中国山東省。
日本人居留民の保護及び治安維持を口実に1928年に
日本が陸海軍を派遣したこの時代の山東省を舞台とした
「赤いコーリャン」は“抗日ゲリラ”撲滅を名目として、日本軍兵士が
地元の農民・一般市民に対して行った、考えられる限りの蛮行・
残虐行為を克明に描いている。
背の高さ以上に伸び、大地を覆う高粱畑、
蒸留する前の褐色でありながら時に血の色のような高粱酒、
日本軍により大切な人を奪われた少年は高粱畑に立ちつくす。
因習、体制の中で希望を持って生きる人間がその原動力としている
他者に対する“愛情”、
“愛情”を描く事はチャン・イーモウ監督のライフワークであり、
この作品でも、時代に翻弄される人々の心を
それ自体が心に残る見事な映像で描ききっている。
黄色い大地(黄土地)
時は日中戦争勃発から2年を経た1939年(太平洋戦争開戦の2年前)、
場所は北京の西、黄河中流、黄土高原の中部に位置する
中国陜西省北部の田舎の村。
村人全員が集まって婚礼の祝いを行っていた会場に、
軍隊を鼓舞する目的で各地の古来の民謡を集めるために
中国共産党軍(紅軍
:通称八路軍)から派遣された
文芸部員の顧青(クーチン)が訪れる場面から、
時代、因習、国家体制に翻弄された人々のドラマは始まる。
本人が希望し、この村の極貧農家に宿泊した顧青。
農耕のための豊かな大地、豊かな水とは全く無縁で、
50-150センチの深さの黄土に覆われ雨量の少ないこの地域、
何処までも続くはげやまのような黄土色の丘陵地帯の
小高い丘に建てられたあばら家では、この場所から毎日
片道約5キロかけて黄河が流れる大地まで降り、
家族の為の命の水をてんびん棒の両端につり下げた桶で
運び続ける主人公の少女翠巧(ツァイチャオ)と
無口な弟そして極貧の生活を長く続けている父が、
数年前に収穫できた最低量の雑穀類をお湯に浮かべた
粥類で生活していた。
1930年代後半の中国の田舎では、娘を嫁がせることは貧しい家族に
お金をもたらす手段であり、新しい時代の象徴でもある八路軍の
好青年顧青を知ることで、こことは違う世界を知った翠巧は
親が決めた婚礼の前に、これまでの生き方を断ち切ろうとするが、
党の方針、過酷な自然、運命がその前に立ちはだかる。
この作品で特筆すべきはこの作品の3年後に「紅いコーリャン」を監督し
一躍世界にその名を広めた張 芸謀(チャン・イーモウ)が撮影監督を
務めたその映像。
無機質な大地と黄河の黄土色、
覚悟を決めた翠巧の赤色の服、
太鼓や鐘をうち鳴らしながら踊り歌う、
スクリーンからはみ出しそうな躍動感ある八路軍の様子、
全体的にいつも黄砂のスクリーンに覆われているような印象の画面の中で、
チャン・イーモウの色彩の世界が鮮やかだった。
「モールス」(Let Me In)
ザ・ロードで豊かな感性を持った天使のような少年を演じきった
コディ・スミット=マクフィー(4.17日現在15歳)が
本作でも、家庭的には恵まれず、外見はひ弱であるが、
愛情に飢えているが故に、善悪を超越した究極の愛に
邁進する繊細な少年オーウエンになりきり、
同じく現在15歳のクロエ・グレース・モレッツが
オーウエンの心を捉え、その生き方に大きく影響を与える
美少女アビーを演じた2010年のアメリカ映画
「Let Me In」(邦題:モールス).
永遠の命を持つヴァンパイア(吸血鬼)。
本作は永遠の命を持つ年齢不詳の美しい少女アビーと、
学校ではイジメにあい、父とは別れて、
異様なほど信仰心の篤い母と二人で暮らしている
孤独な少年オーウエンの切ない初恋の物語。
一種の“ヴァンパイア映画”なので、当然殺伐とした
場面もあるが、この映画の本質は
少年と少女の純愛映画であった。
アビーの真の姿を知ったオーウエンを追いかけ、
オーウエンの家の戸口でアビーが言った言葉が
「Let Me In」=(家の)中に入っていい?
この言葉に一瞬躊躇したオーウエンは
孤独なアビーの心を自分の心の中に受け入れる決意をする。
永遠に12歳の少女であり続けるアビーと
人間として成長するオーウエン、
ある事件でアビーに命を助けられたオーウエンは一生をアビーと共に
暮らすことを決意し、二人だけの旅に出る。
爽やかな印象の夢の物語。




