本当の気持ち#5 | 巡り巡って

巡り巡って

韓国ドラマ「宮〜Love in Palace〜」の二次小説のお部屋です

「バカ!!シン君のバカ!!!」

 

チェギョンはシンには秘密の絵を描く作業場…「心休まる場所」に

来ていた。

小屋の中で大声を出し、鬱憤を晴らしている。

 

「おや、チェギョン様…」

 

そこへこの場所の提供者でもある庭師のキムが訪れた。

忘れ物を取りに来たキムはこの小屋から聞こえる声に不審人物が

入り込んでいるのではないかとそっと中を窺うとチェギョンがいた

という訳だ。

そのチェギョンは涙で顔がぐしゃぐしゃになっていてとても妃宮とは

思えぬ出で立ちである。

キムは一瞬驚いたものの、何かあったのではないかと声を

かけたのだった。

 

「キムおじいさぁん…」

 

何とも情けない声を出す。

だが妃宮としてこんな姿を見られるのはマズイと思ったのか、涙を拭い

必死で笑顔を作った。

 

「えへへ、こんばんは」

「こんばんは、チェギョン様。如何なされましたか?殿下と喧嘩でも

されましたかな?」

 

冗談っぽく言ってみるがズバリ確信をつかれたチェギョンは再び涙が

零れた。

 

「どれ。私でよければ話してみてください。人生の先輩として何か

お助けできるかもしれません。話して楽になるという事もありますしな」

 

そう言われても、シンの公務に本命の女性が極秘で行くなんて

口が裂けても言えない。

全部を話す事は出来ないが、言える範囲内で話し始めた。

 

考え事をしていて皇后に呆れられてしまった事。

それをシンが知り、怒られてしまった事…。

 

「でも…でも私だって頑張ってるんです。

王族であれば知っている事でも私は知りません。

王族であれば出来る事でも私は出来ません。

だから人一倍努力が必要なんです。私の失敗はシン君の失敗でも

あるんです。

私のせいでシン君が悪く言われるのはおかしいです!

私の失敗なんですから!

シン君に恥をかかさないように必死で勉強してるのに…それなのに…」

 

そう言うと俯いてしまったチェギョン。

 

「チェギョン様は余程殿下の事がお好きなんですなぁ。殿下が羨ましい!

殿下は幼い頃からあの東殿にお住まいになっています」

「あ、はい。それは前にシン君から聞いた事があります」

「でしたらお分かりでしょう。まだ両親が恋しい時期に甘える事も

できなかったのです。

それ故、人とどう接して良いのか分からないんですよ」

「でも…」

 

少しの間沈黙が流れる。

キムはチェギョンが話し出すまでじっと待っていた。

 

「そうなんです。分かってはいるんです。シン君が感情を上手く

表現できないって。

だから今日の件も怒られましたけど、他に何て言っていいのか

言い方が分からないんですよね。

“怒られたって聞いたけど、何かあったのか?”“珍しいじゃないか、

どうしたんだ?”

そういう言い方をしてくれたら私だってあんな風に言い返したり

しなかったのに…」

 

ブツブツと口の中でまだ悪態をついているチェギョン。

何かを思い出し、勢いよく顔を上げた。

 

「あ!でも一度だけ謝ってくれました!」

 

それはシンが風邪を引いて寝込んだ時の事。用意したお粥を

チェギョンの腕にかけてしまった事を話した。

家族の皆には自分で怪我したと言ってあるから内緒だとイタズラっぽく

チェギョンは話す。

 

「あの時、謝ってはくれましたけど何て言うか謝り慣れてないというか…

謝る時でさえ皇太子なんです!」

 

その言い方にキムは思わず吹き出した。

 

「ホントですよ!上から目線っていうか…」

「それでも謝ってくれたのでしょう?あの殿下がですよ。

私の知っている限り人に謝るなんて事はしないでしょう。

殿下もチェギョン様の事を気にかけていらっしゃるという事ですよ」

 

少し前の自分なら。

その言葉を聞いて嬉しく思っただろう。だがシンにはヒョリンがいる

という事を今日改めて思い知らされたのだ。

嬉しそうに微笑む笑顔を張り付けて“そうだといいんですけど”

と答えるだけで精一杯だった。

 

そんな2人の会話を戸口で聞いていたチェ尚宮。

1日の殆どの時間をチェギョンと過ごす訳だから彼女が考えている事や

思っている事など最近では良く分かるようになっていた。

もちろんシンに惹かれているという事も…。

大学から東殿に戻ればシンの所在を聞く。

シン単独の公務があればニュースを必ずチェックする。

どんなに冷たくされても挫けずに話しかける。

初めのうちは、仲良く見せる為の努力だと思っていたが、最近は

そうではなく惹かれているからなんだと思い始めた。

それが確信に変わったのは、チェギョンがシンの看病をすると

言い出した時。

責任を感じているという言葉だけでは片付けられないものだった。

 

これから先、チェギョンは辛い思いをしていく事になるのは分かり

切っている。

 

― 私がお守りしなければ…―

 

チェ尚宮は強い意志を胸に扉を叩いた。

 

「妃宮様、お迎えに上がりました」