風邪#1 | 巡り巡って

巡り巡って

韓国ドラマ「宮〜Love in Palace〜」の二次小説のお部屋です

その日は、皇太子夫妻が揃って出席の公務だった。

 

夏から秋へと季節を変え、気温の変化も大きくなってきたこの季節の服装選びは難しい。

日中はぽかぽか陽気だったにも関わらず、もう少しで公務が終わるという夕方頃から灰色の雲が広がった。

冷たい風と共に降り出した雨。

天気予報では雨が降るとは言っていなかったから傘など持ち合わせていない。

屋外での公務だった為、急いで近くの建物へと移動する事になった。

 

シンは自分が着ていた上着を脱ぎ、チェギョンの頭からスッポリと被せた。

そして肩を抱きながら早足で移動する。

突然の行動に驚くチェギョン。

不思議そうにシンを見上げるが、頭から被っている上着のせいで彼の表情が見えない。

 

「ちょっ…シン君が濡れちゃうよっ!」

 

上着を脱いだせいで、シンはシャツ1枚しか着ていない。

その上冷たい雨が容赦なく降り注ぐのだ。

 

「いいから前を見て歩け」

 

それ以上何も言う事なく建物を目指した。

 

一足先に到着していたチェ尚宮からバスタオルを受け取ったチェギョンだが、シンのおかげで殆ど濡れていない。

代わりにシンがずぶ濡れとなっている。

中途半端になってしまったがここで本日の公務は終了となり、2人は

急いで東宮殿へ帰る事となった。

 

車の窓にはスモークが貼られているし、後部座席との仕切りを上げてしまえば外から中の様子をう窺う事はできない。

だからこそ、シンはブランケットに包まって皇太子らしからぬ姿でいられるのだ。

濡れてしまったシャツを脱ぎ、予備のシャツを着ているのだが冷えてしまった身体は中々体温を取り戻せないでいた。

 

「ごめんね…」

 

隣に座るチェギョンがポツリと呟く。

 

「私のせいで…」

「別にお前のせいじゃない。気にするな」

 

冷たく言い捨てるが、何処と無くいつもの覇気がないように思える。

 

「髪‥ちゃんと拭かなきゃ」

 

頭から被っているタオルに手をかけようとするのだが、その手は虚しくもシンに払われてしまった。

 

「大丈夫だから」

 

簡単に人を寄せ付けないオーラが感じ取れる。

チェギョンとしては何かしてあげたいと思うのに、シンにとっては迷惑なのだろうか…。

これ以上シンを不機嫌にしても仕方ないと、チェギョンは何も言わなかった。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

「お姉さん、私代わりますから」

「いえ‥妃宮様にそのような…」

「だって私のせいでシン君が…だから私が看たいの」

 

時刻は23時。

シンはあれから熱が出てしまい、寝室で眠っている。

単なる風邪だとの診断でホッとしているが熱が高く、女官が交代で看ているのだがチェギョンが自ら看病したいと申し出たのだ。

 

「しかし…」

「お願い!ね?ね?いいでしょ?」

 

チェギョンの押しに負けたのか、女官はチェ尚宮に了承を得ると「何かあれば連絡を」と念を押して去って行った。

 

シンの部屋に入り、寝室へ向かう。

薄暗い中でシンが呼吸荒く眠っていた。

そっと額に手を当てると熱く、先程よりも更に熱が上がったようだ。

チェギョンは用意していた冷たいタオルをシンの額に乗せた。

 

「ん…」

「あ、ごめん。起しちゃった?」

 

冷たさに薄っすらと目を開けたシンと目が合う。

 

「何故‥お前がここにいる…」

 

まだ意識がハッキリとしていないのか、喋り方がたどたどしい。

 

「だって…私のせいでシン君が風邪ひいちゃって…」

「別にお前のせいじゃない‥。それよりも…、ここにいると風邪がうつるだろ…。自分の部屋へ‥戻れ」

「嫌っ!戻らない!独りだと心細いでしょ?」

「別に…。今までも独りだったから大丈夫だ」

 

その言葉に驚くチェギョン。大きな目を更に大きくさせてシンを見つめる。

 

「そんなに驚く事か?僕は‥皇太子となった5歳の時からここに独りで住んでるんだ。

今更‥心細いとか‥感じる事はない」

「5歳って…、まだまだ子供じゃない…」

「仕方ない。そうなってしまったのだから」

 

そんな小さな時からこの広い東宮殿に住んでるなんて知らなかったチェギョンは驚くしかなかった。

まだ親に甘える年頃なのに、親から離されてここに独りで暮らしていたとは…。

 

「じゃあ今日は私がいるから!」

「ふっ…、同情か?お前がいなくても‥大丈夫だ。問題ない」

「でもほら!」

 

そう言うとチェギョンは布団の中に手を入れてシンの手を握った。

 

「こうすると安心するでしょ?」

 

チェギョン自身、大胆な行動だと思ったが、思わずそうしていた。

ドキドキしながらシンの反応を待つが、何も返ってこない。

やはり怒っているのだろうか、こんな私が看病だなんて軽々しく言ってはいけなかったのではないか。

そんな気持ちが押し寄せる。

 

「ごめんね。図々しかったよね‥。

私、そこのソファー…、ううん、部屋に戻るね。あとはお姉さん達にお願いするから。じゃ…」

 

手を離し、立ち上がって出て行こうとする。

 

「行くな…。ここにいろ…」

 

離したはずの手をシンが掴んだ。