プレゼント#2 | 巡り巡って

巡り巡って

韓国ドラマ「宮〜Love in Palace〜」の二次小説のお部屋です

「ちょっとー!聞いてる?」

 

どんなに説明しても反応のないシンにしびれを切らしたチェギョンが少し

大きな声を出した。

 

「きっ聞いてるさ!急に大きな声を出すなっ!それより…何でスーツなんだ」

 

別に理由など聞こうとは思っていなかったが、つい口から出てしまった。

 

「んー。何でだろうね?自分でもよく分からないんだけど…。

ホラ、シン君って何でも持ってるじゃない?

誕生日だからって欲しい物なんてないんだろうなー?って思ったの。

それに欲しい物なんて望めば手に入るだろうし。

ま、私もプレゼントできるほどのお金は持ってないしねー。

皇后様から刺繍を教えていただ事思い出してね。

“あ!この刺繍で何かプレゼントしよう”って閃いたの!

でもさ、刺繍だけだと寂しいかなーって思ってスーツまで作り始めたら

時間が足りなくって」

「本当に欲しい物は一生手に入らないさ…」

「え?」

 

ポツリと呟いたシンの一言にチェギョンが反応したが、シンはそれ以上何も

言わなかった。

 

「で?これとアルフレッドとどういう関係が?」

「忘れてた!んとね、スーツを作った時の余り布を捨てるのもったい

ないなーって!だからコレっ!!」

 

どこに隠し持っていたのか、チェギョンはシンの目の前にアルフレッドを

見せつけた。

そのアルフレッドはシンとお揃いのスーツを着ている。

 

「どうどう?完璧じゃない?我ながら器用だわ!って、これも作ってたから

遅くなったんだけどね。

可愛いでしょ?それに服着てると汚れも目立たないし、これ以上汚れる事も

ないし!」

 

次から次へと出てくるチェギョンからのプレゼントに圧倒されているシン。

 

「でもやっぱり間に合わなくて良かったのかもね。

細かく見るとやっぱり素人が作ったのがバレバレだもん。

シン君が恥かいちゃう」

 

いや、そんな事はない!本当に素晴らしい出来栄えだ。何も恥じる事など

ないんだ。金を出せば買えるような品物とは全然違う!

そう言おうとしたシンだったがチェギョンの言葉に遮られた。

 

「それでも…。一度でもいいからこれを着たシン君が見てみたいかな。

私たちが結婚してる間に…」

 

ほんの一瞬静まり返った部屋。

 

「あっ!変な事言ってごめんね!何でもないから!

このスーツは後でコン内官おじさんが収めてくれるって言ってたから!

じゃぁ!」

 

そう言うと脱兎のごとく出て行った。

 

― ふっ、逃げ帰るその様は小動物だな。可愛いヤツ…―

 

無意識にそんな事を思う自分がいた。

 

― はっ!?可愛いだと?今僕はアイツの事を可愛いと思ったのか!?

なんて不覚!!―

 

でも…。

いつもの自分なら、あんな奴が作った物など見向きもせずに“捨てておけ”と

言ったに違いない。

あまりにも素晴らしい出来栄えに驚いて言えなかったのか?

いや、そもそも素人が作った物なのに素晴らしいと思う事自体どうかしている。

 

そんな思いとは裏腹にシンはアルフレッドを抱え、チェギョンが作った

スーツをそっと撫でた。

 

「気に入ったの?」

 

予期せぬ声に驚いて顔を向けると……

 

「姉さん!!!」

 

途端にシンの顔に笑みが浮かぶ。

姉・ヘミョンの許へ駆け寄り抱きしめて、久しぶりに会う姉に喜びを伝えた。

 

「いつ帰って来たんだ?」

「んとー。一週間前くらい?」

「えっ?そんなに前に帰ってたのにどうして会いに来ないんだよ!

大体父上たちは知ってるのか?」

「当たり前じゃない。お父様たちには一週間前に帰った時にちゃんと

挨拶をしたわよ。あなた以外全員知ってるわ。

シンがどんな生活を送っているのか知りたくて、陰からコソコソ見て

たの!」

「コソコソって…」

 

シンは苦笑いしながらヘミョンの姿を想像した。

 

「シンが結婚するって言うから、ミン・ヒョリンと結婚するものだと

思ってたけど…。シンらしくない失敗ね」

 

“失敗”と言われ、ヒョリンではなくてチェギョンの手を引いて走った事だと

すぐに分かった。

と同時に、ヘミョンもこの契約結婚の事も知ったのだと悟った。

 

「ホント。お父様たちってば無茶な事を言うものね。

上手くいくのかしら?チェギョンだっけ?あの子だって可哀想だわ」

「可哀想?」

 

借金も宮が肩代わりし、短い期間ではあるが皇族として過ごせるのだ。

警察官になりたいと言ってなるのとは訳が違う。誰もが皇族になれる訳では

ない。

そんな貴重な体験をさせてやるのに何が可哀想なのかシンには

見当もつかなかった。

 

「…。シンに言っても分からないか」

 

宮以外で生活をした事があるヘミョンは感情豊かに育ったが、

宮で厳しく教育されて育ったシンは頭は良いかもしれないが、

喜怒哀楽というものが乏しかった。

だから、可哀想という感情を持ち合わせてないであろうシンに何を言っても

通じないと思ったのか、ヘミョンはそれ以上追及しなかった。

 

「ま、シン・チェギョンがどんな子なのか私はまだ分からないから何とも

言えないけどね。仲良くできるかしら?」

「さぁ…?僕に聞かれても分からないよ」

「ヒョリンよりも良い子であることを願うわ」

 

そう。ヘミョンとヒョリンは気が合わないのだ。

お互い気が強いせいか妥協や譲り合いという事をしない。

とはいえ、年上であるヘミョンに対してそんな態度を取るヒョリンに

問題があると言えばそうなのだが…。

 

「殿下、宜しいでしょうか。……。あっ、これは失礼致しました」

 

そこへコン内官が入って来たのだが、ヘミョンがいるとは思わなかったようで

すぐに部屋を出ようとした。

 

「大丈夫よコン内官。何か用事?」

「はい、申し訳ございません。殿下の忘れ物を先程預かって参りました」

 

言いながら取り出したのはMP3。ヒョリンからの誕生日プレゼントだ。

シンの誕生日パーティーでチェギョンがシンを呼びに来た時にベンチに置いて

来てしまったのだったが、今の今までその事に気付いていなかった。

パーティーから数日も経っているというのに。

 

「あ、あぁ…。ご苦労」

「いえ、とんでもございません。では私はこのスーツを収めて参ります」

 

深々と頭を下げて、コン内官はチェギョンからの誕生日プレゼントである

シンのスーツをトルソーごと衣裳部屋へと運び、そのまま部屋を出て行った。

 

「シン…。さっきと全然違う表情してるわよ?気づいてないでしょ?」

「は?何だよそれ」

「やっぱり無自覚か…。

チェギョンから贈られたスーツを見てた目と、それをコン内官から

受け取った時の表情よ!

そのMP3はどうせヒョリンからでしょ?“シンと私の思い出の曲よ”

とか言いながら貰ったなじゃいの?」

 

まるでその場にいたかのようにズバリ言い当てたヘミョンの言葉に

思わず目を見開く。

 

「あの子の考えそうな事じゃない。で?どうなの?MP3を貰った時と

スーツを貰った時の気持ちは。どう違う?」

 

どこか分かり切ったような表情のヘミョンがシンに問う。

だがシンは分かっていないようで、眉間に皺を寄せて考えているようだ。

 

「ふっ…。精々悩みなさい。少年よ!」

 

そう言うと、勝ち誇ったような笑みを浮かべながらヘミョンは部屋を後にした。

 

「少年じゃないし…」

 

ポツリとヘミョンに反論しながらも、頭の中はMP3とスーツを貰った時の

違いを必死で考えていたのだった。