日本版貨幣論の基礎(その5:最終回) | 気力・体力・原子力 そして 政治経済

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 (旧有閑爺いのブログ)

 前回は、江戸時代には既に、商業上の「支払い」にいわゆる「貨幣」が使われず、様々な形態の書面を用いて「決済」を行っており、この決済は常に「支払い」を繰り延べる形で運用されていたため(つまり貨幣による支払い清算が持ち越される形)、結果において「貨幣離れ」していた、ということを述べました。
 
 それらのことが、どういった経緯を経て現代の形に収斂していったかを今回は述べます。
 
 明治に入ってからも、しばらくは旧幕時代の貨幣(3貨)あるいは雑多な藩札・私札・米切手などがそのまま用いられていました。さらに新政府が、主として戊辰戦争の戦費を賄うために発行した「太政官札」が新たに加わりました。この太政官札は金貨の単位である「両」が使われておりましたので、基本的には4進法の紙幣でした。雑多な紙幣が大量に使われている中で、太政官札まで加わり、紙幣の使用状況は混乱を極めていたのです。
 
 この状態を整理すべく採用されたのが、10進法の新単位「円」の紙幣である「明治通宝(不換政府紙幣)」で、旧来の貨幣・藩札・私札・太政官札との交換が行われました。1両=1円としての交換は順調に進みました。また、この通貨は西南戦争の戦費を賄うことにも使われました。
 この紙幣はドイツで作られたため「ゲルマン札」と呼ばれ、洋紙を使用しており傷みやすかったため早い段階で「改造紙幣」と呼ばれる札に交換されました。この紙幣で初めて「政府紙幣」という名称が用いられました。
 
 実は「明治通宝あるいは改造紙幣」のみが流通していたわけではなく、国立銀行という名の民間銀行が多数設立され、その銀行が「銀行券」を発行していて、それも通貨として流通していたのです。この銀行は武士の家禄を廃止するときに与えた金禄公債と呼ばれる国債を設立資金に使えるという仕組みを持っていたので、旧武士のある種の救済の意味もありました。
 
 しかしこうした幣制は日本が近代国家になるためには不都合であったため、「日本銀行」が設立され「日本銀行兌換券」を発行し、「明治通宝・改造紙幣・国立銀行券」は全て回収されました。回収の完了したのは日露戦争当時であり、この時点で初めて「日銀券」のみが通貨となったのです。
 実は兌換券というものの兌換が行われたかというとそんなことは無く、紙幣のまま使われていたのであり、外国貿易において決済通貨の側面を持たせるために金(ゴールド)と紐付けをしただけであって、ほぼ兌換は有名無実でした。日銀券のみが通貨となっておよそ30年後には金兌換は停止され、停止後約10年で日銀券は不換紙幣となりました。
 
 つまり今から約80年前に日銀券が現状の不換紙幣となったわけで、この段階で完全に「貨幣離れ」が実現されたのです。
 ただし、金本位制の残滓は40数年前まで存在しており、金(ゴールド)は統制品で重量単価は日銀が決定しそれを維持していました。これがブレトンウッズ体制の崩壊により完全に自由売買が行われるようになったのです。
 
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 悪人正機さんの指摘「貨幣の位置付けが文化や時代によって異なるのは当然」、ということを日本の場合に当てはめると、実に雑多な異なり方があったわけですので、正しい指摘であるといえます。
 従って、MMT論者の述べる「貨幣には銀行貨幣と政府貨幣の2種がある」という決めつけが、如何にも「物知らず」な妄想的見解であることが分かると思います。
 
 また今も、商業上の決済に通貨を使用しない場合が多くあり、その場合は「決済=金銭貸借関係の成立」を意味しますので、ストック上での通貨の出入りに還元されます。従って、GDPを議論する場では原則的に通貨の出入りの議論(マネーストック、マネタリーベース、マネーサプライ等の議論)をすることは無意味であります。
 
 つまり、GDPの生成と通貨の存在は直接の関係がないわけで、「貨幣論」が経済に対するソリューションとなり得ないことは明白です。このことも「日本版貨幣論の基礎」として踏まえておくべき事柄です。
 
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 最後に、「政府紙幣」という話が話題に上ることがありますが、政府紙幣は政府支出を賄うために発行されるものですので、時の権力者が呆け物であれば、見境の無くなる恐れがあります。つまりタガが外れると、止めどが無くなるのです。
 ですので、危険な手法であり、政府紙幣の発行を禁止しておいた方がよいと私は思います。
 又、政府紙幣が正常に発行されたとしても、江戸時代の金貨・銀貨や明治通宝と同様に日本経済を支えるに足りる量はありませんので、銀行券やそれに類する書面が必要となるのは必然であります。
 
 つまり、現状の日銀券発行システム(貸し出し要請に印刷して応える)で通貨をめぐる問題は全て解決できますので、別の通貨を並行して導入するなど全く意味をなさない愚行にしか過ぎません。
 この意味からも「MMT論者が全く無益なことを吠えまわる愚者集団」であることは明白です。
 政府が金を使いたいなら、「借りて使え」で必要にして十分です。