≪え! 義母が居ない! ≫
今日は義母がショートステイに行く日。
お迎えは9時過ぎと言われている、まだ8時過ぎ、早いが義母の様子を見に行こう。
私は2階から降りる。
え!
義母の部屋の前にスリッパがない。
キッチンに電気がついている。
キッチンを開ける。
え!
居ない。
外に行った???
今日は土砂降りの雨であるが、また水遊びに行ったのか??
キッチンの勝手口から外を覗く。
居ない!
かなりの雨だ。
傘は持って行った???
いつも義母が使う傘はある。
靴は?
草取り用の靴はある。
長靴は?
無い!
やっぱり出て行った!
今日、夫は仕事が休みなので家に居る。
私は2階の夫に声を掛ける。
「お父さ~ん!」
夫は降りて来る。
「おばあちゃんが見当たらないから、ハウスに居るかもしれないから見て来て」
私は夫に頼む。
「見て来るわ」
夫は帽子をかぶり雨の中に出て行く。
私はもう一度家の中を確認。
トイレは?
居ない。
夏、義父が寝ていたベッドの部屋は?
居ない。
お座敷とその廊下?
居ない。
義母の部屋?
居ない。
やっぱり外か。
夫が帰って来る。
「居ない。ハウスの中に居ない。畑も居ない」
え!義母が居ない!
「田んぼかもしれない。車で田んぼに見に行って来るで」
夫は車を出し出て行く。
・・・
家の近所のコンビニ???
夫の妹が孫を連れてくると去年までは良く行っていたが???
私は傘を差し長靴を履き近所のコンビニに行く。
居ない。
仕方なく家に向かって歩く。
公民館かな?
私は家の門を通りすぎる。
???
隣の家の門の中に長靴?
傘?
誰かいる???
おばあちゃんだ!
黒い傘をさしているが骨が折れていて、顔が見えないが、義母に間違いない。
「おばあちゃん」
私は近づき声を掛ける。
義母は傘を上げ私を見る。
「家が分からなくなっただ」
義母はガタガタと震えて言う。
髪は濡れ、左のこめかみが少し切れて血が出ている。
「家はこっち、隣だよ」
私は義母の左手を取る。
「転んだだ」
義母は震えながら歩き始めようとするが、震えが酷くなかなか足が出ない。
やっと手を引きキッチンの勝手口の椅子に座らせる。
義母の長靴を脱がせ始める。
長靴に水が入っているのか?
きつくて脱がすのが大変だ。
夫が帰って来た。
「居たか! 俺が長靴を脱がせるで」
夫が長靴を引っ張って脱がせるとそこから水がたっぷりと出て来た。
義母をあがりがまちに立たたせ、びちょびちょの靴下を脱がせる。
ズボン下、ズボンを脱がせ、着ていたエプロン、ダウンジャケットを脱がせ、やっとキッチンに入ってもらった。
私は義母の手を引き義母の部屋に入り、ファンヒーターを点ける。
濡れた上の肌着を脱ごうとするが義母は寒さに震え、なかなか手が抜けず頭から畳に突っ込んでしまう。
「おばあちゃん、大丈夫」
私は義母を起こし下着から手と頭を抜くのを手伝う。
「ありがとう」
義母の震えは止まらない。
新しい下着と服を着せ、ドライヤーで髪を乾かす。
「おばあちゃん寒いから炬燵に入って」
何をしたらいいか分からずガタガタ震えながらボーとする義母に、私は声を掛ける。
「炬燵に入るで」
義母はおとなしく炬燵に入る。
私は牛乳を温め持ってくる。
「おばあちゃん、牛乳を飲むと温まるよ」
「ああ、ありがと」
義母は牛乳を飲む。
私はその隙に脱がせた下着、上着、ダウンジャケット等をかき集め洗濯機に入れ、回す。
時計を見ると9時を過ぎている。
ショートステイのお迎えが来る時間だ。
私は義母の部屋を覗く。
義母は震えは無く、落ち着いた様子で炬燵に座って温まっている。
「おばあちゃん、寒くない?」
私は声を変える。
「ああ、寒くない」
義母は落ち着いて答える。
良し!
雨の中を歩いたことはもう忘れている。
心と体は落ち着いたようだ。
出かける準備はできた。
ショートステイのお迎えが来く。
「行ってらっしゃい」
私は元気に声を掛け、手を振る。
義母は何も言わずに出て行った。
良かった。
今日は義父が一緒ではない初めてのひとりでのお泊り。
大丈夫かな~
泊って来れるといいな~