里山と熊鈴と私(夫婦岩・宮城県丸森町) | 里山と熊鈴と私

里山と熊鈴と私

朝寝坊と山を愛するあなたへ。日帰り、午後のゆるゆる登山。

 そんなわけで、今年最初の山行。丸森町筆甫地区の夫婦岩(めおといわ・572.1m)へ行く。

快晴である。

 

 今日は16時からバンドの練習がある。あまり大スケールの山行きは無理。

ということで、片道1時間以内で登れる山、なつかしい夫婦岩を選んだ次第。

 

 このところ、仕事ばかりしている。本当は、一日中寝ていたいところだけど、我が身に鞭打って、準備準備。

 

 着替え、熊鈴、扇子、薄手の手袋、絆創膏、菓子パン、ステンボトルを、ファスナーが1個取れちゃったリュックに放り込み、ブーツをつかんで家を出る。8時過ぎ。

 

 昨年の豪雨の影響で、筆甫方面は通行止めらしい。4号線を南下し、富野駅の手前あたりを左折。

 

 これまで、一度も通ったことがない道である。それが楽しい。

 

 それにしても、県境を越えると、急に果樹園が目立ち始める。

 福島県はほんと、フルーツ県としての地位を確立している。隣の山形県も。

 我が県はというと、ほんと、だらしがない。

 

 県境という、バーチャルなエリア分けで、こんなに農業の様相が変わるということは、気候の問題だけではないんだろうと思う。JA、そして行政のやる気の問題かな?

 

 わき道に入ると、いきなり田舎感が増す。コンビニはこの先、ないだろう。

 

 水筒に入れるお茶を買おうと、桃の専売所みたいなところへ。結構賑わっている。

 ふーむ、残念。桃と野菜は豊富だけど、飲み物はなし。

 いや、桃のジュースはあるのだけど、一升瓶に入ったのが数本。しかも常温。

 

 この暑さの中、商売っ気がないというか、じつにもったいない。

 

 例えばかき氷でもやって、この桃のジュースをかけて350円くらいで販売すれば、飛ぶように売れると思うのだけど。

 

 仕方なく、表の自販機で飲料を仕入れ、水筒に移し替える。

 

 で、平松梁川線を松坂峠方面に登る。

 どんどん道幅が狭くなり、やがて1車線になる。だけど、舗装道路だし、対向車とすれ違えないほどではない。

 

 11時過ぎ、駐車場に到着。

 誰もいない。さすがに、マイナー過ぎたかな?

 夫婦岩。最初に来たのは、もう20年前くらいかもしれない。

 あの頃はまだ、デジカメなんてものはなくって、確かフィルムカメラのEOSkissなんかを持ってきたんではなかったろうか。

 

 日陰に車を置く。立派なトイレや、案内看板がある。40台位は置けそうだ。

 

 道の向かい側に登山道がある。石ころ混じりの、比較的登りやすい道。

 強い日差しが木の間から降り注ぐ。蝉の声、舞い上がる羽虫。

 ああ、今年もこのシーズンになったのだ。

 楽しもう。人生は短い。

 

 クマさんに出会わないように、熊鈴を鳴らし、ストックで笹の群生をザラザラ撫でながら進む。

 

 熊鈴とか、ホイッスルって、既にクマさんには効かない、って話も聞く。

 空きペットボトルを手でつぶして、ペコペコ鳴らすとよい、とも聞くけれど、どうなんスかねえ・・・。

 

 ちょっと行ったら、二叉路があって、駐車場の表示板によると、右へ向かう道は「東ルート(急坂)」とある。カタクリの群生地を抜けたり、なかなかな魅力的なコースである。これが、東夫婦岩へと続いているらしい。だけど、全然整備されていなくて、草ボーボー。山と渓谷社のガイドにも、この道は載っていない。

 

 最近、とみに保守性を増している小生(笑)、安全パイで左の本道を躊躇なく進む。

 

 20分ほど行くと、階段道になる。ところどころ、土が流出して、骨組みのように残っている土留めの樹脂材をピョンピョン飛び越えていくところもあるけれど、手すりもあって、それほど登りにくくはない。

 ふう。それにつけても、普段、地下鉄でも職場でも、エレベーターやエスカレーターをなるべく使わないようにはしているのだけど、筋肉の衰えは否めない。エンヤコラ、と、なんとか足を進める。

 その先は一瞬、道が平坦になり、ほっとするも束の間、すぐに鎖がある岩場になる。

 この岩の感じは、すぐ近くの霊山とそっくり。

 ややもすると、張り出した石がボロっと崩れそうな感じもするんだけど、そんなこともなく、石は砂岩の間に、幾世紀もしっかりとはまり込んでいる。一歩一歩確認して登れば、オコチャマでも鎖なしで、さほど難しくなく登れるでしょう。

 

 11:41、ここで初めて展望が開け、南側にとおく蒼く広がる山並が見えた。

 その直後、道の真ん中に鎮座する可愛らしい祠とご対面。

 その奥のT字路に標識があり、そのすぐ下が三角点であった。11:46。40分弱で到着。

 

 右へ行けば夫婦岩、左は見晴らし岩。

 ちょっと右を偵察。しばしば、ゴツゴツした岩に遭遇。だけど、どこが「夫婦岩」なのか分からない。鎖がある急こう配の手前で引き返し、見晴らし台方面へと戻る。

 

 ちょっと笹を払いながら進むと、すぐに眺望が開けた。

 ああ、ここでやっと20年前の自分とシンクロする。

 

 そうそう、こういう場所だった。

 20年前、確かに自分はここに、いた。

 

 なぜ、体力も時間もあり余っていたあの頃、こんなマイナーな岩山に登ったのだろう?

 思い出せない。

 

 岩の真ん中に、ここの主のような、老い枯れた松が。

 その先の、通せんぼするように岩場にせり出している松2本を乗り越えて、見晴らし岩到着。12:03。

 素晴らしいお天気。松の木立が雄々しくせり出していて、360度の絶景、というわけではないけれど、なかなかの眺め。北に蔵王の頂が見える。

 今立っているのは女岩だそうで、男岩はそのもっと西にあるようだ。リュックを置いて、歩いてみたけれど、どれがそれなのか、良く分からなかった。

 

 松にさえぎられているので良く分からなかったけれど、北側はかなりの鋭さで切り立っていて、見下ろすと結構ゾクゾクする。

 

 にしても、日差しが強い。

 松の木に隠れるようにして、お昼にする。ダイソーのコンパクト座布団を持ってきてよかった。岩場のゴツゴツ感が軽減。だけど、霊山仕込みの、かなりのゴツゴツ感の前には、力不足の感あり。もう1枚くらい、重ね敷きした方が良いかもしれない。

 菓子パンと麦茶。

 今日もふもとから頂上まで、無休憩・無補給を通した。

 

 このカラカラ状態で、初めて体内に流し込む麦茶の美味いことと言ったら、ない。たとえそれが自販機の、ダイドーの130円麦茶であったとしても。

 

 頂上の 水飲みたさに 山登り

 

 で、フジパン製のチョココッペ、黒糖パンで腹ごしらえ。

 あとは岩の上に体を広げ、無言。

 何もしないで、ひたすら、遠くの山、日差し、セミの声を愛でて過ごす。

 長年使ってきた、このリュック。考えてみれば、尾瀬を、インド・ネパールを、石鎚山を、開聞岳を、彼と一緒に巡ってきた。

 ありがとう。

 

 では、腰を上げて、12:57、出発。

 東夫婦岩方面へ。もしかすると、降り口が見つかるかもしれない。

 

 さっき引き返した地点を越えて、急坂を下りていく。

 と、見晴らし岩と同じような規模の岩場に出る。

 

 ここからの南側の眺めも良い。

 ミルフィーユみたいな、面白い重なり方をした巨岩があった。

 ザザザって斜面を下っていくと、ふーむ。道のような、そうでないような、ビミョウなルートが続いている。

 

 よし、ここはいつもの保守性を発揮して。

 もと来た道を、戻りましょう(笑)。

 

 下山途中、面白い形の、モフモフなキノコさんを発見。触らず、そうっとしておきましょう。

なつかしい駐車場に着いたのは、14時ちょっと前。

やはり、誰もいない。

 

 ちょっと物足りない気もしたけれど、今年最初の山行きとしてはちょうどよかったんじゃないだろうか。

 

 帰りは筆甫方面を降りてみる。やはり、盛んに工事が行われているけれど、休工中で、仮設信号機で度々、待たされはしたものの、問題なく通過できた。

 

 それにしても、夥しい重機と、改修中の河川にうずたかく積もった、上流から流れて来たであろう川石の量、崩れた岸の様子などから、かつてここにかなりの雨が流れ、いまだに復興途上であることを思い知らされるのであった。

 

 齋理屋敷の脇を抜け、阿武隈川沿いを走る。

 しっかし、美しい農村の景色。正しい日本の田舎よ、ありがとう。

 結構、疲れた。白石市のカフェ「ミルトン」にでも寄りたいところだったけど、時間的にちょっと厳しい。

 

 4号線を北上し、結局、スタジオには30分前に到着。普通の服に着替え、準備したのち、車の中でしばし、まどろんでしまった。

 

 疲れている。だけど、2時間ぐらいだったら、問題なく叩けるだろう。

 今日は、新曲の手あわせをするのだった。

(2022.7.31)