『南風吹く』という小説をご紹介します。

あらすじは次のとおりです。

 

瀬戸内海に浮かぶ五木島。過疎が進み、航太の通う高校も再来年には廃校になる。家業の和菓子屋を継ぐことを父親に反対され、宙ぶらりんな日々を過ごしている航太を、俳句甲子園を目指す同級生の日向子が仲間に誘う。幼馴染の恵一や個性豊かな後輩たちをどうにか仲間に引き込んで、頭数は揃った。未来への希望も不安も、すべてを込めて、いざ言葉の戦場へ!

 

同作者による作品で、同じく俳句甲子園に挑む高校生たちの物語である『春や春』(前作)がとても良かったので、すぐに買いました。

『春や春』の感想は下の記事をごらんください。

 

 

『南風吹く』も『春や春』と同じぐらい面白く、読み終えるのが惜しかったです。

 

本作は『春や春』より後に発表・発売されていますが、『春や春』の続編ではありません。と言うのも、『春や春』と『南風吹く』は同じ年の俳句甲子園を、それぞれ別の高校の視点から描いた小説だからです。したがって、どちらから先に読んでも問題ありません。
ただ、俳句そのものの説明については、『春や春』のほうが一作目ということもあり、よりしっかりと書かれています。また、『春や春』では登場人物のほとんどが俳句に馴染みがない状態からのスタートであるため、その成長過程を追体験できる面白さもありました。

一方、『南風吹く』はそうしたことにあまりページを割かれていないのですが、そのぶん登場人物一人一人について深く掘り下げられていたように思います。容姿や特技といった外面的なものだけでなく、家族との関係や小さな島ならではの事情といった内面的なものまで、本作はいろいろなストーリーが描かれています。それでも散らかることなく、一つの作品として仕上がっているのは、やはり森谷明子さんの筆力によるものと言えるでしょう。

 

それから、本作では俳句の使い方が面白いと思いました。
例えば、河野日向子が来島京を俳句甲子園のメンバーに誘うシーン。短歌でないと自分を表現できない(俳句では不充分)と勧誘を突っぱねる京に対し、日向子は俳句でも思いを表現することができると主張します。その証明方法というのが、京の短歌を俳句にしてみせるというものでした。
また、自分の俳句に勝手な解釈をつけられることに納得できず、メンバーとなることを拒否する村上恵一に対し、小市航太はある賭けを持ちかけます。その賭けというのは、恵一の俳句に対し、作者も思いつかないような解釈を披露して納得させるというものでした。
さらにもう一つ、俳句ならではのハッとさせられる展開があるのですが、これについては読んでのお楽しみということで……。

 

『南風吹く』、本当に良い本でした。良質な青春小説でありながら、俳句の面白さと楽しさを知ることもできます。

『春や春』とあわせて是非ともお勧めしたい一冊です。