季節はもう夏ですが、『春や春』という小説をご紹介します。

あらすじは次のとおりです。

 

俳句の価値を主張して国語教師と対立した茜。友人の東子に顛末を話すうち、その悔しさを晴らすため、俳句甲子園出場を目指すことに。ふたりのもとには、鋭い音感の持ち主の理香や、論理的な弁舌に長けた夏樹らの個性的な生徒が集う。そして、大会の日はやって来た!少女たちのひたむきな情熱と、十七音で多彩な表現を創り出す俳句の魅力に満ちた青春エンタテインメント!

 

とても面白く、私は一日でイッキ読みしてしまいました。


俳句を文学的価値の低いものと位置づける「第二芸術論」や、俳句に点数をつける「俳句甲子園」に対する疑問など、俳句及び俳句甲子園に対する批判的な論調・意見をきちん拾いながらも、俳句の面白さ、楽しさ、凄さが十分に伝わってくる筆力は見事。ストーリー自体はよくあるスポ根モノで、正直おおまかな展開は読めてしまうのですが、題材が題材(俳句甲子園)なだけに、なかなか新鮮に思えました。
また、全体的にテンポが良く、読んでいて辛くなるようなシーンもありませんでした。そういうのが苦手な私にとって、これは大きなポイント。読後感も非常に爽やかなものでした。

 

俳句に興味がなくても楽しめると好評の本書。私自身は数年前から俳句を少々嗜んでいる身なのですが、それ故に共感できる部分もありました。
例えば、俳句は十七音しかないので助詞の一つにまで神経を注いだり、同じ言葉にしても漢字で表記するかひらがなで表記するかを悩んだりするのです。また、284~285頁にある「広がる空は見上げるな」という俳句の心得は、『プレバト!!』を見ている人ならもうご存知のことでしょう。つまり、「空」は広がっているもの・見上げるものだから、「空」を詠むのにわざわざ「広がる」とか「見上げる」とか言う必要ない、ということです。
物語の中では、こうした推敲を仲間で一緒に考えているのですが、私はここに強く「青春」を感じました。私なんかはずっと一人で俳句を作っているものですから、一つの句をみんなで意見を出し合いながら作り上げていく様子はとても眩しく見えました。

 

それから、俳句にある程度馴染みがある人、目が肥えている人からすると、劇中句がどんなものなのか気になると思いますが、プロのチェックが入っているだけあって、中には思わずハッとするような句もありました。どのような句が詠まれているのかいくつか紹介したいところですが、小説オリジナルの句というのも本書の「売り」の一つと言えるので、ここには載せないでおきます。

 

とにかく、人に勧めたくなるぐらい良い本でした。俳句を知っている人も知らない人も楽しめる、一粒で二度おいしい小説です。