現在発売中の『週刊女性』(9月18日号/主婦と生活社)にて
村山由佳さんの新刊『燃える波』(中央公論新社)の
書評を書かせていただきました。
幸運なことに、
村山由佳さんには何度かインタビューをさせていただいています。
お会いするたびに「こんな女性になりたいなぁ」と思っており、
また、個人的にも大好きな作家さんのひとりです。
精力的に作品を発表されていらっしゃるので
ファンとしてはうれしい限りです。
今回も、普通に購入して読もうと思っていたところ
週刊女性の書評担当の編集さんが
「熊谷さんのお好きな本や、おすすめの本で書評をお願いします」
とご連絡をくださったので、
迷わず『燃える波』を選びました。
『燃える波』は、
婚外恋愛によって本当の自分に目覚める女性の姿を描いた作品で、
『婦人公論』の連載時には大きな反響を呼んだそうです。
主人公は、ライフ・スタイリストとして仕事をしつつ
ラジオのパーソナリティを務めている帆奈美で
大学の同級生の夫と、
「おむすび」という名の猫と一緒に暮らしています。
夫との些細なやりとりを重ねるうちに
一見、穏やかに思える生活が、
自分の我慢とあきらめによって
かろうじて成り立っていることに気づく帆奈美。
彼女の人生は
カメラマンとなった幼なじみの澤田との再会によって
大きく変化を遂げていきます。
仕事をしつつ家事もこなさなければいけない
ワーキングウーマンの大変さとか
すれ違ってばかりの夫婦の会話への絶望感とか
読み進めるうちに帆奈美が感じているつらさが伝わってきて
胸が苦しくなりました。
そんななかで、大きな癒しとなったのが
猫のおむすびの場面です。
帆奈美と一緒に、
思わず「むーちゃん」と呼びたくなるほどのかわいらしさです。
それから、帆奈美が出逢う女優の水原瑤子さんの場面も好きです。
行間から凛とした美しさが伝わってきて、
この方にだけ、敬称をつけてしまいました。
瑤子さんのお部屋の描写からは
上質なアンティークの雰囲気がひしひしと伝わってきて
「わたしもこういうお部屋に住んでみたいなぁ」と
ため息が出そうになります。
ロンドンの映画祭で瑤子さんがレッドカーペットを歩く場面や
ロンドンのアンティークショップの場面も好きで
何度も読み返してしまいました。
実は、村山由佳さんが一緒に暮らす猫さんが
もみじさんと銀次さんのおふたりだったころ
NHKの『ネコメンタリー 猫も、杓子』の舞台でもある
軽井沢のご自宅に、取材でうかがったことがあります。
真っ先に銀次さんが出迎えてくださったことや
銀次さんのお背中を触らせていただいたこと、
銀次さんに座席を温めていただいたことなどは、
なんのとりえもないわたしの
数少ない自慢のひとつです(笑)。
村山さんのおうちの中には
たくさんのアンティークの品物が置かれていて
静かにゆっくりと時間が流れていて
緊張しつつも、不思議な居心地のよさを感じておりました。
こんな風に、『燃える波』を拝読しながら、
取材時のあれこれや、
取材の直前、
大好きなバンドのライブを観るためにハワイへ飛んだこと
ひとりぼっちのハワイで海を見ながら考えたことなどなど
当時の自分自身のことを思い出したりもしました。
もしかすると、『燃える波』の中には
女性が自分の過去を振り返りたくなるようなエッセンスが
さりげなく織り込まれているのかもしれません。
ひとりでも多くの方が村山由佳さんの世界に浸ってくださるといなぁと
願っています。