『嘘 Love Lies』村山由佳さんのサイン会に行ってきました。 | フリーライター 熊谷あづさの雑記帳

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ねこの記事もちょくちょく登場する予定です。

先月、新刊『嘘 Love Lies』(新潮社)の刊行を記念して行われた
村山由佳さんのサイン会に行ってきました。

 



電話で整理券の予約をし、

後日、『嘘 Love Lies』の購入時に整理券をもらい
ワクワクしながら当日を心待ちにしていました。

『嘘 Love Lies』のメインの登場人物は、
中学校入学直後から友達関係がはじまった男女4人です。

彼らは中2の夏に直面した事件をきっかけに
人間関係のバランスが崩れ、
4人は後悔やトラウマ、怒りといった負の感情を抱えたまま成長し
それぞれの人生を歩んでいきます。

物語は、登場人物たちの中学時代と大人になった現在を
行きつ戻りつしながら進みます。

500ページ以上の物語のなかには、
「拳銃」とか「傷害罪」とか「銃刀法違反」とか
物騒な単語が少なくない頻度で出てくるというのに
せつなくて、美しい読後感です。

『嘘 Love Lies』の中では、
誰かがついた嘘に嘘が重ねられ、
複数の嘘が複雑に絡まりあっています。

「嘘」という言葉からは、
不誠実で卑怯なイメージを連想してしまうのですが
『嘘 Love Lies』の中で誰かがつく嘘は
その人が大切な誰かを想うがための嘘で
なんて清らかで奥ゆかしいのだろうと思いました。

特に、ラスト近くで極道の世界に身を置く男性が
大きな嘘を告白し、壮絶な死を遂げた場面では、
ちょっと泣いてしまいました。

また、大人たちのもつれた事情が展開されるなかで
純真無垢な少女の存在に大きな救いを感じました。

早く続きを知りたいのに、
でも読み終わるのがなんだかもったいなくて
1ページずつ、大切に読み進めました。

わたしは、村山さんが描く
清らかで、厳しくて、やさしくて、残酷で、温かな世界が

とても好きです。

実は、今回、村山さんのサイン会に行きたいなぁと思ったのには、

理由があります。

きっかけは、猫です。

村山さんは、17歳になるもみじさんという猫さんを筆頭に
現在、5匹の猫さんと一緒に暮らしていらっしゃいます。

村山さんのTwitterで、猫さんたちのご様子を拝見することは
毎日の楽しみのひとつだったりします。

昨年10月に放送された、
作家と猫の暮らしに密着したNHK(Eテレ)の
ドキュメンタリー番組『ネコメンタリー 猫も、杓子も』に
村山さんともみじさんが登場した回は、

永久保存版にして何度も見ています。

その放送の中で、もみじさんの口の中にがんがあり
余命宣告をされていることを知ったときは、

ものすごく動揺してしまいました。

それ以来、村山さんのTwitterを通して
もみじさんの体調に一喜一憂をするようになりました。

ちなみに、

村山由佳さんと猫さんの関係やもみじさんに関する話題などは
下記サイトの連載で読むことができます。

「猫がいなけりゃ息もできない」
http://hbweb.jp/nekoiki/


先に何度もブログで書かせていただいたとおり
昨年、我が家にやってきた白猫のもんちゃんは、
11月末に末期の腎臓病が判明し、
余命いくばくもないことがわかりました。

なにをしていてももんちゃんのことが気になり
不要な外出はできるだけ控えてそばにいるようにし
仕事で外出をしなければならないときは
「わたしがいない間になにかあったらどうしよう」と
気が気ではありませんでした。

2~3時間おきにごはんや水をあげて
少しでも食べれば喜び、
ちょっとでも調子がヘンだと途端に慌てふためき
何度も半泣き状態で病院に連れて行きました。

大切な存在が重篤な病気になり、
残された時間はそう長くはないとわかったとき
どんな心構えで、毎日をどのように過ごせばいいのか
未熟者のわたしには、さっぱりわかりません。

そんなわたしにとって
村山さんのTwitterは、大きな心の支えでした。

村山さんは、小説の執筆のほかに
ラジオのパーソナリティや文学賞の選考委員、
小説講座の講師といったお仕事などもなされています。

新幹線を使っての外出も少なくなく
そのたびに、Twitterを通して
もみじさんの体調を心配されているご様子が伝わってきます。

なんと申しますか、
村山さんの肝が据わったようなお言葉を目にするたびに
「わたしもしっかりしなくては」と気持ちがシャキンとしました。

ちょうど、もんちゃんの体調が悪くなり、食欲が落ちてしまったころ
もみじさんも似たような状態であることを知り、
もんちゃんのことはもちろん、もみじさんのことも
とても心配でした。

もんちゃんは天に召されてしまったのですが
もみじさんは持ち直し、元気を取り戻してくれて

本当にホッとしました。

クリスマスイブの夜にもんちゃんが亡くなり

看病疲れが出たのか、
ぜん息の発作で元日から救急外来を受診する羽目になり
丈夫なはずの体がすっかり弱ってしまいました。

去年は1月にマッシュ、12月にもんちゃんと
1年のうちに大切な猫がふたりもいなくなってしまいました。

「どうしてわたしだけ、こんなに悲しいことがつづくんだろう」と
考えるうちに、気持ちもどんどん弱っていきました。

わたしは根がネガティブなうえに、自己肯定感も低いもので
いったん、思考がマイナスに向かうと
どんどん、よくない方へと進んでいってしまいます。

そんなときに、村山さんのサイン会があることを知り
ぜひ、お会いしたいなぁと思いました。

過去に2回ほど、
村山さんにインタビューをさせていただいたことがあるのですが
2回とも、取材後はすごく気持ちが癒されて
自分の奥底からエネルギーのようなものが

こんこんと湧いてきたのです。

村山さんは、お声も表情も雰囲気も
すごく温かくてやさしくて、初めてお会いしたときには
「なんてステキな方なのだろう」と感激しました。

それ以来、村山さんは、
わたしがなりたい理想の女性のひとりです。
 

お仕事で作家さんにお目にかかることはあるものの
小説家さんの世界の実情は、正直なところ、よくわからないです。

でも、小説家になるよりも、
小説家であり続けることのほうが大変という話はよく耳にしますし
実際、新人賞の受賞時に取材をさせていただいた方が
いつの間にかフェードアウトしていることは、
珍しいことではないような気がします。

そんな過酷な世界の第一線に立って
次々と新しい作品を世に送り出していくためには
想像を絶する凄まじいエネルギーを要するのではないかと思います。

村山さんにお目にかかるたびに元気になれるのは
きっと、ものすごく大きなエネルギーに触れることで
自分のなかのエネルギースイッチのようなものが
押されるからなのかもしれません。

『嘘 Love Lies』は、村山さんの作家生活25年目の作品なので
それはもう、とてつもないエネルギーを秘めた小説です。

それから、村山さんとお話をさせていただいたり、
作品を拝読するたびに、
自分の気持ちに寄り添ってもらえるような感覚を覚える自分もいます。

だから、心が疲れているなぁと思ったときには
村山さんの作品が無性に読みたくなります。

マッシュが突然いなくなってしまい、
悲しみのどん底にいた去年の今ごろは
『ワンダフル・ワールド』という短編集を何度も読んでいました。


『ワンダフル・ワールド』の中には、愛猫の死を描いた小説があり
村山さんは、当時15歳だったもみじさんのことを想いながら
その作品を書かれたとおっしゃっていました。

当時、マッシュは13歳でまだまだ元気だったので
「お別れは当分、先のことになるだろうなぁ」とのんきに構えており
いつか、マッシュがいなくなってしまったときには
この作品を読んで、自分を慰めようと思っていました。

まさか、その翌年に、
早くも『ワンダフル・ワールド』のお世話になってしまうとは……
命というのは、わたしが思っている以上にはかないものでした。


そしてそして、こちらが、村山さんに頂戴したサインです。
 


もみじさんの特製シールまでいただけて
とてもうれしかったです。

サインと一緒に為書きも頂戴したくて、
自分の氏名を書いた紙をお見せしたところ
名前を覚えていてくださり、感激しました。

村山由佳様、本当にありがとうございます。

でも、お仕事柄、
常に脳味噌をフル回転なさっている状態かと思いますので
記憶の容量が足りなくなったときには
わたくしめの存在を真っ先に消去していただき、
空いた場所に、すてきな物語の種を収めてもらいたく存じます。

びっくりするほどまとまらない内容になってしまったのですが
直木賞など数々の賞を受賞している小説家さんも
わたしのような凡人も
猫の前では、等しく同じ人間なのだなぁと

しみじみと感じている今日このごろです。

また、村山由佳さんとお仕事でご一緒できるよう

自分なりに精進していきたいと思っています。