ジンガの系譜、大型化、あらゆるポジションに影響力
現在、ジンガの継承者はネイマールだ。ゆったりした動きからの急撃な加速、トリッキーな足技、本能的なインスピレーション――ジンガの伝統を色濃く受け継いでいて、最もブラジルらしいアタッカーである。
ジンガの伝統を受け継ぐネイマール。意表を突くアウトサ
イドキックや変幻自在のドリブルで相手を手玉に取るプレ
ーは観る者を魅了する
ネイマールと同種の先輩としてはロナウジーニョがいる。ヨーロッパへの輸出しやすさからブラジル選手の大型化とジンガの喪失が一時期懸念されていたが、ロナウジーニョは特別としても、ジンガを受け継ぐタイプの枯渇は杞憂のようだ。常にこのタイプは存在し続けている。
踊るようなステップワークで相手でDFをあざ笑うかのよ
うに交わし去ってみせたロナウジーニョ
カカーは、ジンガとヨーロッパ的なパワーのハイブリッドだった。ロナウド、リバウドあたりからの大型化の流れの中にあり、ジンガの香りも残している。カカーは富裕層の白人であり、ジンガでない方のヨーロッパ型ブラジル人プレーヤーなのだろう。加速力が抜群で広いスペースを得たら無双状態だった。
ハイブリッドタイプと評するカカー。縦への推進力でカ
ウンターの威力を引き上げる
ただ、大柄なブラジル人FWの系譜は以前からもあって、70年代にアトレティコ・マドリーで活躍したレイビーニャはヘディングの名手。90年代のポルトでヨーロッパの得点王にも輝いたジャルデウもこのタイプ。ババの流れを汲んでいる。同時期にロマーリオ、ロナウド、エジムンドがいたのでセレソンではほとんどプレーしていないが、クロスボールを点に変換するゴールマシーンだった。
MFでも80年代を代表するソクラテス、ファルカン。ソクラテスの弟、ライーも長身の技巧派である。ジンガ色は薄いがフィジカルと知性と感覚を兼備した優雅なコンダクターだ。
SBの攻撃力はブラジルならでは。もともとMFだったジュニオールはジンガを体現するSBとして活躍、ビーチサッカーで世界一になっている。カフー、ロベルト・カルロスがスピード、スタミナ、テクニックの高度な結実を示し、ダニアウ・アウベスとマルセロは現代的なオールラウンドなSBであるとともに、ジンガを色濃く残している。現在、このポジションはアタッカー以上にジンガ要素が豊富かもしれない。
従来のSBの枠を優に超える足下の技術を駆使してポゼッ
ションのクオリティを高めるマルセロとダニエウ・アウベ
ス。ジンガのイズムを継承するSBの代表格だ
かつてはアタッカーが中心だったヨーロッパへの移籍も、90年代にはすべてのポジションに広がっている。GKではジダ、ジュリオ・セザールがイタリアで活躍。現在はエデルソン、アリソンが世界最高クラスと評価されている。
足下の技術にも優れた「現代型GK」の代表格エデルソン
(左)とアリソン
CBもペペのような頑健なクラッシャー(後にポルトガル代表を選択)、チアゴ・シウバのような万能型まで幅広く活躍。チアゴ・シウバは70年代にアトレティコ・マドリーでプレーしたルイス・ペレイラの系譜を継ぐ、技巧的で身体能力にも優れた安定したザゲイロ(CB)の代表格だろう。
高くて速くて強くて巧い。モダンCBの第一人者の一人
チアゴ・シウバ
守備的MFでは90年代にデポルティーボ・ラ・コルーニャで活躍したマウロ・シウバが忘れがたい。樽のような体型ながら素晴らしい読みと守備力、ボールを持っても余裕綽々。80年代のジュニオールと似たマエストロでジンガの香り高い、まさにボランチという選手だった。アレモン、バウド、ドゥンガ、セザール・サンパイオ、ゼ・ロベルト、ジウベルト・シウバなど、多くの名手を輩出している。現在はフェルナンジーニョ、カセミロが守備的MFとして活躍中だ。
カセミロとフェルナンジーニョ。代表でも所属クラブでも
豪華絢爛な攻撃陣を支える存在となっている
多種多彩な人材を生み出すブラジル。世界のサッカーはもはやブラジル人なしでは成り立たない。ジンガという特殊な魂を秘めたブラジルサッカーは、今や世界中で普遍的な価値を獲得している。