北中米メキシコのタッチダウンパス戦術
さて今回は、守備戦術ではなく?
・・・組み立てに特徴のあるメキシコサッカーを紹介しましょう。
メキシコの戦術は、守備戦術ではなく、ボールを奪ってからの組み立てに特徴があります。
メキシコの特筆すべき点は、試合の流れによって3バックと4バックを併用するオートマチックな動きを見せていることにある。
所謂日本的に言えば「可変システム」です。
クラブレベルでは日々のトレーニングにより、緻密な動きの確認が行えるが、それ程トレーニングの時間を割くことができない代表レベルでは細かな動きの確認が困難であることから、メキシコのようなオートマチックな動きを見せる代表チームは比較的少ないと言えます。
この国は、何度か行こうと試みた国で指導者を終わる前に一度行ってみた国の一つです。
これから紹介するサッカー「タッチダウンパス」は、メキシコサッカーの特徴的組み立てです。
5トップを敵陣に送り込む中盤空洞化
グアルディオラがメキシコサッカーやリージョ、ビエルサの発想を取り入れました。
また、グアルディオラが、現役最後のクラブとして、メキシコの「ドラドス・シナロア」という無名クラブでのプレーをした事を知っている人は少ないと思います。
ただ単にグラウディオラが、移籍するチームが無くメキシコに渡ったと思っていました。
その華麗なプレーからバルセロナで黄金時代を築き、セリエAでも強烈な存在感を放った「ペップ」はメキシコ行きの時点でもマンチェスターユナイテッド、マンチェスターシティ、チェルシーなどのビッグクラブから獲得オファーを受けていたと言います。
それでも、その誘いを断って現役最後のクラブにメキシコの無名のクラブを選んだ理由が「リージョ」そして「メキシコのパスサッカー」だったのです。グラウディオラの戦術に「サリーダ・ラボルピアーナ」は、大きく影響されています。
サッカー強国がひしめくアメリカ大陸には、まだ見ぬ“進化への種”が眠っています。
Touchdown Pass from MEXICO
ベースは後方からの組み立て
メキシコのフットボール文化の真髄は、組み立てにあるといっても過言ではない。
中盤の底から守備的MFがCBの間に落ちてくる「サリーダ・ラボルピアーナ」だけでなく、
3バック時には両翼のCBと中盤が入れ替わるようなポジションチェンジを見せるなど、
後ろからのパスワークでプレスを揺さぶるパターンが豊富で、丁寧にボールを運ぶ。
ロンドン五輪ではA代表からも主力を呼び寄せたブラジルを決勝で破るなど、各年代で組織的なスタイルを共有していることも強みだ。
2014年W杯は、メキシコ代表にとって順風満帆とは行かない大会だった。
予選での結果に恵まれない中、ギリギリで滑り込んだ本大会で、指揮官ミゲル・エレーラは賭けに打って出る。
後方での組み立て能力を保険としながら、中盤を高い位置へと押し上げたのだ。
特に決勝トーナメントのオランダ戦が顕著で、
5バックに近い形で待ち構えるオランダ相手に5人を前線に飛び込ませる形を採用。
自陣を徹底的に埋めるオランダに対し、枚数を費やして攻め込むのは一見リスキーではあったが、実質的にはある程度のバランスが計算できる形で仕上がっていたことが、この戦術の特徴だった。
難しい戦術の舵取り役を担ったのは、アメリカンフットボールの司令塔クォーターバックのように振る舞ったCBラファエル・マルケス。
正確なロングキックを備えた「最後尾のパサー」の存在は、高さで劣るメキシコ代表のアタッカーでも勝負できるようなピンポイントのボール供給を可能にした。
3バック+1枚でのビルドアップによって比較的安全な状態を保ちながら、詰まればマルケスからのロングボール。
5枚のレシーバーが前線に流れ込むメキシコの攻撃に備えるために、オランダは前から潰しに出ることも難しい。
また、トップのジオバニ・ドス・サントスが追い越してくるグアルダードやエクトル・エレーラの動きに連動して下がることでマークを外すなど、組織的にボールを受けられる選手を作り出す工夫も見られる。
●弱者の攻撃サッカーの希望
アンバランスに見える形でも、実はバランスを保てている。クォーターバックスタイルの強みは、そこにある。結局のところ前線に枚数をかけることによって、相手はそれに対応する目的で後ろに枚数をそろえなければならないからだ。
このスタイルに対応するためのシンプルな方法は、ロングカウンターと個の優位性で押し切ること。
いや、このスタイルJリーグで見たことのあるシステムだ。
そうですミーシャスタイルです。
サンフレッチェ広島・浦和レッズ、そしてコンサドーレ札幌でその可変システム「攻撃=【4−1−5】」、「守備=【4−3−3】」システムです。
オランダ代表とリバプールが、それぞれクォーターバックスタイルを破った方法でもある。
オランダ代表はロッベン、リバプールはマネとサラーを中心に徹底的に個人のスピードを生かしてハイラインを突破し、容赦なく裏のスペースを攻略した。
アタッカーが多いことを逆手に取ったオフサイドトラップを採用。受け手は多いがクォーターバックが限られる戦術において、出し手からのパスを予測することでラインをコントロールする手段の存在を示した。
少しずつ対策も発見されてきているとはいえ、レシーバーを増やすことでアタッカー個々の能力を補いながら、複数人で電撃戦を仕掛けるタッチダウンパス戦術は「弱者」が攻撃的なスタイルを志向する上での希望となり得る戦術です。
◆3バックと4バックの併用
メキシコはこのポジションチェンジを頻繁に行うことによって相手のマークをかいくぐり、しばしば良い状態でボールを受けるメリットを享受しています。
一方、通常考えられるデメリットとして、ポジションチェンジした場所でのプレーに難しさを抱えることが多いと言われるが、メキシコの選手は複数のポジションをこなせる強みを生かして、何の問題もなく目まぐるしいポジションチェンジを敢行している。
◆守備時
一方で、守備に切り替わった場合は、必ずサイドバックの選手がDFラインに戻り、マルケスがアンカーの位置に入っているため、サイドのスペースやバイタルエリアを使われるという致命傷には至らない。
このシステム変更はサイドバックの選手の運動量の豊富さが多分に求められるが、サルシードやアギラール、オソリオといった面々はスタミナに秀でており、問題となっていない。
フィード能力に長けたマルケスを生かし、なおかつ攻撃センスの高いサイドバックの選手の能力を生かす、理に適うポジションチェンジで自分たちのストロングポイントを生かしているのです。
互いのプレースタイルを熟知しているからこそ、成せる戦術です。
◆メキシコのようにいつか…日本代表の変革
このDF陣に加え、前線にはエルナンデス、ドス・サントス、ベラとアクセントを付けられる選手が多い。
観る者を魅了しつつ結果も出しているメキシコのサッカーに学ぶべき点は、やはり多いのではないか。
スタミナ、テクニックを高いレベルで擁し、体格のハンデを感じさせないメキシコは、日本が目指すスタイルに通ずる部分が多々あります。
代表レベルにおいてこれ程まで巧みなシステム変更、ポジションチェンジを行う代表チームは、メキシコ以外にはない。
独自のサッカー文化を築け上げ、着実に存在価値を示しているメキシコのようなサッカー文化を、日本も築き上げることを願いたい。
自分たちのスタイルをぶつけて勝利をもぎ取る――。
メキシコのようにいつかは強豪国相手に日本も…。
そんな時が来ることを祈りつつ、メキシコの躍進にも期待したい。

