やあ大佐。久しぶりだね、任官式以来か。
いやそんな堅苦しい挨拶は結構。階級の上では僕の方が上とはいえ、同期なのだからね。
それで、今日はいったいぜんたいどういう風の吹き回しだい? キミが僕に電信してくるなんて。
キミは僕のことを嫌っているのだと思っていのだけれどね。
はは、そうだろうね、初対面からソリが合わなかったからね僕たち。
ああ、そういえばアイアンボトムサウンド、通称E4海域を突破したそうだね、おめでとう。
おや、あまり嬉しそうじゃないね。ひょっとして話とはそのことかい?
黙り込まれてもね。僕も今は作戦行動中だから、それほど時間があるわけじゃないんだが。
ふむ、ふむ、ほう!
なるほど、なるほど! キミも遂に僕と同じ戦術に手を染めたわけだ。
練度の低い駆逐艦を囮に海域突破を図る、通称「捨て艦戦法」。
なるほど、それで落ち込んでいるわけだ。
キミは僕の作戦戦術には批判的だったからね、いままで否定してきたそれを用いたことにプライドが許せないわけだ。
え? ははは! なるほどなるほど、彼女たちに申し訳が立たないと。
ははは! あはは! あはははは! これだから男ってやつは!
いや失敬、そんな大声を出さなくても聞こえているよキミ。
何を思い悩むことがあるんだい? キミは作戦を立案し、艦隊たちはそれを遂行した、その結果として何隻の轟沈艦が出ようとも、それは作戦通りじゃないか。
はは、済まないね、昔からよく言われるよ。こういう物の言い方しかできない性分でね。
でもそれが事実だ。違うかね?
うん? ははっ! なるほど、確かにそうだね、僕もあの海域には手を焼いた。
そうだね言うとおりだ、大本営のお偉方は現場のことなんてこれっぽっちも解っちゃいない。
そうだとも、キミは悪くない、きっと轟沈した船もキミのことを恨んでなんていやしないよ。
で、言いたいことはそれだけかね提督。
同期のよしみだ、僕からひとつ、キミにアドバイスを送ろう。
キミ、もう提督など辞めたまえよ。
大本営の作戦が悪い? こうするしかなかった? いいや違うね、他にいくらだってやりようはあったはずだ。
彼女たちは自分を恨んでいるだろうか? 何を当たり前のことを、恨まれているに決まっているだろう。きっと今頃は殺したいほどキミを憎んでいるだろうさ。
キミは今までの矜持も、信念も、何もかもをかなぐり捨てて、安易な解決策に逃避した。
作戦艦たち――キミ流に言うなら「彼女」たちを沈めたのはキミだよ。キミの権限と責任において決定した作戦で「彼女」たちは沈んだんだ。
「彼女」たちを殺したのはキミだ、他でもない、キミ自身が、その手で、殺したんだ。
責任を他人になすりつけようとする言論はやめろ。見苦しい。
キミは、僕などよりよほど、卑怯者だよ。
おや、別れの挨拶もなしに通信断とは、相変わらず失礼なヤツだね。
……僕はあの時に忠告したはずだよ、あの子たちに過度に入れ込むなと。
現在の人類の劣勢を鑑みて、いずれこうなるであろうことは判っていた、だからこその忠告だったんだが。
――戦争というものを甘く見たな、大佐。