風属性とは何をするのか【ゲーム世界の属性について考える】 | 久印のゲーム雑考

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現在はHoYoVerseの『原神』を中心に扱っています。

ファンタジーに登場する「魔法」の類の代表的な「属性」といえばなんでしょうか。

 

地水火風の四元素でしょうか。

それとも、東洋的テイストを入れるならば木火土金水の五行でしょうか。

 

いえ、ラノベやマンガ、アニメのファンタジー作品ではそういう古典的な説を設定に取り込んでいることもあるかもしれませんが、ゲームの場合は少し事情が違います。

 

このしばらく論じてきた『原神』に加えて、同じく HoYoVerse より発売されているゲーム『崩壊: スターレイル』、それにこの7月リリースされたばかりの『ゼンレスゾーンゼロ』の3作品を見てましょう。

『原神』には7つの元素、『スターレイル』も7つの属性、『ゼンゼロ』はもっと少なくて5つの属性が設定されています。それを表にしてみるとこの通り。

 

※ 『ゼンレスゾーンゼロ』では「電気属性」表記だが、同列とした。

 

なお、『原神』にも「物理ダメージ」はあり、これはシステム上は第8の属性と言っていいものになっているが、全キャラクター共通で法器以外の通常攻撃などが物理ダメージとなっているもので、キャラクターの元素タイプとしては存在しない。

また、『原神』では欧文では炎は Pyro、水は Hydro、氷は Cryo とギリシア語表記になっているのに対して、『崩壊: スターレイル』では英語などそれぞれの現代語表記になっているため、日本語での表記一致は他言語では当てはまらない場合がある。この点については今回は扱わない。

 

システム的に共通するところの多い同じ会社のゲーム3作品でも、すべて共通しているのは「炎」「氷」「雷(電気)」の3つだけです。

 


 

日本産RPGを代表するゲームシリーズに目を向けてみると、『ファイナルファンタジー』(通称『FF』)シリーズで皆勤の攻撃魔法はファイア(炎)・ブリザド(冷気)・サンダー(雷)の3系統です(FFでは基本「氷」ではなく「冷気」表記)。エアロやトルネド、クエイクも知名度はありますが、皆勤ではありません。

 

 

 

『ドラゴンクエスト』(通称『ドラクエ』『DQ』)の場合、初代の攻撃呪文は「ギラ」「ベギラマ」だけで、ギラも炎なのか電撃なのか設定が曖昧だったりしましたが、ある呪文が系統化された『DQ3』では、メラ・ギラ・イオ系がみな同じ属性で炎属性に相当、ヒャド系が氷で、僧侶の攻撃呪文であるバギ系が風、そしてデイン系が雷でした。

 

『DQ3』HD-2Dリマスター版は2024年11月に発売予定。

 

『DQ』シリーズの場合、デイン系が勇者の呪文ということで別格扱いという特徴があり、後にはメラ・ギラ・イオ・炎ブレスがみな別属性になったりなど奇妙に設定がややこしくなりましたが、やはり基本は「炎・氷・雷・風」だったのがわかります。

 

『ポケットモンスター』(通称『ポケモン』)の場合は少し毛色が違って、最初に3匹のポケモンの中から1匹を選んでパートナーとするのですが、その3匹はそれぞれ「ほのお・みず・くさ」というのが通例です。これはこの3タイプが「三すくみ」の関係になっているからでしょう(草は水を吸い上げるので水に強く、炎に弱い、炎は水に弱い)。

なお、『ポケモン』シリーズでは「こおりタイプ」のポケモンは総数が少なく、序盤にはまず登場しません。これはそもそも生息地が寒冷地であること、そして氷の技が非常に強いせいもありそうです。

 

ただ、初期で15種類、現在は18種類もあるポケモンの「タイプ」の中には、やはり「こおり」「でんき」もあります。

一方、「かぜ」というタイプは今に至るまでありません。「ひこう」(飛行)はあるんですが。

 


 

「物理」が属性の一つとして数えられているかどうかは、ゲームによって違いますが、いずれにせよ殴る・切るなどの「物理攻撃」が存在するのは多くの場合、大前提です(ポケモンにも「ノーマル」とか「かくとう」タイプがあります)。その物理とは異なる攻撃手段として「属性攻撃」というものが設定されているわけです。
となると、炎(高温)と氷(低温)は、もっとも想像しやすいものの一つでしょう。これらは身近で、物理的な破壊との違いも明らか、子供でもわかります。
 
雷(電気)も想像しやすいかと思いますが、これは古代ギリシアの四元素説や中国の五行説には登場しません。古代人にとって、雷とは何なのか、たとえば炎とはどう違うのかといったことは、それほど明らかなことではなかったのです。
これは、雷は電気であり、静電気でビリッと痺れるのと同じものであることを知っており、電気で動く機械にも慣れている現代人との大きな考え方の違いです。
 
一方、「水属性」は存在しないゲームも多いです。HoYoVerse のゲームでも『原神』だけですし、『DQ』シリーズ本編では今に至るまでありません(外伝の『DQモンスターズ』には水の攻撃呪文「ザバ系」がありますが)。
水による攻撃の特徴とは何なのかよくわからない、水をかけるのが強そうに思えないのが主たる理由でしょう。
 
で、ここでようやく記事タイトルの話にたどり着くのですが、炎・氷・雷に次いでメジャーといってもいい「風属性」の特徴はいったい何でしょうか。
風といえばたしかに竜巻などは猛威を振るいますが、あれは物理的な破壊、つまり物理攻撃と大差ない気もします。
 
鳥のような空を飛ぶモンスターは風を操るものも多いが、風に弱いということも多い、というパターンもあります。
まあたしかに、はばたけば風も起こせそうですが、他方で暴風に巻き込まれたら飛べたものじゃないでしょう。
ただ、一人のキャラクターが複数の属性魔法を使えるゲームならこれもいいんですが、キャラクターそのものに属性があるシステムの場合、「特定の敵に強い」だけでは、属性およびキャラクターのアイデンティティとしては物足りません。
 
日本のマンガ・アニメ・ゲームでしばしば見られるのは、「真空の刃で切り裂く」攻撃でしょうか。
ただ、これはおそらく、日本ローカルなイメージです。
 
民間で「かまいたち」と呼ばれて知られている現象がありました。
歩いていると足などにいつの間にか切り傷ができているにもかかわらず、ほとんど出血していないということがあったのです。
鎌を持った鼬(イタチ)が三兄弟で、1人目が転ばせ、2人目が切りつけ、3人目が傷薬を塗って血を止めるのだ……などという伝承が生まれたわけです。
(鳥山石燕『画図百鬼夜行』、1776年より)
東洋大学の創設者でもある哲学者・井上円了は、「妖怪学」の名の下に怪異現象を近代科学的に解明し、不思議などないことを示そうとしました。
その際、彼は「かまいたち」も風によって生じる真空の仕業であると説明しました。
その他、世間にて奇怪に思うものはカマイタチと申すものである。そのものたるや形あるにあらず、人の身体に風の触るると覚ゆるのみにて、かみそりにて切りたるがごとききずを得、血の多く出ずるということじゃ。その原因は、空気の変動によりて空気中に真空を生ずることがある、このとき、もし人体の一部がその場所に触るるならば、その一局部に限り外部の気圧がなくなりたるゆえ、人体内部の気がその空所をみたさんとしてほとばしり出ずるときに、皮肉を破裂せるによると申すことじゃ。かく聞いてみれば、妖怪とするに足らざることが分かる。 
(井上円了『迷信解』、第十二段「怪火、怪音および異物のこと」)
でも、現代ではこの説明はおそらく間違いと考えられています。風で皮膚を切り裂けるような真空は生じません。
ところが、このイメージはすっかり「カマイタチ」現象の名と共に広まり、多くの創作物で使われるようになってしまいました。
井上円了先生、怪異を解明し迷信を退けるつもりが新たな神話を作り出してしまっています。
 
つまり、「風が真空の刃で切り裂く」というのは、明治の日本で生まれた新たな物語にすぎなかったのです。
もちろん、元ネタとして古代の神話を引用するなら近代の神話を引用したっていいんですが、これにばっかり引きずられるのも視野が狭く思えます。
 
それから、古代ギリシアの四元素説の一つは、正確には風というか「空気」を意味する「アエール(ἀήρ)」ですが、同義で「プネウマ(πνεῦμα)」という言葉も使われます。「プネウマ」は「魂」などと訳されることもありますが、原義は「風、息吹」です。
これはおそらく多くの文化圏に共通する考え方で、「命があるとは、生命の息吹のようなものを吹き込まれていることだ」と考えたためでしょう。
 
これを「風」に繋げるなら、風属性は「命、癒し」にも結びつきます。『DQ』で回復を本業とする僧侶の攻撃呪文が風のバギ系だったのも、これもあるかもしれません。炎や氷といういかにもな攻撃技を扱う魔法使いとの差別化もわかりやすいですし。
『FF7』のエアリスもリミット技の「癒しの風」が代名詞のようになっていましたし、リメイク版では通常攻撃が風魔法になるなど、「風属性」を強調しています。
 
とはいえ、「癒し」や「回復」に結びつく属性は他にもあって、たとえば「水」も有力ですし、「草」のような生命そのものの属性が存在している作品もあるので、これが風のアイデンティティとなるかどうかは難しいところです。
 

 
ここで『原神』および『崩壊: スターレイル』に戻ってみましょう。
システム的な共通点もある一方で、『原神』がアクションRPGなのに対して『スターレイル』はコマンド制ターンバトルなどの相違もある両作品ですが、中でも大きな違いは、『原神』は複数元素を合わせることで「元素反応」を起こすのに対して、『スターレイル』は属性単独で状態異常を起こすということです。
が、この元素反応あるいは状態異常の名称には共通するものもあります。
 
(こちらも日本語以外での表記が一致するとは限らないが、その点は割愛。なお、『ゼンレスゾーンゼロ』では凍結と感電は共通するが、炎による状態異常は「熱傷」となっている)
 
元素反応の組み合わせはわかりやすいので多くの説明は不要でしょう。
しかも、『原神』の場合に反応の相方となっている草と水は『スターレイル』の属性には存在しないこともあり、炎単独で燃焼、氷単独で凍結……でも特に違和感はありません。
 
ところが、風だけは2つのゲームでまったく別物です。
『スターレイル』の「風化」は、ターンが回ってくるたびに持続ダメージを受けるというもの。「風化」というのは岩石などが経年変化で変質・分解されることなので、イメージは合っていますが、そもそも現実の風化は光や熱、化学物質のさまざまな作用によって起こるもので別に「風」だけの仕業ではありませんから、これを風属性にこじつけるのはほとんど語呂合わせに近いものがあります。そもそも、風化はそんな短時間で起こるものではありません。
 
ただ、「風属性」と「風化」の結びつきも、これが初ではありません。
上記の通り、『ドラゴンクエスト』シリーズの属性は一時期数が増えて複雑化の一途をたどっていたのですが、『DQ9』で大きく再編されました。そしてその頃から、「物質系」モンスターの弱点が風属性という傾向になってきました。
これは無機物の風化のイメージだったのでしょう、たぶん。
 
一方、『原神』の拡散というのは、炎・氷・雷・氷の四元素のいずれかを付着した対象に風元素を当てると、その元素を拡散するというものです。
アップにしてみましょう。
下の緑文字「3102」が風元素ダメージで、同じ色で「拡散」の文字が出ています。
そして「拡散」の文字の右の「5527」は文字カラーが水色なので、氷元素ダメージです。これは敵に付着していた氷元素を拡散したことによるダメージです。
そう、「拡散」反応は風元素によって起こりますが、風元素ダメージではなく、拡散させた元素の追加ダメージを与えるのです。
 
当然、「拡散」なので周りの敵にも当たります。これによる挙動もいろいろあります。
 
それから、上の画像でも敵を空中に打ち上げていますけれど、敵を吹き飛ばしたり吸引したりするキャラクターが多いのも『原神』の風元素の特徴です。
文字とかいろいろ出すぎて何がなんだかわからないかもしれませんが、敵を竜巻で舞い上げています。
 
また、『原神』の風元素キャラクターは高くジャンプしたり空を飛んだりと、移動に長けたキャラクターが多いのも特徴。
さらにチームに2人以上の風元素キャラクターを編成すると発動する「風元素共鳴」はスタミナ消費の軽減と移動速度のアップであるなど、風の「軽やかさ」「疾さ」のイメージが反映されています。
 
ただ、『原神』の風元素のこれらの特徴は、いずれも『原神』ならではの要素ありきです。
 
拡散:元素反応システム
吸引:アクションバトル
飛翔:オープンワールドの探索
 
言いかえると、真似したくても真似できない、独自で面白い仕様です。
これらの要素がいずれもない『崩壊: スターレイル』では風属性はまったく別物にならざるを得なかったのもわかるでしょう。
 
 
『原神』でもこれらの特性を特に活かしていて興味深いのは、西風騎士団の団長ジンです。
ジンはヒーラーであり、元素爆発では味方を回復させるフィールドを張ります。が、このフィールド上では同時に味方に風元素の影響を与えるのです。
味方に元素が付着していた場合、それを「拡散」させて吹き飛ばしますが、これはあくまで攻撃ではないので味方はダメージを受けず、むしろ周囲にいる敵を拡散で攻撃します。
『原神』では敵からデバフや状態異常を受けることはあまりないのですが、あるとすればやはり「有害な元素付着」という形を取ることが多いので、その元素を元素反応で消せば早くその状態異常を消すことができます。
 
「味方に元素を付着させる」ベネットの元素爆発と合わせてこれで継続的に拡散攻撃をするコンボ、通称「サンファイア」も今やあユーザーの間ではよく知られています。


(編集ソフト無料版なのでロゴが入っていることはご愛嬌と思ってください)

 

「さわやかな風による癒し」のイメージと「拡散」というシステムが合わさった、実によくできた設計です。

ジンがもっとヒーラー特化したキャラであるバーバラの姉であることまで含めて、よくできてます(バーバラはとりわけ「回復」との結びつきの深い水元素)。