【原神】Ver5.0実装予定のキィニチ(と、自称「偉大なる聖龍」クフル・アハウ)について | 久印のゲーム雑考

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現在はHoYoVerseの『原神』を中心に扱っています。

オープンワールドRPG『原神』で、ver5.0で実装予定と思われる3人の新キャラクターのうち、今回はいよいよ3人目のキィニチの話となります。

この3枚のイラスト中央のキャラクター、緑の少年ですね。
 
神の目は草元素、武器はプレビュー動画「手を貸そうか?」で持っているのを見るにおそらく両手剣です。

(動画56秒目。片手で持っていますけれど、刃の幅的に両手剣でしょう)

 
イラストには入っていませんが、自称「偉大なる聖龍」クフル・アハウというドット絵のマスコットのようなものを連れています。
 
イラストでコメントをつけているのもクフル・アハウです。

「あいつはオレの従者だ。頭はそこそこ回るし、まあまあ手際もいいほうだが、致命的な欠点があってな——とにかくクソしぶてぇんだ!頭から崖の下に落ちたのにくたばんねぇなんて、あり得るか?ムカつきすぎて、オレのほうが先に死んじまいそうだぜ!」

——自称「偉大なる聖龍」クフル・アハウ

名前については下記の記事で書いた通りですが、おさらいしておきましょう。

 

「アハウ Ajaw」はマヤ語で「王、支配者」を指す称号で、「クフル・アハウ」は「聖なる君主」の意味です。

そして「キニチ・アハウ」はマヤ神話の太陽神です(マヤ語辞典によれば、「キン k'in」が太陽、日の意)。

古典期マヤの歴代の王たちは、自らを太陽神キニチ・アハウと同一視したり、あるいはキニチ・アハウの子孫と称して、その地位を正当化することが多かったようで、かぎ鼻や曲がった口など、明らかにキニチ・アハウの特徴を備えた王の肖像も、多く見られる。とりわけ、古典期マヤの有力都市国家のひとつ、パレンケではキニチ・アハウは都市の守護神として大いに崇拝されていたようで、たとえば現存する大変印象的な「太陽の神殿」が、そのキニチ・アハウ神に捧げられたものであったことなども、わかっている。

(土方美雄『マヤ・アステカの神々』、新紀元社、2005、p. 33)

土方のこの著作は「キニチ」の名を名乗ったマヤの王を7人挙げてもいます。

 

日本でも『日本書紀』『古事記』の神話により天皇が神の子孫とされたように、古代社会で王が神と同一視されたり、その子孫や代理人とされたのは、珍しいことではありません。

有名なエジプトの少年王ツタンカーメンも、「アメン神に仕える者、アメン神の似姿」の意です。

 

むしろ真の「支配者」は神のみであり、人間の王とは神から権能を授かった代理人、と考えるべきかもしれません。

 

そう思ってみると、イグニッションPVの方では、キィニチがボールをキャッチする際には一瞬、クフル・アハウとは似て非なるドット絵の何かが画面に現れ、

(※ 追記:これはあくまで表情が違うだけでクフル・アハウであることが判明しました)

 

そしてキィニチがドット絵のドットを思わせるキューブのエフェクトを出しながらボールを摑んでいます。

 

これは、ドット絵の龍であるクフル・アハウの力をキィニチが行使しているように見えます。

これではクフル・アハウの方がキィニチの使い魔であるように見える? そうかもしれません。でも、「どちらが主か」「どちらが偉いか」などというのは解釈の問題で、どちらでもいいのかもしれません――主なくして従者なく、従者なくして主なし、お互いに依存しているのだと考えるなら。

 

「キィニチがクフル・アハウの力を使っている」ならば、それはクフル・アハウ側から言わせれば「自分が従者であるキィニチに権能を与えてやっている」のでしょう。

これはなるほど、「神とその権能を借りる人間の王」の関係に重なります。

 

ただ、クフル・アハウの自称する肩書は英語版だともっとはっきり Almighty Dragonlord と「龍王 Dragonlord」を名乗っているのですが、キィニチが草元素キャラクターである時点で、少なくともナタの炎の龍王ではなさそうです。

 

『原神』のキャラクターではこれまでにも、マスコットのようなものを連れていて、そのマスコットの声も独自に設定されているキャラクターが何人かいました。

フィッシュルとオズ(右のカラスがオズ)とか、

 

白朮と長生(首に巻いている白蛇)とか。

 

オズはフィッシュルの雷元素の力で生み出された存在、いわばイマジナリーフレンドの具現化のようですが、長生は白朮と契約していることが、作中で明らかになっています。

 

上記のコメントでキィニチが「しぶとい」「くたばらない」ことについてクフル・アハウが悪態をついているのも、どちらかの死をもってしか終われないような契約関係で両者が結ばれていることを示唆する、とも取れます。だから、「こいつが生きている限り縛られてしまう」と。

だとすれば、同じくHoYoVerse のゲーム『崩壊: スターレイル』で、尻尾に妖魔「シッポ」を封じられたフォフォに近い感じでしょうか。

 

まあこのフォフォとシッポの場合もそうですが、だいたいこういうのは憎まれ口を叩きながらもお互いに愛着と信頼関係を持っているのが常です。その辺は作中で描かれるのを楽しみにしておきましょう。

 

続けて、キィニチの命ノ星座ですが、これは「キメラ・アレブリヘス座」となっています。

キメラについては多くを説明する必要はないでしょう。ギリシア神話のキマイラはライオンの頭とヤギの銅、ドラゴンのしっぽを持つ怪物で、後にはライオンの背中にヤギの頭がついた姿で知られるようになり、そこから生物学用語でも複数の異質なものをつぎはぎした個体を「キメラ」と呼ぶようになりました。

 

一方、「アレブリヘ Alebrije」(スペイン語は英語と同じく複数形語尾が -s なので、「アレブリヘス Alebrijes」は複数形)というのは、怪物的な動物を象ったメキシコの木製彫刻で、元はペドロ・リナレス(Pedro Linares, 1906-1992)が作って名付けた、つまり20世紀生まれの比較的新しいものなんですが、今では彼以外の作品もこの名で知られるようになっています。

なお、「アレブリヘ」自体は意味のない造語とのこと。

 

 

 

 

なお、『原神』のキィニチの星座に戻ると、英語版では Chimaera Alebriius となっています。

Chimaera はキマイラのラテン語形表記ですので問題はありません。一方、ラテン語で alebris は「栄養になる、栄養分の多い」の意味ですが、内容的にそぐいませんし、そもそもラテン語の文法上、alebris をどう活用変化させても alebriius にはなりません。

ペドロ・リナレスの頭にこの単語あるいはその派生語があった可能性はありますが。

 

ただ、ラテン語では元々 i と j 、u と v は同じ文字でした。

ie とか ua のように後ろに母音を繋げて子音として使う際には、後に字形を区別するようになったのです。ですから古典ラテン語の j は「ヤ行」、v は「ワ行」であって、今の英語のような発音は後の転訛でできたものです(見出し語の順番でも、現代のラテン語辞典では i と j 、u と v を区別しない方がスタンダードです。日本の羅和辞典は必ずしもそうなっていませんが)。

というわけで、スペイン語の Alebrije の j を i にして、末尾はラテン語の標準的な男性名詞語尾 -us にすることで、「ラテン語風の語形」にしたものかと思われます(もっとも、日本語表記の「アレブリヘス」は複数形なのに対して、-us は単数形ですから、ピタリとは対応しないのですが。日本語では「アレブリヘス」が定着してしまったせいでしょうか)。

 

とにかく推測できるのは、キメラとアレブリヘスで合わせて「異形の怪物」のイメージなのだろう、というところまでです。

 

肩書は「ウィッツトランの竜狩り人 Huitztlan Saurian Hunter」

この場合も「ウィッツトラン Huitztlan」はおそらく地名か何か作中の固有名詞でしょうか。

由来を推測すると、「ナナツカヤン」の説明でも触れたアステカ神話では13層の天のうち、4番目が Ilhuicatl-Huitztlan です。

ナワトル語で huitz は「来る」の意、huitzlin ならば「ハチドリ」、一番近い huitztli ならば「トゲ」で、「トゲの天」でしょうか。

その線で「トゲ」の意を採るなら、『原神』でも自ずと険しい土地がイメージされますが……

 

人間と竜が共に暮らすナタで、「竜狩り人」という職業は、誕生時から万人の理解を得ることはなかった。ましてや、英雄を輩出してきたこの地で、任務に値段をつけるやり方に非難が殺到するのも無理はないだろう。

 

現実の世界でも、家畜があれば害獣もあり。人と竜が共に暮らす国でも、竜を狩る必要性もまたあるのかもしれません。

ただ、この理解を得にくいらしい職業といい、謎の「聖龍」がついていることといい、何だか鬼子のように扱われ社会に馴染まぬはぐれ者として生きているイメージが湧きますが、どうなのでしょう。

 

【Ver5.0アップデート後の追記】

こちらも「ウィッツトラン」は彼の所属する部族名「懸木の民」の異名(現地語名)だと思われます。「こだまの子」の異名である「ナナツカヤン」と由来も同じ(マヤ神話の天)という点からもそう思われます。

 


【緊急のおまけ】

以下は ver4.8 の現行イベント「陽花! 悪龍? 童話の王国!」7月21日時点での最新分までのネタバレを含みます。

 

現在、ver4.8 では期間限定マップ「シムランカ」を舞台としたイベントが展開されています。

 

これまで、次の国の実装直前の夏のバージョンでは期間限定マップで、次の国への前フリとなる話が出てくるのが普通でした。

Ver2.8 では草神ナヒーダがいちはやく声で出演し、ver3.8 ではフォンテーヌの水形幻霊が登場する、というように。

ただ、今回は折り紙とおもちゃでできた絵本の世界が舞台で、ナタに関連するものは見当たらない……ように見えました。

 

――が。

折り紙と積み木の世界なので、物体を積み木に変える力が出てきました(ちょうど本日7月21日解放のストーリーです)。

それで滝の水が積み木というかキューブに。

 

奇しくも、キィニチの出していたキューブのエフェクトに似ています。何か関係があるのでしょうか。

 

シムランカは「魔女会」の魔女アンヤたちが作った世界で、ナタとは関係ないと思われるかもしれませんが、同じく魔女会メンバーで今回も声のみ出演したアリスは、娘のクレーを西風騎士団に預けるなどほぼモンドの住人として受け入れられています。

ナタに所属し、関与している魔女がいてもおかしくはないはずです。

 

そして今回は、毒龍ドゥリンに関わる話でもありました(ドゥリンそのものではなく、同じ名を与えられた別存在ですが)。本物のドゥリンの創造者はやはり魔女会のレインドットで、カーンルイア滅亡時に神をも超える力を得た人物でもあります(ダインスレイヴ曰く「裏切者」)。

物語が大詰めに近づけばカーンルイアのことも色々出てくるでしょうから、ナタあるいは少なくともその一部キャラクターの設定に魔女会あるいはカーンルイアのことが関わっている線も、ありそうな気はします。

 


 

【参考文献】