オープンワールドRPG『原神』では、新バージョンのアップデート直前の月曜日、日本時間午後7時に、次の次のバージョンで実装予定のキャラクター立ち絵が公開されるのが恒例となっています。
今回の場合、2024年7月17日(水)にアップデートで ver4.8 が開始しています。おそらく、その次(8月31日)のアップデートは ver4.9 ではなく、ver5.0 でナタ実装となるはずです。
このアップデートの直前、ver4.6 終盤の7月15日に、原神公式 twitter(現X)アカウントおよび HoYoLAB で3人の新キャラクターが発表されました。
ムアラニ、キィニチ、カチーナの3人でした。
すでにPVにも登場していたキャラクターなので、名前の由来についても当ブログで検証しました。
この3人について、立ち絵に付随しているテキストや公式の説明文、PV映像などから読み取れることをもう少し見ていきたいのですが、長くなりそうなのでひとまず一番手のムアラニだけを扱うことにしましょう。
映像およびキャラクター説明の出典は下記の HoYoLAB 原神公式ページです。
名前のモチーフがハワイアンと知って見ると、水元素でありサーフボードで水上を駆けるのはイメージ通りです。
それから、命ノ星座が「ナミアザラシ座」となっていますが、ナミアザラシなどという和名の動物はいません。
一般に動植物の和名につく「ナミ」は「波」ではなく「並」で、「その種族の中でもありふれた標準的な種」につけられますが、その名をつけられたアザラシはいないのです。
こんな時こそ言語を切り替えてみましょう。必ずしもローカライズは一対一対応していないので、得られる情報があります。
英語版の Genshin Impact 公式twitter(現X)を見るか、あるいは HoYoLAB で言語を切り替えると、
Constellation: Phoca Neomonachus
となっています。
https://x.com/GenshinImpact/status/1812789318865612931 https://x.com/GenshinImpact/status/1812789318865612931 Phoca はギリシア語、ラテン語でアザラシのことです。地中海にはチチュウカイモンクアザラシが生息しているので、古代ギリシア人にもアザラシは知られた動物で、アリストテレスも『動物誌』で記載しています。ラテン語もこの言葉をそのまま借用しました。アザラシ科の学名もそこから派生して Phocidae です。
そして Neomonachus は、ハワイモンクアザラシの学名です。
Monachus はギリシア語・ラテン語で修道士のこと(生物の学名に用いる際の語形は基本ラテン語型)で、英語で monk ですから、モンクアザラシという和名もそのままですね。
モンクアザラシ属の学名が Monachus なのですが、Monachus 属とは別の種だとする説により新 neo- を付けて Neomonachus と命名されたのがうがかえます。
思いきりハワイ固有種ですから、ハワイモチーフがいっそう明確になりました。
ただ丸い頭から西洋人が連想したネーミングはあまりイメージに合わないので、日本語では手を加えたのかもしれません。
それから、肩書は「メツトリの案内人 Metztli Guide」です。
「メツトリ Metztli」とはナワトル語で「月」のことです。(検索すると真っ先に「月の女神」と出てくるかもしれませんが、これも元は一般名詞です。メキシカン・ネイティブにとって月信仰が重要であったと思われるのは事実ですが)
もちろん、実際に月までの宇宙旅行の案内人であるはずはないので(世界観的に)、この場合は「メツトリ」という地名なり何なりの固有名詞が作中にあるのだと考えられます。アステカ文化でも(おそらくは月崇拝と関連して)「月の場所」といった月にちなんだ地名があったようなので、そういうイメージでしょうか。
【実装後の追記】
「こだまの子=ナナツカヤン」なのと同じで、「メツトリ」は部族名「流泉の衆」のことのようです。各部族の名称について、ナワトル語のいわば現地名も設定されていると思われます。
ちなみに、アステカにも月の模様をウサギに見立てる文化はあった模様。
すると、「ナキウサギ座」であるカチーナと仲が良さそうなのは……さすがにあまり関係ないかもしれませんが(ナキウサギはそもそも一般的なウサギのイメージではありませんし)、一応念頭に置いておきましょうか。
さらに、説明文を見ると、彼女は「流泉の衆 People of Springs」という部族に属しており、「コホラ竜 Koholasaurs」なる竜と共に暮らしているらしいことがわかります。
竜を形象化したらしき6つの紋章などから、ナタ人の代表的な部族集団はそれぞれ固有の種類の竜を共生しているように見られるので、だとすれば「流泉の衆」の相棒はコホラ竜だと考えられます。
ナタをどれだけ熟知しているか、という観点から見れば、大地を見下ろす鳥でさえも「流泉の衆」のガイドにはかなわないかもしれない。遥か昔、「流泉の衆」の先人たちは自らの両足で世界を測り、複雑に折れ曲がる数々の道をシンプルな線で地図に落とし込んだ。
「流泉の衆」の次世代を担うガイドとして、ムアラニの名声はすでにナタ全土に広がっている。彼女が計画するルートでは、火山が爆発する壮観な景色やエンバーコアフラワーの放つ大自然の香り、さらにコホラ竜の即興パフォーマンスまで楽しめるようだ…しかし、もし急用で早く目的地にたどり着きたいというのなら、彼女もより安全でスムーズに進める近道を案内してくれるだろう。
ハワイ語で Kohola といえば、まずはザトウクジラのことです。北半球の冬にハワイ近海にやってくるザトウクジラは、ハワイモンクアザラシと並ぶハワイ名物の動物です。
Kohola というその名を用いたグッズや本は、日本語や英語圏でも多々あるくらいです。ご覧の通り↓
ですが、ハワイ語辞典を当たると Kohola にはもう一つ、「サンゴ礁、礁湖」という意味もあります。
テペトル竜の tepetl は「山」だったのでこっちもありそうですが、どちらでも水の竜として理解できるネーミングだけに判断しかねます。
最初のナタプレビュー動画「竜の漫遊」に出ていた3種類の竜の中にコホラ竜がいるとすれば、泳ぐ能力という点でムアラニのサーフィンと共通するこれでしょうか。
クジラと違ってちゃんと後ろ足があります。
なお、ムアラニの乗っているサーフボードはアザラシでもクジラでもなく、サメでした。
『原神』のキャラクター立ち絵には他の誰かがコメントをつけているのが常ですが、今回ムアラニにコメントしていたのはシトラリでした。
「あのコが行きたいところで、辿り着けない場所なんてナタにはない。なのにどうして毎回出発する前にいちいち吉凶を聞きに来るのかしら。ま、いっか。このさき十年の吉日をゼンブ占ってあげたから、しばらくは静かに過ごせそうね。」——シトラリ
これによりシトラリが占い師であることが判明。彼女の名が「星」の意味であることもすでに見ましたが、とすると占星術でしょうか。
ところで『原神』の世界で占星術師といえば、すでにプレイアブルキャラクターにモナがいます。
ナタ出身のNPCがこれまでいないくらい他国から隔絶されているナタにもモナの名は届いているのか、それとも別の占星術を持っているのか……これはナタの世界観の上でも重要なポイントになりそうです。
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