【原神】マーヴィカは炎神なのか イグニッションPVから考える | 久印のゲーム雑考

久印のゲーム雑考

言葉は人間による世界の捉え方そのもの。
本業は人文学の研究をやっている人によるゲーム考察ブログ。

現在はHoYoVerseの『原神』を中心に扱っています。

立て続けに、オープンワールドRPG『原神』のナタPV「名を鋳る燎火」の分析になります。

 

 

このPVに登場するキャラクターの中で、誰が七神の一人である炎神らしいかと言えば、おそらく誰もがマーヴィカだというでしょう。

この炎らしい赤のイメージカラー、鮮やかな髪、堂々たる立ち姿、どこをとっても「らしさ」に溢れています。

しかも前回記事の考察で、名前のモデルもマオリ神話の火の女神である可能性を指摘しました。ここもよく合っています。

 

とはいえ、物語には読者を騙すフェイクもつきもの。本当にそうなのか、今までの『原神』の物語も踏まえて考えてみましょう。
当然ですが、これまでの原神のストーリー、少なくともver4.2で実装された魔神任務第5章「罪人の円舞曲」の完結までのネタバレを含むことになるのは了解願います。

 


 

1年前に戻ってみましょう。

2023年7月3日、水の国フォンテーヌの実装に先駆けて、多くのフォンテーヌのキャラクターが顔見せする序曲PV「フィナーレへの歓宴」が公開されました。

 

 

この動画の中で誰が水神かといえば、多くの人は容易にわかったのではないでしょうか。

法廷を高座から睥睨するフリーナの姿は、「水神フォカロルスはフォンテーヌのほとんどの裁きに居合わせている」という作中での前情報ともよく一致していましたから。

 

ですが、私はこの時点で若干の疑問を抱いていました。

というのも、このPVの冒頭で声だけで出演しているエゲリア(Egeria)なる人物がいたからです(CV: 矢作紗友里)。

しかもその台詞が、

原罪こそもっとも公正であり、沈まぬ者はいない。

「正義」の法廷で裁きを下されるのは罪、その罪の中でも根源にあるのが「原罪」とすれば、これこそフォンテーヌの物語の核心に触れる台詞です。

これこそ神の台詞ではないか、と思ったのですね。

 

このPV時点ではまだエゲリアが何者なのか、一切の情報はありませんでしたが、さてフォンテーヌが実装されてみると、ゲーム内の本棚などのテキストからエゲリアは先代水神の名であることが判明しました。

 

以降、私の中では「先代水神は実はまだ生きている」説がしばらく継続しました。

フリーナが何の力もなく頼りないのも、そもそも表向きの地位以外のものは何も継承されておらず、本当の神は背後に隠れているからではないか、と。

 

結局、この説は違っていて、あくまで水神は当代のフォカロルスでありフリーナはその分身、という関係だったわけですが、「フリーナとは別にもっと神らしいやつがいるのでは?」というPV時点からの予想自体は、ある程度まで合っていたわけです。

 

え? 本当にそんな予想をしていた証拠? 当時は発信していないので、信じていただくしかありませんね。
せいぜいニコニコ生放送の他人の放送枠のコメント欄で話したくらいですが、ニコニコのタイムシフトは1週間しか残りませんし、そうでなくてもニコニコが落ちた今ではデータなど残っていないでしょう。

 

ではこの先見の明を持って今回のナタPVを見るとどうでしょうか。

とりあえず、エゲリアのような「もっと神らしい枠」はいません。

 

そもそも今回のナタPV「名を鋳る燎火」は、どうやら近々球技大会が開催されるらしく、カチーナが始球式のボールを投げ、そのボールが他の登場人物たちのあいだを転々としていく……という内容。そして、マーヴィカ「試合がじき始まる。みな、位置につけ」と開会を宣言します。

このことは明らかに、(マーヴィカから直接声をかけられているファトゥス「隊長」を含む)場人物たちが大会の参加者候補であり、マーヴィカが主催者であることを示しています。仕切る者と仕切られる者の上下関係は明白です。

 

ですが一方で、これまでの『原神』の七神たちのことを振り返ると、ウェンティと鍾離は正体を隠して市井の人として過ごしており、3人目の雷電将軍はようやく最初から統治者として現れたかと思うと代理の人形でした。ナヒーダはやはり最初「謎の少女」として現れて、先代マハールッカデヴァータとの関係についても二転三転する真相がありましたし、支配者として日々国民の前に姿を見せ認知されていたフリーナは偽物(いわば影武者)でした。

七神の正体に関しては、毎回何かしらのフェイクが入っています。

 

そう思ってナタPV「名を鋳る燎火」を見ると、気になるのは後半、マーヴィカが一人で暗いところに入って浮かぶ炎に語りかける場面です。

 

 

やはり一般的なイメージとして、偉い存在というのは高きより見下ろすもの。

これではむしろマーヴィカのほうが炎に仕える神殿祭祀であるかのようです。

 

もちろん、「炎」の方はまったく言葉を返すこともないので、マーヴィカの語りかけている相手が人格を持って現存しているのかもわかりません。現実世界でも墓前で死者に語りかけることもありますし。

 

それに、ここでのマーヴィカの台詞は

ふたたび燃え盛る時だ。どんなにちっぽけな火の粉でも、注目を浴びる日は訪れる。

とタメ口で、上下関係を感じさせるものではありません。

 

さらにややこしいことに、この後でマーヴィカは振り返って「見ていたよな?」と発言。

マーヴィカの後ろに6つの炎が現れます。

 

 

つまり、マーヴィカが話している相手の「炎」が少なくとも2名いるわけです。

ちなみに、6つの炎にはそれぞれナタの部族か何かの紋章と思われる(竜の種類に対応しているのかも)6つの紋章がついていますが、同様の紋章は先に高いところに浮かんでいた大きな炎の周りにも回っています。

この2名の炎の関係は? となると、わからなくなってきます。

 

『原神』世界で七神に並ぶ存在と言えば、龍王がいます。

フォンテーヌの物語で、元素龍の龍王の力をかつて奪ったものが七神(俗世の七執政)の力であるということがすでに判明していますから。

この経緯ゆえに七神と龍王の間にはある種の緊張関係がありますから、そこから考えるならば後ろで「見ていた」6つの炎のほうが炎の龍王、あるいはそれに通じるものである公算が高そうですが。

(そもそも「竜の国」ナタにおける龍王の立場とは? と考えると、これは龍 dragon と竜 saurus の関係にも繋がってくるわけですが、この問題はまた長くなりそうなので別個に論じさせていただきましょう)

 

そもそも今までの国とナタの大きな違いは、炎神についての前情報がまったくといっていいほどないことです。

これまで、作中で一つの国の魔神任務をクリアすると、次の国についての話を聞くことができました。そこでたとえば稲妻をクリアした時には八重神子から「スメール人の信仰する神はクラクサナリデビと呼ばれている」、スメールのクリア時にはナヒーダから「水神フォカロルスはつねに法廷の裁きに臨席している」といった情報が得られました。

それに対して、フォンテーヌをクリアした時にヌヴィレットから聞けたのは「ナタは竜の国である」という一事のみ。炎神には何も触れられませんでした。

 

ですから、いっそ「炎神の座は空位である(いない)」とかいう話になっても驚くことはない、想定の範囲内です。

 

さらにここまでの『原神』のストーリーを振り返ると、最初に会った2人の神――風神のウェンティと岩神の鍾離――は、それぞれの国の建国当初からの神なのに対して、残り5人の神はすべて代替わりしていることが判明しています。

古参の2人も、ウェンティは統治をせず人間の自由に委ね、鍾離も後継の岩神を指名するのではなく国の統治を人間に委ねて去りました。

雷電将軍は先代の双子の妹でずっと共にいたものの、あくまで武人であって統治者としての心得を知ることはなく、ナヒーダは実験を与えられることなく幽閉されており、そしてフリーナは空虚な地位だけで神の力を継承してはいませんでした。

七神の物語は「継承」の物語、それもいわば不完全な継承の物語です。

 

最新のフォンテーヌでは水神フォカロルスは自らの神座を破壊しました。スネージナヤの氷の女皇が「神の心」を集めているのも、「俗世の七執政」の地位と神の心が継承されるシステムそのものを破壊して、天理に挑もうとしているのだということが、徐々に見えてきています。

こうなると炎神も素直にその地位を継承していないし、また継承する気もない方が自然です。

 

想像をたくましくするなら、最初にマーヴィカが話しかけていた大きな炎こそ炎神の神座であり、「見ていた」6つの炎が力の奪還を狙う龍王か……などと思うわけですが、この想像がどこまで当たっているかは乞うご期待です。

 


 

【おまけ】

リリース前の予告PV「足跡」のスネージナヤ編で、ナレーションのダインスレイヴはこう言っていました。

彼女は、もう人に愛されない神

彼女は、もう人を愛さない神

 

七神の中でスネージナヤの氷神だけは理念が明かされていませんが、ここから氷神本来の理念は「愛」だったというのが有力です。

その意味で、氷の女皇が継承しなかった、いやむしろ継承を捨てたものは、神としての「理念」であったというところまで、予想ができるわけです。

 

となると、炎神の場合に継承が欠けたものって、残る可能性はいったいなんでしょうか……?