双子は忌み嫌われていた時代だが、若狭の者は意に介さず、ただ同じ幼子として育てていた。
一方、50歳を当に過ぎていた若狭満繁は、最近は病みがちであった。
初期症状は、微熱と咳と咽喉痛から、風邪であったのだろう。
現在の様な抗生物質の薬はなく、煎じ薬草を湯に溶かしただけの薬湯を飲み、休むことしかなかった。
体調の芳しくない事を悟った満繁は、義章を自室に呼び寄せた。
「義章様、かような老い耄れがお呼び立て致し、申し訳ない。」
「義父上、かような心配をなされまするな。それがしはただ若狭満繁の婿として、ここに居ります。」
「有り難い。父や義綱様の思し召しにて出逢えたのかもしれぬな。」
「義父上、何をお気の弱い。まだまだ活躍して頂かねば。」
「為義どのの郎党の齋藤實盛の様に?」
「さようです。若年の我々に、厳しくも温かく指導して頂かねば。」
「いや、そろそろ、一休みしたい。...そこでだが、義章様は主同様ゆえ、申し上げるが」
蒲団から起き上がると、身を正した。
「左門(満宇)に若狭の家督を譲りたいのです。」
「左門に?」
「さよう。左門も義章様同様に、30を間近にしています。また、乙輪丸も12歳。されば老兵は去り、若き者にて空気を一新した方が、賀茂家郎党として、重要ではないかと考えましてな。」