あいつ
作詞・作曲:伊勢正三
雪の中一人の男が 山に帰っていった
ただそれだけの話じゃないか あわただしい季節の中で
花束投げた あの娘の言葉が こだまして帰ってくるけど
雪どけ水の音に消されて また静けさがおとずれる
だからもう忘れちまえよ あんなやつのことは
こんなかわいい人を残して 一人でゆくなんて
あいつがたとえ 想い出ひとつ 何も残せなかったのは
あいつにすれば せいいっぱいの愛だったんだね
春がきたら 去年と同じように また山でむかえようそれまでにきっとあいつの 得意だった
歌をおぼえているから
それまでにきっとあいつの得意だった
歌をおぼえているから

編曲は石川鷹彦さんで、イントロのリードが「22才の別れ」に通じて素敵です。
この当時、何故か山岳事故が多かったと記憶しています。
特に別名「魔の山」と言われた谷川岳。
裏日本と表日本の境界にあり、天気の変動が激しく、何故あんな山に登るのか不思議でした。
一ノ倉沢やマチガ沢が、遭難の多発地帯で、夜になると、遭難犠牲者の霊が歩き回るとも…
それはともかくとして、海での遭難はお金がかからないが、山の遭難は破産するなんて言われていました。
それでも山に登りたがる人たちは、やはり山の魅力(魔力)にとりつかれたのでしょう。
もっとも、山で死ぬのも病で死ぬのも、事故で死ぬのも、残された者が悲しむのは同じ。そして「美しい死」なんかは何処にもありません。
この曲は、多分遭難した人のための「鎮魂歌」なのでしょうが、亡くなった方は、永遠に帰りません。