女たちはどう生きてきたか 山崎敬子 4
「ここを、ここをごらんなさいッ!」
と切られた場所を見せた。
下着に血がにじみ出ているのを見て、彼ははじめて気が付き、驚いて、手をゆるめてくれた。
彼の手がゆるんだ瞬間、私は戸外へ転がるようにとび出て、道路のほうに駆け出し、
「田中に刺されました。早く病院へ」
と言ったまま気を失ってしまった。
これは危ない。助からないかもしれぬ・・・いろんな声が聞こえて来る。カチカチと金属音がして、プンと嫌な消毒薬の香りがする。
ああ自分は今病院にいるなと気がついた。誰かが両手をしっかり握ってくれていた。
手術半ばに意識を失って、今度気がついた時は、病室に寝ていた。
私の目の前にはいろんな顔があった。顔、顔、顔、私はその顔をひとつひとつ見た。私がしばらくはなれていた肉親の顔だ。母の顔、伯父の顔。しかし、私はその顔の中から、たったひとつの顔を探していた。
(続く)