あの日のこと | じつはぼくのくぼはつじ

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老いを認める日々のブログ

いつだったか長女が言っていた。

「○○君、覚えとる?」

わたしは娘と妻との会話を、聞くともなく聞いていた。

「中学校の頃の?」
「そうったい、あの子が挨拶して呉れたとよ」
「えーっ、ホント」

二人の声は弾んでいる。

「どこで?」

「名札みて分かったみたい」

娘は、書店員をしている。

「ミー嬉しくってね、涙出そうだったけん」

長女の奈緒美は、自分のことを「ミー、ミー」と呼ぶ……。

「お父さんも、覚えとっど?」

娘に話を振られて、わたしは戸惑う。

えっ、○○君?あの彼この彼……、えっ?中学生の頃、娘にそんな’’彼’’居たの?

「??????」

「ミー、お父さんに言われてたから○○君のこと、いっつも守ってたとよ」

ま、守ってたの?そんな軟弱男が’’彼’’?

「ほら、あの子よ、少し障害があって知恵の……」

妻が、記憶を手繰り寄せんと目を泳がせているわたしに、助け舟を出した。

「あ、あ〜、○○君」

とは答えたものの、わたしに記憶はさっぱり甦らない。

「お父さんに弱い者イジメだけはするなって言われてたから、○○君がイジメられてるのが許せんかったたい。だけんミー、いっつも守ってた」

「覚えてて呉れたのね、○○君」

妻が泣きそうな声で言った。



わたしが子供達に望んだことは二つだけ、

「弱い者イジメをするな」

「人を裏切るな」

勉強なんか出来なくても構わない、グレようが不良になろうがこの二つを守りさえすれば、お天道様に顔向け出来る……。



「○○君、すっごく元気そうだった〜」

「良かったね!」





……妻の声と、わたしの声が重なった。