壁を透視できる少女(1) | ふしぎのメダイ

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 1960年夏のある暑い日のことである。

 マドリッドのアパートに住む貧しい彫金職人の娘は突然、壁を通して物を見る超能力をしめしたのであった。

 サンソン・フローレンスには、9人の子供があった。そして、1番末の10歳になるルイザ・フローレンスは、父親のお気に入りだった。

 ルイザは、いつも昼食を父親の仕事場まで持ってゆき、夕方には、曲り角でその帰りを待っているのだった。

 サンソンは、この娘を非常に可愛いがっていたので、この子については、母親よりも何でも知っていた。彼女がちょっとした嘘をついてもすぐに分かったし、何かを嫌がっているときも、すぐに理解することができた。

 それで、ある日、ルイザが昼食を届けに来たとき、この子が何かのために気が転倒しているのに気付いた。

 「どうしたんだい、おチビちゃん」

 彼はたずねた。

 Гなんでもないの、パパ」

 「でもおまえの顔はとても悲しそうに見えるよ。わけを言ってごらん」

 Гパパ、私をからかわないって約束してくれる?そうしたら話すわ」

 「どうして、からかったりするものかい。さあ話してごらん」

 「それじゃいいわ、とってもおかしいのよ。パパ、私、壁の向こうが見えるの。昨日からよ。自分の部屋で遊んでいたら、急に隣りの人たちが見えたの。おじさんは奥さんをぶっていたわ。奥さんが怪我をしたんで、私、とても悲しかったわ。今朝も、ママの作ったお弁当をここに持ってくる前に見てきたの。おじさんは奥さんを椅子に押さえつけて、棒でぶっていたわ」

 Гお前は、きっと空想したんだよ。壁を透かして見ることができる人なんている筈はないよ」

 Гでも、私にはできるの、パパ。見せてあげるわ」

 彼女は、壁をみつめて指さした。

 Г隣りの事務所にいる男の人は、椅子に座って居眠りをしているわ。その人は青いシャツを着て帽子を顔の上に乗せて、煙草をくわえているけど、火はついていないわ」

 サンソン・フローレンスは娘の手を引いて、ドアを開けた。まったく驚いたことに、ルイザのいったことは、すべて本当であった。
 彼は、昼食をとるのも忘れ、彼女を連れて往来に出た。

 「さあ、向こう側に見えるものを言ってごらん」

    (続く)