地球にもっとも近い天体
月。
これまでいったいどのくらい、この言葉を繰り返されてきたのだろうか。月を形容する言葉は、これしかないのか。そう思えてしまうほど、われわれはこの言葉を聞いてきた。まさに万葉時代の枕詞のようである。
そのせいか我々人類は、月のことならなんでも知っているかのような気分になっている。
勿論、他の天体に比べたら情報は桁違いに多い。情報量でいえば、冥王星とは比べものにならない。なんだかんだといっても、人類が足を踏み込んだ天体は、この月しかないのだから、当たり前といえば当たり前の話である。
だが、皮肉なことに、これほど謎に包まれた天体もほかにない。情報がありすぎて、実態がよくわからないのである。
1969年、アポロ11号が月面着陸に成功し、人類は初めて月の大地に降りた。このとき、世界中の人々は、これで月に関する謎がすべて氷解すると信じていた。地球からでは分からなかったことが分かる。今まで謎だったことも、きっと解明できるに違いない。誰よりもそう信じていたのはアポロの乗組員だったかもしれない。
ところが、だ。
皮肉にも、月の謎は解明されるどころか、もっと増えてしまった。月面に行って分かったことを10とすれば、新たに増えた謎は100、いや1000以上であろう。
知れば知るほど、謎は深まる。
それを如実に示したのが月面探査だったのである。
アポロ計画以来、絶えず人数は月を眺め、その謎に挑戦してきた。最近では非常に高性能のハイテク機器が導入され、月に関する研究は加速度的に進歩してきた。
そうした時代の流れのなかでは、昨日まで常識だったことが覆えされることも、決して珍しいことではない。
新しい発見が人類すべてに公開されるかどうかは別にして、その最前線に於いてはわれわれが抱く月のイメージはない、といったらいいすぎだろうか。そうは思わない。
1993年、日本の某新聞に、月に関する驚天動地の記事が載った。
(続く)