#542 (gootama 41) 教科書は“重い”(2024.05.24) | コトバあれこれ

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子ども作文教室、子ども国語教育学会の関係者による
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 先日、子ども作文教室で使用するための中学国語教科書10冊を買って、その重さにびっくりしたことがあった。測ってみると520g/冊あり、 全体で5Kg以上あったことになる。また、自宅の町で問題を抱えている子の学習支援サポートをやっているが、「小学生は教科書を学校に置いておくよう指導されていて家に持ち帰れないので、復習・予習が出来ず困る」というサポーターの意見にも遭遇した。確かに、小学生の{国語、算数、理科、社会+問題集+ランドセルの重さ}を考えると4~ 5Kgになってしまう。平均的なランドセルの重さは、1.3Kg程度だそうだ。重さを1Kg以下にしようと努めているメーカーもあるようだが。いずれにしろ、重たいランドセルを背負うのは子供の心身の不調を起こしてしまい、学校に行くのが嫌になったりする。”ランドセル症候群”とも呼ばれているとのこと。従って、文科省も「置き勉」と称して、学校に教科書を置いて帰ることを認めている。

 

 教科書は重い(物理的に)だけでなく、中身のコンテンツも増え、頁数も増え続けている。更に、タブレットの使用、デジタル教科書とのつながりもあり、教育現場の状況が大きく変化してきている。小学校教科書の頁数の推移については、下記のようなデ-タがあった。

 平成17年度(2005年度)は、ゆとり教育の真っ最中で、平成22年度まで続いた。それが終わると急激に頁数が増えてきている。特に、国語、そして算数が多い(➞重い)。頁数が多いということは、当然コンテンツも多くなっているということだ。現在の国語などの教科書を見ると、中身がとても充実しているという印象を受ける。中学校の主要教科の教科書を読んで比較検討した面白い本を見つけた(1)。その中のエッセンスとして、次のような趣旨のコメントが載っていた。

「人々が社会で生きてゆくための基本の知識・教養を十分身につけているとは言い難いのではないでしょうか。しかし、中学の教科書をあらためて丁寧に読んでみて欲しいです。「知のチェック」を行いながら、スタンダードを身につけてゆくのにこれ以上の教材はありません。加えて、大人世代が学んだ中身と今の教科書の中身では、書かれていることが劇的に違います。」

 

 分量が多く中身が非常に濃い反面、全部教えきれるのだろうかという疑問も湧く。個人的には、基本をよく考えて、もう少しコンテンツを厳選するとか、1年➞3年に向けて段階的にレベルを上げてゆくなどを配慮した方がよいのではないかという気がする。

 

  現在の教科書は、その制作に課題を抱えている(2)。まず、コストの問題である。頁数の増加、大判化、WEBコンテンツの充実により多大な労力が必要になり、コストが増大している。一方、値段の方はほとんど上げられないでいる。現在、小中学校の教科書の定価は、どれもほとんど1000円以下である。義務教育の教科書は、みな無償供給であり、税金で賄われている。更に、児童生徒数の大幅な減少が教科書発行にも影響を与え始めている。

  もう一つは、“デジタル教科書”の導入、紙の教科書との併用である。もちろん、この前提としてタブレット(ハードウェア)の導入がある。これらのツールにより、電子黒板上での情報共有、ネットを用いた情報収集・分析、他の組織とのオンラインでの共同学習、家庭での復習・予習への利用など、幅広い応用が可能になる。それぞれの現場で、利用法の開発・試行がなされている段階だろう。ICT教育には、独自の教科書作成費用、インフラの保守・管理などの費用が上記のコストに乗っかることになる。

 

  江東区に教科書図書館(3)というのがあり、訪ねてみた。過去の教科書や関連資料の蔵書が豊富にある。自分が小中学生だった頃の教科書も見てみた。ほとんど覚えていなかったが、確かに今のものとは大きく違っていた。約70年の時代差を知ったことになる。義務教育の教科書は、日本の教育、そして社会を支えている根幹の教材である。皆で関心を持ち、必要な財政的支援を惜しむべきではないと思う。

 

<参考>

(1)『人生に必要な教養は 中学校教科書 ですべて身につく』 池上彰、佐藤優 中央公論社 (2020年6月25日)

(2)『教科書発行の現状と課題 令和5年度(2023)』  一般社団法人 教科書協会

(3)教科書図書館:教科書図書館資料検索ページ – 公益財団法人教科書研究センター (textbook-rc.or.jp)