#541【まさ90】V R(仮想現実)でリハビリ治療(2024.5.17) | コトバあれこれ

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子ども作文教室、子ども国語教育学会の関係者による
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 インターネットの世界でV R(仮想現実)技術は今や当たり前のように使われているが、脳梗塞などのリハビリテーション治療に使う例はまだ多いと言えない。三鷹市は2023年12月1日、同市大沢の特別養護老人ホーム跡に、在宅医療・介護の推進拠点「三鷹市福祉Laboどんぐり山」をオープンした。

 

(三鷹市福祉Laboどんぐり山の正面玄関)

 この施設は高台の住宅街にあり、V R技術を使ったリハビリ機器やeスポーツの体験ができる「在宅医療・介護研究センター」のほか、介護人材の育成と市内事業者の支援に取り組む「介護人財育成センター」、介護保険外の独自サービスを行う「生活リハビリセンター」で構成されている。こうした福祉分野の研究開発を手掛ける市の施設は全国でも珍しいという。

 

 VR技術を用いたリハビリ治療を体験

 連休明けの5月13日の午後、在宅医療・介護研究センターでV R技術を用いたリハビリ治療を体験する機会があったのでご紹介したい。この技術は大阪大学発のベンチャー企業mediVRが開発した機器「mediVRカグラ」を使う。V R空間で座ってゲームのような運動を行うだけで、体験者に適したリハビリが可能になると、同社では説明する。脳梗塞や脳腫瘍などでダメージを受けた脳と体の各器官は例えてみれば操り人形を自在に動かすヒモが絡み合った状態にあるため、脳の指令が各器官に伝わらず、思うように動かせないという。こうした「脳と体の情報処理過程の異常」をいわば「交通整理」する「体性認知協調療法」で脳の記憶を書き換えようというものだ。

(ゴーグル型ディスプレイとコントローラで構成。mediVR社提供)

 何やら小難しく聞こえるが、実際に体験してみれば少しはわかるのではないかと、筆者はmediVRカグラを試してみた。まず、椅子に腰掛け、ゴーグル型ディスプレイを装着、両手にコントローラーを持つ。VR空間には私自身の体は表示されず、コントローラーと目標となる「オブジェクト」しか表示されない。特に、病気による障害があるわけではないので、始める前に、別室で、一定時間の間に椅子から立ち上がり、座るという運動や、椅子から立ち、目標地点まで歩き、戻ってくるという運動を通常とやや速足の2種類で行った。カグラを試したあと、再び同様な運動を行い、治療の効果があったかどうかを確認した。詳細は省くが、始める前に上下左右などにコントローラーを持った手を伸ばし、距離を測定しておく。実際に、腕と手を動かすわけだ。その後、VR空間で上の方から落ちてくるリンゴを左右交互にコントローラーに重ね合わせる「点推定」を行うことで、脳に身体動作のイメージをはっきりと生成させるという。点推定は奥行き方向に関する空間座標の指定が重要になる。実際にコントローラーをリンゴの上に置くというイメージで視覚、聴覚、触覚に刺激があった。

(VR経験者が見るゲームのイメージ画像。mediVR社提供)

 

 カグラを使って効果があったのか気になるところだろう。椅子からの5回立ち上がりテストでは、治療前にかかった時間は11秒03だったが、治療後に9.31秒と速くなった。椅子から立ち、一定の距離を歩いて戻ってくるテストでは通常の速さで、治療前が9.28秒、後が8.31秒、できるだけ速く歩いた場合、治療前が7.72秒、後が7.16秒と改善した。脳と体の情報処理能力が向上したと、mediVRの理学療法士である藤家義也氏が解説してくれた。わずか1回、30分にも満たない体験だったが、効果はあったようだ。藤家さんによると、30歳代の女性で脳梗塞後の手の震えが1回の治療で軽くなった、脳腫瘍のためバランスが悪くなった5歳の女児が20分1回の治療で走れるようになったなどと報告されている。

 

フレイルにも効果

 加齢による心身が衰えた状態になる「フレイル」(虚弱)にも効果があるという。また、高齢になると、ちょっとした段差で転倒、骨折し、そのまま寝たきりになることが珍しくなくなるが、こうした転倒予防にも役立つという。病気や要介護状態を問わず、健康な人でもカグラを使うことで身体機能の維持を図ることができそうだ。V Rの活用に改めて感心した次第である。