#524【まさ88】自然神『ゴジラ』?!(2024.1.12) | コトバあれこれ

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子ども作文教室、子ども国語教育学会の関係者による
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 2023年末、話題の日本映画を見る機会があった。特撮怪獣映画『ゴジラ−1.0(マイナスワン)』(山崎貴脚本・V F X・監督)である。ゴジラを主役にした映画はこれまで数多く制作されてきたが、ロシアのウクライナ侵略など戦争や核兵器への反対をあらためて明確にしたのが特色だ。『ゴジラ』の第1作が1954年に公開されてから70年になるだけに、まさに「原点に戻る」映画ではないだろうか。

(『ゴジラ-1.0』の予告編の1場面)

 ところが、元日の夕方、能登地方に阪神・淡路大震災を上回る大地震が発生した。今も孤立している地区が多く、災害関連死も含め、死者数は増え続けている。降雪や降雨で寒さが募る中、不便な避難所で生活されている方も多い。お見舞いを申し上げたい。

 能登半島大地震の詳細が明らかになるにつれて、『ゴジラ−1.0』への筆者の見方が微妙に変わってきた。戦争反対だけにとどまらないのではないだろうかと言う見方だ。この映画も今後のシリーズ化を見据えて、エンディングはゴジラの再生を暗示して終わっている。ネタバレになるのは申し訳ないが、ここは筆者の主張の肝になるのでご容赦いただきたい。

 

世界でも評価が高い『ゴジラ-1.0』

 ゴジラ映画はこれまでに36作作られ、本作品は『シン・ゴジラ』以来7年ぶりの作品だ。世界最大の映画鑑賞記録S N S(ソーシャル・ネットワーキング・サービス、会員数900万人)の23年のレイティング「ベスト20」に第7位で入った。日本映画では6位の是枝監督の『怪物』に次ぐ。評価だけでなく、日本国内のみならず海外での興行成績も良い。

(70年前に公開された『ゴジラ』第1作)

 ゴジラは第1作で、ゴリラ(具体的には『キングコング』のイメージか)とクジラの合成語として命名されたという。今回の映画は、小笠原諸島のある島の守備隊基地に主人公である特攻兵の飛行機『零戦』が不時着するところから始まる。その夜、島の伝説の怪獣、全長15メートルを超える「ゴジラ」が襲来、基地を全滅させ、姿を消す。主人公は守備隊の兵から零戦の機銃を使って退治するよう要請されるができなかった。

  1946年、米軍は南太平洋のビキニ環礁で核爆発の実験を行った。その近海にいたゴジラも被曝した。被曝でゴジラの細胞が変化し、体高50m以上に巨大化して復活した。機雷や機銃で攻撃され、ダメージを受けてもすぐ回復してしまう。巨大化したゴジラは口から強力な熱線も放射するようになった。

どうやらゴジラは体内で核融合反応を起こし、それをエネルギー源にしているようだ。核融合といえば、太陽をはじめ、夜空に輝く星はみな核融合反応で輝いている。核融合反応は2つの原子核同士を衝突させて融合する。こう書けば簡単そうだが、人工的に起こすには超高温・超高圧の状態で融合させる必要がある。爆弾としては原子爆弾を起爆剤として水素核を融合させる水素爆弾はできたものの、発電して電気を取り出す核融合発電は研究されているがまだ実用化していない。だから、なぜゴジラは体内で核融合ができるのか、物語としても本来なら説明が必要なところだろう。

 

ゴジラの原動力は「常温核融合」?

実は時々、科学の世界を賑わす話題に「常温核融合」がある。これは、室温から摂氏約1000度の低い温度帯で水素原子の核融合反応が起きるとされる現象だ。1920年代から低い温度で核融合ができるという仮説はあった。1989年3月、英米の科学者が常温核融合現象を発見したとマスコミに発表したことから大騒ぎになった。

前年、絶対零度に近い温度帯でしか起こらないと言われていた超伝導現象が、それまでの理論の予言から説明のつかない高温で起こる(とは言っても零下80度程度の低温)「高温超伝導現象」が発見され、世界的なブームが起きていたことも後押しした。高温超伝導現象が事実なら、常温核融合も可能と言うわけだ。しかし、発表された実験を再現しようと、世界中の研究者が取り組んだが、多くは常温核融合による過剰熱は確認できず、過剰熱の観測に成功したとされる実験も再現性に乏しかった。その後ブームは低調になったが、昨年も常温核融合現象を発見したとの発表があったものの、追試には成功していない。

この映画でも、常温核融合の説明が一言あれば、巨大生命体であるゴジラの活力を理解(?)できたかもしれない。

 70年前のゴジラ第1作は明白に戦争・核兵器反対を訴え、それらを象徴するものとして悪役「ゴジラ」を作り出した。ところが、その後、ゴジラ映画がシリーズ化されるに伴い、悪役だけでなく、時には宇宙からの怪獣と戦い、人類を救う主役にもなった。「ゴジラー1.0」は久しぶりに原点に立ち返ったわけだ。

今回、私がブログのタイトルを自然神『ゴジラ』としたのは、地球との関わりも大事な要素ではないかと考えたからである。能登半島地震に限らず、阪神・淡路大震災や東日本大震災など大きな被害をもたらした自然災害も、地球全体から見ると、極めて小さなものである。人間社会は少し断層がずれただけで甚大な被害を被るが、地球自体が大きく変わるわけではない。100年、1000年単位で考えると、大地震は何度も繰り返されている。自然すなわち地球と考えると、ゴジラが暴れて東京などを壊滅させるのは、地震や台風などで自然が猛威を振るう比喩ではないだろうか。ちなみに、ゴジラの英語『G O D Z I R A』にはG O D(神)が含まれている。こう考えると、我々は地球に対しもっと謙虚になる必要がるだろう。

 今月から、『ゴジラー1.0』の白黒版が公開されている。第1作も白黒だったが、今回の映画も白黒版の方がよりリアルに感じられるかもしれない。