#520【neko22】:小さな自然観察会㉒(2023.12.8) | コトバあれこれ

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子ども作文教室、子ども国語教育学会の関係者による
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アートを楽しむ里山


 

 川崎市内の最北端、多摩丘陵の川崎最高地点もある地域の里山をめぐり自然の中でアートを楽しむ企画が毎年開催されている。「道と緑の美術展in黒川2023」に行ってきた。

   小田急多摩線のはるひの駅から黒川駅まで、約3㎞の道のりであるが、町から里山、谷戸、田畑などをめぐる道沿いや林の中、緑地、湿地などに24のオブジェが展示されている。

 

 この辺りは、自然観察や調査によく訪れる場所だが、毎年11月は、大きな美術館になる。

11月にしては暖かすぎるぐらいの穏やかな日、訪れる人も多い。禅師丸柿の鮮やかな黄色、鳥のさえずり、落ち葉やどんぐりを踏む足音、里山の一番にぎわう季節かもしれない。

 

        

 

 黒川緑地地区は、2015年に環境省の「生物多様性保全上重要な里地里山」(500か所)の一つに選ばれており、貴重な里山の動植物が維持されている。宅地の開発もされているが、地域の農家が畑を営んでいるところと保全緑地が連なり、市民団体による緑地の保全活動も活発である。

 

 この美術展は、2016年から始まり今年で8回目となるそうだ。

 数年前、観察会の途中に谷戸の湿地(昔は田だったところ)で、作品制作中のアーティストに出会ったことがある。華奢な女性だったが、長靴をはき、道から数十mの湿地の真ん中まで木材などの資材を抱えて運んでいるところだった。なかなかの重労働に驚いた。オブジェを設置する場所にもよるが、自然環境に負荷をあまりかけないよう配慮しながらの作品作りであろう。

 

   駅前でいただいたパンフレットを手に、順路に従って歩く。作品には、題名が添えられている。作品から、作者はどんな思いでここにこの作品を置いたのだろうかと思いを巡らせながら歩く。その中から一部を紹介する。

 

<里山どんぐりプロジェクト>

 

 森の入り口で迎えてくれたのは、『里山どんぐりプロジェクト』。出品作家有志の共同制作。「昨年この里山で拾ったどんぐりが発芽しました。植木鉢に植えた苗木を並べてみたいと思います。里山で展示ができることへの感謝の気持ちを込めて・・・。」と看板が立てられていた。この秋、ブナなどのどんぐりが不作と言われているが、ここのどんぐりは昨年と変わらずたくさん落ちている。歩くと枯葉のカサカサとどんぐりのジャリジャリが不協和音を奏でる。

 3年ほど前から広がったナラ枯れの被害は、まだ収束していない。ところどころに枯れ木や倒木を伐採した跡がある。自然林であれば倒木の跡の日の差し込む場所に芽生えた実生が育つであろう。今、枯れた木が伐採された後の切り株があちらこちらに残されている。このどんぐりの苗木が森の再生につながってくれると嬉しい。

 

    

 

<緑地の中もアートでいっぱい>

 

 普段訪れるときには、よく里山ボランティアの方が池や水路の手入れをしている緑地。山裾から湧き出す湧水が数段の池を作っている。池のほとり、広場、そこここにオブジェが点在している。秋の日を浴びて歩くのは、楽しい!

 

 『ぼくの!』 差し出すチンパンジー。指さす先には、池。 ほしいのは、お魚?  ザリガニ?

 

 『歩くグルグル・むこうに』と、カラフルなゲート? 枯れ枝が渦巻き状に置かれて道を作っている。矢印あり。入ってみると・・・、なるほど、むこうに出た!

 森と野原の境目、風に森の香りと枯草の香りが同居している。

 

    

  『ぼくの』                『歩くグルグル・むこうに』

 

<林の中も湿地の中も>

 

 湿地の縁の林に、大きな朴の木がある。朴の木の下には、『ほう葉の下』。「この、おおきな木にあこがれていました。大きな葉は風に揺れ、木の下にいる私たちはそれを眺め、穏やかに息をします。葉が落ちる季節が来ると、今度は向こうの空を眺めて、深く息をします。」bunnty     木の下にいる「私たち」のように下から空を見上げて深呼吸。

 

                              

                『ほう葉の下』

 

   湿地。かつて、ここは水田だった。田の跡の湿地の両側を水路が流れている。「かつての水田に輝く実りの姿を想う」と添えられた『実り』は、稲穂のような光の影を湿地の緑に写して輝いている。

 

   少し歩くと、そこは『土の居場所』。昨年、確かここにこんな土のサークルがあったけれど、同じものかなと訝しく思いながらパンフレットを開くと、「久しぶりに緑地に来ると、一年前の跡が残っていました。過去の行為に寄り添いながら、新しく土の柱を立ててみようと思います。」とある。まだ、開催期間のはじめなので、もしかしたらこの柱はもっと高く成長するのかも・・・。

 

   その先には、土から生えた根に捧げ持たれた『マモリタイ・モノ』。「私が、わたしであるために あなたが、あなたであるために」

 

      

   『実り』          『土の居場所』     『マモリタイ・モノ』

 

 

<道端に>

 

   道は、緑地から田畑の間の舗装された道に代わり、線路の高架が見えてくる。船に乗った人(頭)である。『僕らの物語・彼らの物語』

 

        

           『僕らの物語・彼らの物語』

 

   作者の想いを、ここには記載しないでおく。ぜひ、あなたの物語を紡いでみては。

 

<里山の恵みをいただく>

 

 さて、このコースを歩くときの終点は、「セレサモス黒川店」である。地場産の野菜や果物とその加工品、花苗などが見ているだけでも楽しい。つい、買い込んで帰りの荷物が重くなる。この日は、柿、食用菊、銀杏、里芋、薩摩芋、蓮根、秋ナス、葉付大根、キノコなど、季節のもの満載。珍しいものとしては、禅師丸柿、芋茎、むかご、あけびなど。

 欲しいものいっぱいだったが、むかご、防空壕キクラゲ、食用菊、里芋などと禅師丸柿を抱えて帰途についた。

                                     neko記