♯0261【kubotan88】:気になる病院での医学用語① (2020.01.21)   | コトバあれこれ

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子ども作文教室、子ども国語教育学会の関係者による
投稿記事ブログです。


             病院での専門用語は難しい?

 

●私は、昨年の11月18日(月)から12月3日(火)までの2週間、生ま

れてはじめて緊急入院してしまいました。その後は通院治療などで

ブログを書く余裕がなくなり、数回休ませていただきことになりました。

 

実は、「膿胸」(のうきょう)という病名で、担当医からはじめて聞かされ

ときは、何のことだか分からなくてか、思わず聞き直してやっと納得

したものです。それでは、そのときの会話の一部を再現してみましょう。

 

  医者:これは「膿胸」の可能性がありますね。

   私 :は?「農協」ですか?

  医師:そうです。初めは「肺炎」かと思ったのですが。

   私 :先生、「ノウキョウ」っというと、あの農業協同組合の

      略語の「農協」のことですか?

  医者:ええ?いやいや、そうでなくて、「膿胸」という病気が

      あるんです。

   私 :はあ、そうですか。でも、よく分からないんですが。

      それは、どういう漢字で書くのでしょうか。

  医者:そうですね。「膿」という字と、「胸」という字を組み合

      わせせて、「膿胸」となりますね。

   私 :ああ、そういう風に表現するんですか。はじめて知り

      ました。

 

●私はといえば、医者の説明でやっと納得したのですが、この会話は

はじめからチンプンカンプで、コミュニケーションが不成立でした。

つまり、お互いの理解が成立していないという、典型的な例ではない

かということです。

 

なぜなら、医者は専門用語の「膿胸」を当然のように使っています

が、患者の私が「ノウキョウ」と聞けば、「農協」という言葉しか思い浮

かばないので、当然噛み合わないわけです。その若い先生は、はじめ

は怪訝そうな顔をしていましたが、私が言葉の意味を確認したことに

より、先生はこの患者(私)の勘違いにやとうとう気づかれて、お互いに

大笑いしたものです。

 

なお、この「膿胸」という病気は、胸に膿が溜まり、肺の外部を覆うと

いう危険な病気だと考えられています。病状が悪化すると呼吸が困難

になって手術することになり、放っておくと数日後には危険な状況に

なるようです。

 

●さて、東京女子医大の説明では、「膿胸とは、胸腔内に膿性液が

貯留した状態です。早期のドレナージと抗菌薬投与、および手術が

治療の基本となります。 気管支、肺との間に瘻孔を生じた場合に、

有瘻性膿胸と呼び、より複雑な治療が必要となることがあります。

高齢者や糖尿病、免疫抑制剤服用者など、易感染性の患者に胸水

貯留と発熱などを認めた場合、本疾患を疑う必要があります。」と

なっています。

 

             

                         ↑

            (ネットで検索した膿胸患部=右下部分)

 

●上のレントゲン撮影にあるように、膿(うみ)が胸の中央辺りまで

真っ白になっており、肺下部に膿が一面に覆っていることを示して

います。本来、健康体であれば胸骨の殆どがきれいに見えるはず

ですが、このようになった場合はかなり危険な兆候だといえるよう

です。

 

●ところで、病院で言葉が分からなくて困ったことのある人は意外に

多いのでしょうが、ほとんどの人は元気になって退院するとそのこと

を忘れてしまうようです。

 

ただ、私の場合は言語行動に興味があり、今度の入院をきっかけに

して、病院ではどんな専門用語が使われているのか、気になったの

調べて見ることにしました。

 

すると、いろんな場面を改めて考えてみると、お世話係の看護師の

言葉はときどき分からないし、医者と看護師が交わす会話も意味が

不明のときがありました。その都度メモにかいておけばよかったの

ですが、年のせいかせっっかく覚えていたつもりの言葉が思い出せ

ないのです。

 

そこで、退院後にネットで検索したところ、病名で分からないのが幾

つもあって、辞書をたびたび引く始末でした。このことから病院内の

日本語はどうなっているか、について少し考えてみることにしました。

 

●さて、急患は差し迫った状況で病院にいくことは想像できますが、

当事者は混乱してオロオロすることがよくあり、病院の担当者との

会話で困ることが非常にい多いそうです。

 

               

           (マスク越しで聞き取りにくいのですが!?)

 

●しかも、担当医や看護師はマスク越しに会話をしていると、

口の動きが分からないので、患者は何を言っているのか理解

できません。院内感染という面から、咳などからの感染防止

のでしょうが、こういう状況はなんとかならないのでしょうか。

 

 さらに、患者が困るのは、薬の飲み方が不確かなときです。

例えば、「食間」と言われた場合、これは何時に飲めばいいの

か考え込んでしまいます。薬は「食前」に飲むことはまずない

ので、「食後」から次の食事の中間時間帯に飲めばいいので、

患者は適当に判断してしまうことになります。

 

余談ながら、日本語で「ショッカン」といえば、この同音異義語に

「食感、触感、食缶、食管、食幹」などがあるので、きっと日本人

でも判断に困るので、外国人はもっとは困るでしょうね。こうなる

と、もうセンター試験の漢字の問題もどきとなりますね。

 

●先程の「膿胸」の場合も、「農協」とい同音異義語のために、私

が混乱しただけなのかもしれませんが、よく調べていくと医学用語

は不必要なくらい難解な漢語(看護ではありません)を使っている

場合が多いような気がします。

 

例えば、「侵襲、寛解、予後、転帰、軽快、穿孔」という用語などは、

日本人でも分かりにくい医学関係の用語です。また、急性期、排泄、

疼痛などは、文字を見れば意味はわかりますが、音声で聞いただけ

では理解しにくい言葉もあります。ちなみに、上の用語を辞書で調

べてみると、次のように説明されています。

 

 ・侵襲(しんしゅう) ➜病気やけが、また医療処置などに

               よって生体を傷つけること、また、

               その刺激。

 ・寛解(かんかい) ➜白血病などの症状が一時的にあるい

               は、永続的に軽くなること。「~導入療法」

 ・予後(よご)    ➜①病気・手術などの経過について医学

               的な見通し。「~不良」(=病気が回復

               する望みが少なくない。

              ②病気が治ったあとの経過。

 ・転帰(てんき  )➜落ち着く所。行き着く先。

              「病が死の~をとる」

 ・軽快(けいかい) ➜病気が回復すること。

              「一か月の療養で~した」

 ・穿孔(せんこう) ➜潰瘍(かいよう)などによって胃や

               腸に穴があくこと。「胃~」

 ・急性期(きゅうせいき)➜病気にかかった当初の、症状が変化

               しやすい時期。「脳卒中~の治療」

 ・排泄(はいせつ) ➜生物体が体内に生じた不用な物質を

               体外に出すこと。排出。

 ・疼痛(とうつう)  ➜うずくような痛み、ずきずきする痛み。

 

いかがでしょうか。日本人であれば漢字を見てなんとか意味が想像

できるできるでしょうが、やはり外国人には理解することとが難しい

かも知れませんね。

 

                 参考:『広辞苑』、『明鏡国語辞典』

 

kuubotan 記す。

(2020.01.21)