「野獣ひろし!あたっくチャンス!!」
明日は頑張りましょう。獰猛な野獣になりましょう。そうした内容のラインを先輩に送信すると、よく分からない返信が届いた。その夜、僕は無視して寝た。決戦の日、僕は普段着ないスーツで待ち合わせ場所に向かった。先輩は何だかモコモコした格好で携帯を弄っていた。覗くと最近始めたらしいプロ野球スピリッツに御執心である。ほら、菊池がツーベース!先輩の嬉々とした報告に、他人の野球ゲームの試合動向に1ミリも興味ないっすよ、と僕は答えた。あと野獣ひろしってなんすか、僕の質問に先輩は、柳生博、と言った。開催時刻まで1時間、僕らは腹が減っては軍は出来ぬ、て事で飯屋を探す。定食屋の看板が見える。天神わっぱ定食堂。ショウケースにカツ丼が飾ってあって。
「二人でカツ丼食いましょう!今夜は勝ちましょう!」

そんなノリで注文したカツ丼は890円で、卵がトロトロ、カツはサックサクで美味であった。二人で勝利を誓い合い会場入りする。島田のパーティー。主催のしまちゃん、こと島田さんは五十がらみの恰幅のいい気さくなおいちゃんで市内にバーを数軒経営している。島田のパーティーはいつも大盛況で美男美女が勢揃い、参加したほぼ全ての男女が交際に発展、電撃スピード婚の事例も枚挙にいとまがない、ごっついイカしたパーティーらしい。
しまちゃんの「さあパーティー開始でーす!」の合図とともに薄暗い貸切のバーに集った男性陣が一斉に動き出す。さも当然の風景の如く、僕と先輩の二人だけが会場に取り残された。男性の方が二人人数が多かったのだ。僕と先輩は完全に草食動物なのだった。どうも狩猟には向いてないらしい。ハイボールをちびちび舐めながら、女性を遠目に物欲しそうな視線でじっとり眺めるだけだった。会場に響く野太い声、嬌声、その雑多な音階の渦の中で僕の思考はぐるぐる回転しこれからの人生について漠とした不安に苛まれたのだ。


そして翌週、僕はソロキャンプに行った。ゴミが散らばる汚いキャンプ場で焚き火をしつつ、寒さに震えながら僕は暇潰しに先輩にどうでもいいような内容のラインを送信したのである。
