もすっ!をとこのHardぼいるど 「鳥の囀る方へ」 | エキセントリックギャラクシーハードボイルドロマンス         

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〜文学、お笑い、オートバイを愛する気高く孤独な三十路独身男の魂の軌跡〜 by久留米の爪切り






断続的に降る雨に、黒い小振りな折り畳み傘を広げ閉じたりと繰り返しながら歩く男は、顔を顰めた。足元のチェルシーブーツはゴム底が半ば外れかかり、濡れた路面は容赦なく中の靴下まで濡らした。五穀神社の鳥居をくぐろうとする男、一体何処に向かって歩いているのか、胡乱な後ろ姿だった。 




唐突に、男の顔が左を向いた。数秒間立ちどまる。時刻は14時30分過ぎ、駐車場に車は一台も停まっていない。茶髪に黒Tの女性店員が箒を片手に店の周囲を歩いている。意を決したように男は「大砲ラーメン 本店」の暖簾をくぐる。







先客は4組程度、夏休みからだろうか、学生風のグループが目立つ。男は店内入ってすぐ右側、精算機と厨房に面したカウンター席に腰を下ろし、すぐさま緑茶を差し出した店員氏に注文を告げた。




「あ、ああっ。ラ、ラーメン。な、並でよかです。か、固さ、普通で」




少ないお小遣いから断腸の思いでラーメン代を捻出する中学生の如き、緊張に満ちた上ずった声色だった。その昔、学生時代、当店にてタオルを巻いた若い男性店員に、か細い声でラーメン下さい、と注文した際、「はあっ?なんてえっ」と怒気をはらんだように聞き返された苦い記憶が甦ったのだろうか。







壁にTシャツが飾られている。コンマ2秒くらい購買意欲が湧いたものの、打ち消した。







ラーメンが提供された。ハードボイルドを中心にチャーシュー、海苔、葱がトッピングされている。エッグスライサーを使用した痕跡が見えるゆで卵は、きっちり卵半分の分量だった。スープを飲む。ほんのりした臭みが鼻腔に抜け、骨粉なのか少々ざらついた食感だが、全体としてはまろやかで食欲を掻き立てられてしまう。中細ストレート麺をずるずるっと啜る。口の中で、もさもさした感触がある。思い出す。ああ。これが大砲の味だな、と。




赤いニンニクを投入して味を変える。白い奴より、男はこちらが好みだ。これまでの人生、何度これを入れ過ぎて後悔したか分からない。翌日の朝まで息が臭くなるのだ。





替玉100円を注文した。たれ、も一緒に提供された。たっぷりかけまくり、残ったスープにぶち込む。




(…しょっぺー!)




スープが飲めないほど塩辛くなってしまった。これは失敗だったが、まあ、やはり大砲は美味かった。店を出た男は、腹をさすりながら、鳥居をくぐった。一体男は何処に向かっているのか。




遠ざかっていく背中の向こうから、けたたましい鳥獣の鳴き声が折り重なり、耳朶に響いた。












<p><a href="http://tabelog.com/fukuoka/A4008/A400801/40000224/?tb_id=tabelog_5d5be1e70b17850e486802e58c66f525028f8439
">大砲ラーメン 本店</a> (<a href="http://tabelog.com/rstLst/ramen/
">ラーメン</a> / <a href="http://tabelog.com/fukuoka/A4008/A400801/R3454/rstLst/
">櫛原駅</a>、<a href="http://tabelog.com/fukuoka/A4008/A400801/R7479/rstLst/
">西鉄久留米駅</a>)

<br />昼総合点<span style="color: #FF8C00;">★★★★</span><span style="color: #A9A9A9;">☆</span> 4.2

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