達人箸山〜其ノ拾質〜 | エキセントリックギャラクシーハードボイルドロマンス         

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〜文学、お笑い、オートバイを愛する気高く孤独な三十路独身男の魂の軌跡〜 by久留米の爪切り

実は箸山、何気無く会場を見渡した際、二つ隣りの席に座る女性が一番綺麗だな、と既に見定めていた。

細面で色白、シャープな目元はキツネ顔と呼ぶのだろうか、鼻の横の黒子が目印みたいでチャーミング、一番上の釦だけがとめられた黒いカーディガン、それに取り付けられた小さな石の飾りが、照明の当たる方向でチラチラと光を放った。

俯いて、自己紹介カードにペンを走らせている背中がピンと伸びていて、知的で怜悧な印象を受ける。

正面に腰を下ろすと、清純な空気の層が箸山には見えた。マイナスイオンに満ちている。挨拶を交わしカードを交換する。透き通り軽い、心地よい高音だった。

カードに目を落とす。

「鶴ヶ崎絵美梨 27歳  webデザイナー」

箸山は何から話そうか逡巡した。(続く)