日本語ラップと上田敏 | 早大生のポイント映画感想文
2010-08-09 14:02:25

日本語ラップと上田敏

テーマ:美術の話
前回のネット詩人にて、晴れてポエットの仲間入りを果たしたました。佐々木くずひろです。

今回は格調高きポエムと日本語ラップの素敵な出会いについてっす。



(↑ライムスター『グレートアマチュアリズム』とモーニング娘。『恋愛レボリューション21』のマッシュアップというものすごい組み合わせの曲です)

2:38くらいのDJ JINさんのヴァースは、上田敏(1874~1916)の訳したロバート・ブラウニング(1812~1889)『春の朝(あした)』をほぼそのまんま引用しています。


ちょっとここで、該当箇所だけを引用してみます。ミュージシャンの歌詞をネットに書くのはJASRAC的にはNGですが、僕の解釈も書きますし、あくまで「引用」という体なのでたぶん問題ないでしょう。

【引用元】
上田敏全訳詩集 (岩波文庫 緑 34-1)/上田 敏


ザ・グレート・アマチュアリズム/Rhymester





『春の朝』

揚雲雀(あげひばり)なのりいで
蝸牛(かたつむり)枝に這ひ
神、そらに知ろしめす
すべて世は事も無し


『グレートアマチュアリズム』

揚雲雀、風に舞い
蝸牛、枝に這い
神はそらに知ろしめし
世はすべて事も無し



比較すれば一目瞭然ですが、JINさんは明らかにブラウニング(というか上田敏)を引用していますね。ただ、ラップですから押韻するために敢えて元のポエムに手を加えています。

風に舞い
枝に這い
(文末3音iai)

知ろしめし
事もなし
(5音に統一)


これらが、それに該当しますね。



「ライムスターが上田敏を引用したのはわかった。っで、だから何なの?」ってことですが、僕はこういう現代の大衆文化(ここではヒップホップ)が古典を引用するのがすっごい好きなんです。

どことなく難しく思われがちな古典っていうものを、フロウにのっけてさらりと吐き出すあたりにものすごくカッコ良さを感じます。

ラッパーなんて、だっぼだぼの服に首からはじゃらじゃらのシルアク、それにつばがピーンと張った帽子なんかかぶって「yo!yo!」なんて言ってる連中ですよ。彼らは圧倒的な俗物、圧倒的マイノリティじゃないですか。

そんな人間がさらりと古典を引用する。俗の塊から放たれる歴史に裏打ちされた文化は、実に金ぴか。難しく云えば、アウフヘーベン萌え。わかりやすく云えば、ギャップ萌えです。



そもそも、日本語ラップってのは短歌みたいなものですからね。押韻、掛詞、枕詞、好きな言葉を自由に使うのではなく、一定のルールを自らに課してポエムをつづるので。

こんなにも敷居の低い正統派日本文化はなし!