2025年に展開されたアニメ・シリーズの劇場版です。

 20代の若き天才アニメ作家である亀山陽平監督は、手書きアニメーターを志して2016年に渡米しますが、ディズニー映画でいえば、2009年公開の「プリンセスと魔法のキス」をもって手書きアニメから撤退し、アニメ業界は CGが主流になっていたことから帰国し、日本でCGを学びます。そこで課題として「ミルキー☆ハイウェイ」を自主制作し YouTubeに公開されました。
 アニメ・ファンの間で話題になったことから「ドラえもん」などを制作しているシンエイ
動画からアクションがあり、テレビ・シリーズとして続編が製作されます。
 音響面などには外部スタッフが入るもののデザイン、作画、脚本、演出などは亀山監督がひとりで担うため、1話3分半の全12話というショートアニメのミニ・シリーズとなりました。
 ローカル局でのテレビ放送と併せて、YouTubeでも無料公開され、しかも全11か国語バージョンが一斉展開されました。
 放送が終了してすぐに劇場版がアナウンスされました

 シリーズは全話で約42分の物量でした。本編の大部分は銀河鉄道の車内で展開される密室劇です。ここに4分程の暴走列車を追跡する警官たちのパートが新規追加された上映時間46分の拡張版となりました。アニメ・ファンから一般層へも浸透してヒット作となりました。

「海底2万マイル(1870年)」や「タイム・マシン(1895年)」といった古典SFは19世紀末の作品ですが、SFがジャンルとして拡大する 1960年代から 1970年代頃に描かれた未来世界は 21世紀になってレトロ・フューチャーと呼称されるようになります。「鉄腕アトム」や「ドラえもん」で描かれる未来都市のイメージなのですが、やがて来る 21世紀を高度に発展した科学都市としていたものが、いざ 21世紀を迎えてみるとインターネットやスマートフォンといった劇的に進化したものもあれば、生活習慣として様変わりしないものもあり、衣服や自転車などの日用品はデザインこそ変化するものの構造や機能は変わりませんでした。そこで20世紀の人類がイメージした未来をレトロ・フューチャーとしたのは見事な造語ですが、本作はレトロ・フューチャーというよりもレトロなフューチャーとしてデザインされています。
 1980 年代のポップカルチャーを基調とした世界観設計にはサイバーパンクの代表作「ブレードランナー」の影響があるようです。その意味ではスチーム・パンクに近いかもしれません。

 登場人物は少年課の巡査リョーコは人間ですが、チハルは強化人間という設定です。手塚治虫の「火の鳥 宇宙篇」に登場する宇宙生命体ムービーやマーベル映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」に登場するマンティスのように触覚があることから宇宙人だと思っていました。
 というのも1話3分半のショート・アニメであるため、人物や世界観の説明がほぼ割愛されているからです。そしてマキナはロボットかと思いきや、こちらも元は人間のサイボーグということで、人類が次のフェーズに入っている未来世界が舞台です。

 日本のアニメは映像にセリフを後から録音するアフレコが主流で、テレビアニメはほぼこの手法が取られていますが、ディズニーなどアメリカのアニメは俳優の演技を先に収録して、その音声に合わせて作画をするプレスコが主流です。そのため声優の演技とキャラクタ一の動きが完全にシンクロします。さらには実際に俳優の演技を撮影し、その映像をトレースするように作画をする手法が取られることもあります。リアリティは追及できますが、人間に不可能な動きなどは演出に取り入れられづらくなります。
 日本のバトル・アニメのアクション演出が突出して優れているのは、マンガを原作にして、作画を先に行ってきたからかもしれません。海外のスラップスティックなカートゥーンをシリアスな作品に落とし込んだような面白さがあります。巨大ロボットが怪獣と格闘するようなアニメは日本でなければ創作されなかったのではないでしょうか。

 本作は会話劇で、その会話はメリハリを抑えた自然なトーンで、複数のキャラクターが同時に発話するなど演劇のワークショップ的です。また若者言葉で早口であることが特徴的ですが、これにはプレスコ手法が発揮されています。声優が自由な間で会話をする息遣いやテンポがプレスコであることで動画に落とし込まれ、アニメでありながら舞台演劇的な効果がもたらされています。
 登場人物が総じて厭世的なダルさを醸し出しているところにサイバーパンクで描かれるディストピア的なムードを感じ、抑圧や閉塞とそれに抗う若者の青春群像のようで楽しいです。

 会話の中に伏線が貼られ、クライマックスで回収されるのですが、再見したことで伏線であったことに気づいたセリフがありました。ハイテンポな会話なので聞き逃した情報があったことを映画館で気づかされます。

 CGアニメの利点として、テレビ用素材がそのまま大型スクリーンで遜色なく上映されることもあります。背景の描き込みはPCモニターやスマホでは気づきづらく、劇場で鑑賞した甲斐がありました。

 そして本作のレトロ演出においてもっとも大きな効果を上げているのが主題歌の「銀河系まで飛んで行け!」です。
 キャンディーズが解散発表後にリリースした企画盤ボックスセットに収録された未発表曲で、喜多條忠作詞、吉田拓郎作曲というコンビの楽曲です。吉田拓郎がキャンディーズに提供した「やさしい悪魔」「アン・ドゥ・トロワ」などすべて喜多條忠が詞を担当していました。
「銀河系まで飛んで行け!」は失恋ソングですが、メロウではなく、終わった恋を吹っ切ろうと意地を張るような内容で「あいつなんか あいつなんか銀河系まで飛んできゃいいのに」という突っ張った女性像がチハルとマキナに重なり耳に残ります。
 ちなみに地球は銀河系の中に位置するので、日本語としては「銀河の彼方に飛んできゃいいのに」が正しいのですが、この感覚も1970年代だなと思います。
 伊藤蘭はコロナ前からコンサート活動を行っていて、キャンディーズの曲を歌唱していますが、本人が好きなのか、ファンに人気があるのか2024年のツアーではセットリストに含まれていました。
 とはいえ、ボックスセットというファンでもなかなか手に取りづらい企画盤に収録されていた楽曲が、48年も経過してキャンディーズを知らない若者たちがもっとも知るキャンディーズ・ソングに化けるとは、世の中まったくなにがあるのかわかりません。そして、亀山監督はベスト盤にもほぼ収録されないこの曲をどこで知ったのか気になります。配信はされているのでサブスクでしょうか。
 監督のインタビューではまだアイデアがあるとのことですので新作を期待しています。