取り壊しが決定した1987年頃の九龍城砦を舞台としたアクション映画です。

「ポリス・ストーリー2/九龍の眼」ではクーロンズ・アイと発音していて1990年頃も九龍城は「クーロンじょう」と発音していたと思いますが、取り壊した跡地から石の扁額が発見され「九龍城砦」が正式名称であることが判明したそうです。以降は「きゅうりゅうじょうさい」と発音するようになり、本作もそれにならっています。

 旧城砦が取り壊された後にバラック小屋が立ち並び難民などが住み着くようになり、
1970年代頃より鉄筋の建物が無造作に増築を繰り返し、瞬く間に迷路のような無秩序集合住宅となりました。治安が悪かったことからスラム街になり犯罪の温床と化していたことで、その異様な外観と相まって怖いイメージが記憶されています。

 1987 年頃というと日本はいわゆるバブル経済期で、メイドイン・ジャパンの輸出に尽力していた時代です。アメリカとは貿易摩擦を生じさせていました。

 序盤に登場するディスコではイギリスのヒット曲「Eat You Up-素敵なハイエナジー・ボーイー」の広東語カバーがかかっています。日本でも「ダンシグ・ヒーロー」のタイトルで知られるヒット曲です。
 また、イケメンの代名詞のように「田原俊彦」の名が出たり、吉川晃司の「モニカ」の広東語カバーもあり、日本が身近であったことがわかります。
 当時の日本でも香港映画は盛況で、ジャッキー・チェンを筆頭に本作にも出演しているサモ・ハン・キンポーやチョウ・ユンファといったスターが知られていましたが、香港映画で日本のカルチャーが描かれることはほとんどなかったので、リアルな1980年代の香港が新鮮でした。

 難民である主人公は朴訥で誠実な青年です。演じるレイモンド・ラムは歌手だそうです。
 そんな彼に手を貸す九龍城砦の親分も理髪店を営みながら秩序の維持に努めるというヤクザな保安官といった存在で、演じるルイス・クーも歌手だそうです。
 その親分の兄弟分の家族を殺した宿敵の唯一生き残っている肉親が主人公であることが明かされますが、本人は赤ん坊の頃のことで父親の顔も知らず、そんな彼を復讐の相手として殺害することに同意しかねたことから、対立することになります。そこへサモ・ハン演じる第三の反社組織が介入してきて九龍城砦の利権をだまし取ろうと三つ巴戦になります。
 主人公のチャンはその誠実な人柄から九龍城砦の組織に受け入れられ、天涯孤独なチャンにとって家族のような存在になります。そんなチャンが瀕死の重傷で動けなくなったのを仲間たちが命を賭けて守る展開に胸が熱くなります。

 監督は日本でも「イップ・マン」シリーズでブレイクしたドニー・イェン主演の西遊記シリーズのソイ・チェンで、ドニー・イェンとの関係からかアクション監習は谷垣健治が担当しています。
 ワイヤー・アクションはさすが本場中国といったキレですが、いわゆるカンフー映画ともハリウッド・アクションの白兵戦とも異なる演出は本作の根幹です。
 谷垣健治によるアクションとソイ・チェンによる人物描写との調和が、あの頃にはなかった香港映画を見せられたといった印象です。

 畳一畳当たり3人に相当する 5万人が居住していたという九龍城砦という舞台の魅力もとてつもなく大きいので、今後影響を受けた作品が登場するのではないでしょうか。
 ちなみに全3部作での展開が発表されているとのことで次作が楽しみです。