NBA選手になることが目標で、アメリカにバスケ留学したいという息子さんを持つ親御さんから、どのように息子さんをサポートすれば良いか、という相談を受けました。以下、親御さんへのコメントです。
<NBAについて>
まずは、NBAを目指すというのがどういうことか、親も子供も理解する必要があります。親や指導者がNBAを目標にさせるたり、選手がそれを目標にするのは、夢があっていいのですが、実際は非常に難しいことです。アメリカの中・高校生の多くが将来NBAに行けると思っている、というデータがあります。しかし、ドラフトだけを考えると、毎年60人NBAにドラフトされます。最近は海外からの選手がいるので、アメリカ人は50人以下。つまり、アメリカの州一つから一人しか選ばれません。選りすぐりの選手が集まって、その中で実力を競っているのがNBAなのです。さらに、ドラフト2巡目の選手はチームに残れる保証がないので、毎年新規にNBAに入るのはもっと少ないのです。大学でエースの選手が、NBAで控え選手になってほとんど試合に出られないということはよくあることです。そして、NBAでプレイする平均選手寿命は3-4年です。もちろん、他のリーグでプレイして生活していくことはできますが、いずれバスケをプレイする以外の方法で生活していく必要があります。
私はNBAへの道のりとして、現実的なゴールを設定するのが妥当だと思います。例えば、現在所属しているバスケクラブで圧倒的なスキルを見せる。所属しているチームのエースになって、チームを優勝に導く。日本の名門高校に行ってエースになる。英語を話せるようになる。などです。現実的に日本人がNBAに行くためには、日本人で圧倒的なスキルとバスケセンス(リーダーシップ、プレイの理解)を持っているのが条件だと思います。
経済的な余裕があるのであれば、アメリカの大学が行っている中・高校生対象のキャンプに行って、同年代の選手がどのくらいできるのか体験するのが良いかもしれません。同時に英語力の必要性を痛感するでしょう。これは日本のキャンプでも良いかもしれません。
<留学について>
私が留学したのは、大学卒業後でしたが、留学を志したのは高校の頃でした。親類に留学経験のある方(当時、日本の大学の英語教授)がいて、その方と話した時に、「なぜ留学か?」という質問を繰り返し質問されました。当時はシツコク質問されて、嫌な気分でしたが、後になって生半可な気持ちで渡米せずに良かったと思いました。日本でもそうだと思いますが、実力主義のアメリカでは、しっかりした意思を持っていないとやっていけないということだと思います。世の中にはバスケ以外のこともある、ということを皆理解することが必要です。
この質問を、バスケ留学に当てはめると、「なぜバスケのためにアメリカに行く必要があるか?」ということになります。日本で圧倒的にうまくてタレントを日本で持て余しているのであれば、当てはまるかもしれませんが、「上手くなるため」であれば、わざわざアメリカに行かなくても日本でもできます。現状で圧倒的なスキルを持ち合わせているのであれば、さらに上のチーム団体に所属すれば良いわけです。
渡米しよう、渡米している方々とお話しする機会がよくありますが、『環境を変えれば(留学など)どうにかなる」と考えている方が多いです。目的意識や生活力が伴っていないと、流されてしまいがちだと思います。
<佐藤さんは なぜNBAでトレーナーになろうと思ったのですか??>
大学でアメフトをしている時に、アスレティックトレーナーに興味を持ち卒業後、留学しました。日本の大学ではソ連東欧事情を専攻していたので、学部からアスレティックトレーナーの勉強をし直しました。その後大学院に行って、仕事をしながら経験を積み、現在に至ります。私はバスケのプレイ経験はなく、NBAでアスレティックトレーナーになろうという目標はありませんでした。基本的にはアスレティックトレーナーとして、常に向上心を持って仕事を続けていたら、NBAのチームから声がかかったというのが私の経緯です。
<NBAに限界を感じ諦めたら、トレーナーの道に行くと言うのは大変甘い考えなのか、そういうのもアリなのかどうでしょうか??>
元スポーツ選手でアスレティックトレーナーを含めて、スポーツに関連する仕事をしている方はたくさんいます。これは自然のことだと思います。
私は何かを志して、その過程で他の興味(職種)方向転換するのは、必然だと思います。その原因は「限界」(スポーツ選手の場合、怪我や能力の不足)の場合もありますが、原因が何であれ、それは「失敗」ではなく当然のことです。ただし、志しに向かって全力で取り組んだ結果として、という条件付きです。全力で取り組んで、自分に合っていないとか、他に自分を生かせる道がある、と確信したのであれば良いでしょう。中途半端に取り組んで方向転換をする人は一流にはなれないと思います。