2018年度実施
劇団あえない『あえなく夢中』劇評は以下の6本です。
みなさんぜひお読みください!
【劇団あえない『あえなく夢中』】
浅田和幸 「接点が無かった!」
大場さやか 「妄想と現実の直中で」
中村幸恵 「妄想は現実逃避なのか」
西田愛 「あえない現実」
原力雄 「妄想が溢れる世の中で真実とは何か」
舟木香織 「遊園地の端っこで若者が見る夢とは・・・」
ほそみ 「不確かさとの別れ」
2018年度実施
Potluck Theater『MASK/炎症』劇評は以下の8本です。
みなさんぜひお読みください!
浅田和幸 「冷たい空虚さの美学」
大場さやか 「わからなさを」
中村幸恵 「言葉に頼らない世界。言葉しかない世界」
西田愛 「空しさと信じることのはざまで揺れ惑う人々」
原力雄 「かたくなな身体が語る、もう一つの青春ドラマ」
本多瑠美 「もどかしさ」
舟木香織 「演劇にしてみる??」
ほそみ 「隠されていたものは」
Potluck Theater『MASK/炎症』劇評は以下の8本です。
みなさんぜひお読みください!
浅田和幸 「冷たい空虚さの美学」
大場さやか 「わからなさを」
中村幸恵 「言葉に頼らない世界。言葉しかない世界」
西田愛 「空しさと信じることのはざまで揺れ惑う人々」
原力雄 「かたくなな身体が語る、もう一つの青春ドラマ」
本多瑠美 「もどかしさ」
舟木香織 「演劇にしてみる??」
ほそみ 「隠されていたものは」
2018年度実施
ワンネス一座『私の名は「月の輪」』劇評は以下の8本です。
みなさんぜひお読みください!
浅田和幸 「演出をしない演出ってなに?」
大場さやか 「演劇の一つの効果」
中村幸恵 「ワンネス一座の言葉の力」
西田愛 「制限のとらえ方」
原力雄 「かたくなな身体が語る、もう一つの青春ドラマ」
舟木香織 「ワンネス一座の舞台よ再び」
本多瑠美 「美しい物語と言い切れない理由」
ほそみ 「次は物語で会いたい」
ワンネス一座『私の名は「月の輪」』劇評は以下の8本です。
みなさんぜひお読みください!
浅田和幸 「演出をしない演出ってなに?」
大場さやか 「演劇の一つの効果」
中村幸恵 「ワンネス一座の言葉の力」
西田愛 「制限のとらえ方」
原力雄 「かたくなな身体が語る、もう一つの青春ドラマ」
舟木香織 「ワンネス一座の舞台よ再び」
本多瑠美 「美しい物語と言い切れない理由」
ほそみ 「次は物語で会いたい」
【お詫び】
※キャストの「藤井楓恋」さんの名前に誤りがありましたので、
訂正いたしました。申し訳ございません。
(誤「藤井楓花」→正「藤井楓恋」 11月23日訂正)
この文章は、2018年11月10日(土)19:00開演の劇団あえない『あえなく夢中』についての劇評です。
『あえなく夢中』の『あえなく』は、“会えなく”だったのか、“合えなく”だったのか、はたまた“敢え無く”だったのか……。
少し伸びたおかっぱ頭のひかり(大橋茉歩)は、杏子(荒井優弥花)と暮らしていた。杏子もまた同じように伸びたおかっぱ頭で、二人は同じ家に住み、同じ職場に勤めていた。二人が勤めていたのは、“ノエルランド”というテーマパークであった。二人は、そこで行われていた子供向けのステージショー『ハッピースノーウィッシュ』のキャストで、同じ“マリー”という主役を担当していた。お客さんが少ない平日のマリーはひかり、お客さんが多い休日のマリーは杏子が演じるという、ダブルキャストの間柄であった。また、二人は友人関係ではなく、職場で公認のカップルでもあった。ケンカをしても、すぐに仲直りをする二人だったが、次第にズレが生じてくる。
執着、嫉妬、妄想……と、劇中では愛情から派生した数々の歪んだ感情が描かれた。ひかりは、杏子を愛していた一方、“マリー”を通じて杏子と自分を比較しては、「自分は杏子のようにはなれない」と、苦しみのあまりに妄想の世界に逃げる。杏子は、ひかりが構ってくれない淋しさから、ひかりと誓い合った永遠の愛を裏切り、ショーの担当者であり、自分に想いを寄せていた篠塚とのできちゃった婚を選ぶ。その篠塚(近江亮哉)は、どんな手段を使っても杏子を手に入れたかったため、ひかりにイタズラ電話などの嫌がらせをしていた……。
ちなみに、ひかりを妄想の世界へ誘ったのは、陰でひかりを一方的に愛していた清掃員の倉沢(藤井楓恋)であった。倉沢は、過去に火事で失った大事なぬいぐるみへの愛情をひかりに投影していたことを、ひかり本人に打ち明けるだけでなく、自分のように、妄想することで現実世界の苦しみから解放されようと、ひかりを誘う……という、劇中でサイコパスの役割りをしていた。その倉沢役を演じた藤井楓恋の怪演は強く印象に残った。無言でステージを掃く猫背姿や、影を帯びた目線づかい、ひかりへの異常すぎる愛を告げる上ずった物言いは、舞台上で不気味な異色を放っていた。
リージョナルシアターのパンフレットでは、劇団概要に「【敢え無い】《形》あっけない。もろく、はかない。」とあった。“劇団あえない”は金沢大学の学生である大橋を中心に、この作品で旗揚げをした学生劇団だ。作・演出でもあった大橋は、人の“敢え無い”部分をこの作品で表現したかったのだろうか。
劇中でひかりは、ステージショー『ハッピースノーウィッシュ』を基に、現実と妄想を行き来する。そして、最後には妄想の世界から抜け出すが、抜け出した世界は杏子が自分の側にいない世界であり、“敢え無く”一人になってしまった現実であった。
「そっか。私は杏子になりたかったんじゃなくて、ただ杏子と一緒にいれればよかったんだ……」
それでもひかりは、杏子と“分かり合えなかった”現実、杏子が側にいない“会えない”現実を受け入れる。その選択は決して楽なものではない。そのひかりの姿は、この作品で劇団の旗揚げを決意した大橋自身の投影なのかもしれない。劇団の旗揚げも、夢ばかり見ていられないだろう。
※キャストの「藤井楓恋」さんの名前に誤りがありましたので、
訂正いたしました。申し訳ございません。
(誤「藤井楓花」→正「藤井楓恋」 11月23日訂正)
この文章は、2018年11月10日(土)19:00開演の劇団あえない『あえなく夢中』についての劇評です。
『あえなく夢中』の『あえなく』は、“会えなく”だったのか、“合えなく”だったのか、はたまた“敢え無く”だったのか……。
少し伸びたおかっぱ頭のひかり(大橋茉歩)は、杏子(荒井優弥花)と暮らしていた。杏子もまた同じように伸びたおかっぱ頭で、二人は同じ家に住み、同じ職場に勤めていた。二人が勤めていたのは、“ノエルランド”というテーマパークであった。二人は、そこで行われていた子供向けのステージショー『ハッピースノーウィッシュ』のキャストで、同じ“マリー”という主役を担当していた。お客さんが少ない平日のマリーはひかり、お客さんが多い休日のマリーは杏子が演じるという、ダブルキャストの間柄であった。また、二人は友人関係ではなく、職場で公認のカップルでもあった。ケンカをしても、すぐに仲直りをする二人だったが、次第にズレが生じてくる。
執着、嫉妬、妄想……と、劇中では愛情から派生した数々の歪んだ感情が描かれた。ひかりは、杏子を愛していた一方、“マリー”を通じて杏子と自分を比較しては、「自分は杏子のようにはなれない」と、苦しみのあまりに妄想の世界に逃げる。杏子は、ひかりが構ってくれない淋しさから、ひかりと誓い合った永遠の愛を裏切り、ショーの担当者であり、自分に想いを寄せていた篠塚とのできちゃった婚を選ぶ。その篠塚(近江亮哉)は、どんな手段を使っても杏子を手に入れたかったため、ひかりにイタズラ電話などの嫌がらせをしていた……。
ちなみに、ひかりを妄想の世界へ誘ったのは、陰でひかりを一方的に愛していた清掃員の倉沢(藤井楓恋)であった。倉沢は、過去に火事で失った大事なぬいぐるみへの愛情をひかりに投影していたことを、ひかり本人に打ち明けるだけでなく、自分のように、妄想することで現実世界の苦しみから解放されようと、ひかりを誘う……という、劇中でサイコパスの役割りをしていた。その倉沢役を演じた藤井楓恋の怪演は強く印象に残った。無言でステージを掃く猫背姿や、影を帯びた目線づかい、ひかりへの異常すぎる愛を告げる上ずった物言いは、舞台上で不気味な異色を放っていた。
リージョナルシアターのパンフレットでは、劇団概要に「【敢え無い】《形》あっけない。もろく、はかない。」とあった。“劇団あえない”は金沢大学の学生である大橋を中心に、この作品で旗揚げをした学生劇団だ。作・演出でもあった大橋は、人の“敢え無い”部分をこの作品で表現したかったのだろうか。
劇中でひかりは、ステージショー『ハッピースノーウィッシュ』を基に、現実と妄想を行き来する。そして、最後には妄想の世界から抜け出すが、抜け出した世界は杏子が自分の側にいない世界であり、“敢え無く”一人になってしまった現実であった。
「そっか。私は杏子になりたかったんじゃなくて、ただ杏子と一緒にいれればよかったんだ……」
それでもひかりは、杏子と“分かり合えなかった”現実、杏子が側にいない“会えない”現実を受け入れる。その選択は決して楽なものではない。そのひかりの姿は、この作品で劇団の旗揚げを決意した大橋自身の投影なのかもしれない。劇団の旗揚げも、夢ばかり見ていられないだろう。
この文章は、2018年11月10日(土)19:00開演の劇団あえない『あえなく夢中』についての劇評です。
華やかなステージと裏側で繰り広げられるドロドロの愛憎劇。そんな鮮やかな対比には人間の好奇心をくすぐる何かがある。一年中クリスマスというコンセプトの遊園地「ノエルランド」も例外ではない。そこでは二人の少女、マリー(大橋茉歩/荒井優弥花)とベル(小嶋菜桜)がサンタクロース(清水康平)に出会い、魔法のツリーに手を重ねて「ずっと一緒にいよう」と誓い合うショーが多い時には1日6回も上演されているが、ダブルキャストでマリー役を務める古野ひかり(大橋茉歩)と柏木杏子(荒井優弥花)は実生活でも愛し合っていた。しかし、ひかりのストーカーとも言える清掃員・倉沢春子(藤井楓恋)の出現により、二人の蜜月はあっけなくほころび始める。11月10、11日に金沢市民芸術村PIT2ドラマ工房で行われた「劇団あえない」旗揚げ公演『あえなく夢中』(作・演出:大橋茉歩)では、ストーカーやイタズラ電話など自らの妄想に突き動かされた身勝手な行動が溢れ返る現代社会の中で、確かな真実とは何かと必死に手探りしている感触が伝わってきた。
ショーの責任者である篠塚亮介(近江亮哉)は、キャストたちのシフトを組む権限を持っていた。ひかりとの仲を引き裂いて杏子を自分のものにしたい篠塚は、大勢の観客が詰めかける土日や冬休み期間中には杏子を出演させ、人影もまばらな平日はひかりに担当させるというわかりやすいえこひいきを平気でやっていた。また、ひかりに対して「所詮、お前は二番手だ」などと書かれた嫌がらせの手紙を送ったり、無言電話をかけていたのもどうやら彼らしい。
ある日、ひかりが帰り際に用事を思い出して楽屋へ戻ってみると、倉沢がマリーの衣装を着た自分を鏡に映して恍惚としていた。問いただすと、ひかりのショーを見て救われたなどと喋り出す。大切にしていた人形が自宅と一緒に焼けてしまった倉沢は、妄想することでしか生きて来れなかった。ひかりが演じるマリーを見たとたん、運命的な出会いを一方的に妄想してしまったらしい。倉沢はひかりの人間関係も調べ上げ、楽屋の可愛いサンタクロース人形に盗聴器まで仕掛けていた。
ひかりは薄気味悪さを覚えながらも、倉沢に言われた「妄想すればラクに生きられる」という言葉が不安な心に沁み込んでいく。その結果、ひかりと杏子の関係にすき間が生じ、寂しさを募らせた杏子は篠塚と付き合うようになる。そして、楽屋での衝撃の発表。杏子は妊娠しており、篠塚と結婚するという。これは例えば、人気絶頂の女性アイドルが、よくわからない占い師に引っかかり、かつての仲間たちが離れていくといったケースに似ているのだろうか。
片方の舞台袖から他方へと高さ約1メートルほどもある通路が作られ、その上でクリスマス・ショーが演じられる。手前の上手側は衣装掛けハンガーなどがある楽屋。下手側にはパイプ椅子2脚とテーブルが置いてあり、ひかりと杏子が同棲している部屋やひかりが気晴らしに会いに行く人間嫌いの医師・小森一樹(能沢秀矢)の医務室になったりする。
作品の構造としては、楽屋で起こるいざこざの合間にマリーとベルによるクリスマス・ショーが挟み込まれる。その内容は前述の通り、二人の少女がずっと一緒にいたいと祈りを捧げるものだが、ひかりと杏子の正直な気持ちをストレートに反映しているように感じられた。ショーの演技も、見物人たちを意識して声を張り上げるわけでもなく、淡々とした日常的な喋り方。見ているうちに、このショー自体がひかりや杏子の願望ではないかと疑いたくなるほどだった。
妄想とは何か。人間は自分のイメージを通してしか、現実を把握できない。五感に基づいて判断する時、自分に都合の良い解釈が入ってきてしまう。倉沢がひかりに吹き込んだ「ラクに生きられる妄想」とは、現実と自分の解釈との間に生じるズレを絶えず修正し続ける努力を放棄し、信じたいイメージだけに固執することによるむき出しのエゴイズムなのかもしれない。そんなやり方を続けていたら、人間関係が壊れていくのも当然だ。
ひかりと杏子による女性同士の恋愛関係は、生まれつきの「性的指向」ではなく、思春期特有の過渡的なものだったようだ。最終的には周囲からの圧力に敗れ、杏子はできちゃった結婚。ひかりも小森を男性として意識するようになる。だが、ひかりと杏子のひとときの純愛は、周囲にドロドロとした愛憎劇を巻き起こしつつも、そのはかなさゆえにかえってキラキラと輝いて見えたのだった。
《以下は更新前の文章です。》
華やかなショーのステージ裏では、ドロドロとした愛憎劇が繰り広げられている。一年中クリスマスというコンセプトの遊園地「ノエルランド」でもそれは同じ。二人の少女、マリー(大橋茉歩/荒井優弥花)とベル(小嶋菜桜)がサンタクロース(清水康平)に出会い、魔法のツリーに手を重ねて「ずっと一緒にいたい」と願うショーが1日6回も上演されているが、ダブルキャストでマリー役を務めている古野ひかり(大橋茉歩)と柏木杏子(荒井優弥花)は実生活でも愛し合っていた。しかし、ひかりのストーカーとも言える清掃員・倉沢春子(藤井楓恋)の出現により、二人の蜜月はあっけなくほころび始める。11月10、11日に金沢市民芸術村PIT2ドラマ工房で行われた「劇団あえない」旗揚げ公演『あえなく夢中』(作・演出:大橋茉歩)では、ストーカーやイタズラ電話など自らの妄想に突き動かされた身勝手な行動が溢れ返る現代社会の中で、確かな真実とは何かと必死に手探りしている感触が伝わってきた。
ショーの責任者である篠塚亮介(近江亮哉)は、キャストたちのシフトを組む権限を持っていた。ひかりとの仲を引き裂いて杏子を自分のものにしたい篠塚は、大勢の観客が詰めかける土日や冬休み期間中には杏子を出演させ、人影もまばらな平日はひかりに担当させるというわかりやすいえこひいきを平気でやっていた。また、ひかりに対して「所詮、お前は二番手だ」などと書かれた嫌がらせの手紙を送ったり、無言電話をかけていたのもどうやら彼らしい。
ある日、ひかりが帰り際に用事を思い出して楽屋へ戻ってみると、倉沢がマリーの衣装を着た自分を鏡に映して恍惚としていた。問いただすと、ひかりのショーを見て救われたなどと喋り出す。大切にしていた人形が自宅と一緒に焼けてしまった倉沢は、妄想することでしか生きて来れなかった。ひかりが演じるマリーを見たとたん、運命的な出会いを一方的に妄想してしまったらしい。倉沢はひかりの人間関係も調べ上げ、楽屋の可愛いサンタクロース人形に盗聴器まで仕掛けていた。
ひかりは薄気味悪さを覚えながらも、倉沢に言われた「妄想すればラクに生きられる」という言葉が不安な心に沁み込んでいく。この辺は具体的にどんな行動が倉沢から吹き込まれた妄想の影響だったのかがわかりにくかった。とはいえ、ひかりが妄想に生き始めたことにより、杏子との関係にすき間が生じ、寂しさを募らせた杏子は篠塚と付き合うようになる。そして、楽屋での衝撃の発表。杏子は妊娠しており、篠塚と結婚するという。これは例えば、人気絶頂の女性アイドルが、よくわからない占い師に引っかかり、かつての仲間たちが離れていくといったケースに似ているのだろうか。
片方の舞台袖から他方へと高さ約1メートルほどもある花道が作られ、その上でクリスマス・ショーが演じられる。手前の上手側は衣装掛けハンガーなどがある楽屋。下手側にはパイプ椅子2脚とテーブルが置いてあり、ひかりと杏子が同棲している部屋やひかりが気晴らしに会いに行く人間嫌いの医師・小森一樹(能沢秀矢)の医務室になったりする。
作品の構造としては、楽屋で起きるいざこざの合間にマリーとベルによるクリスマス・ショーが挟み込まれる。その内容は前述の通り、二人の少女がずっと一緒にいようと誓い合うものだが、ひかりと杏子の正直な気持ちをストレートに反映しているように感じられた。ショーの演技も、見物人たちを意識して声を張り上げるわけでもなく、淡々とした日常的な喋り方。見ているうちに、このショー自体がひかりや杏子の妄想ではないかと疑いたくなるほどだった。
妄想とは何か。人間は自分のイメージを通してしか、現実を把握できない。五感に基づいて判断する時、どうしても自分に都合の良い解釈が入ってきてしまう。倉沢がひかりに吹き込んだ「ラクに生きられる妄想」とは、現実と自分の判断との間に生じるズレを絶えず修正し続ける努力を放棄し、信じたいイメージだけに固執することなのかもしれない。そんなやり方を続けていたら、人間関係が壊れていくのも当然だ。
ひかりと杏子は本物の「レズビアン」(女性同性愛者)ではなく、無理解な世間に対して「ノエルランド」という夢を広めていく同志または戦友に近い感覚だったのではないか。最終的には周囲からの圧力に敗れ、杏子はできちゃった結婚。ひかりも小森を男性として意識し、普通の大人となっていく。だが、ひかりと杏子のひとときの純愛は、そのはかなさゆえにかえってキラキラと輝いて見えたのだった。
華やかなステージと裏側で繰り広げられるドロドロの愛憎劇。そんな鮮やかな対比には人間の好奇心をくすぐる何かがある。一年中クリスマスというコンセプトの遊園地「ノエルランド」も例外ではない。そこでは二人の少女、マリー(大橋茉歩/荒井優弥花)とベル(小嶋菜桜)がサンタクロース(清水康平)に出会い、魔法のツリーに手を重ねて「ずっと一緒にいよう」と誓い合うショーが多い時には1日6回も上演されているが、ダブルキャストでマリー役を務める古野ひかり(大橋茉歩)と柏木杏子(荒井優弥花)は実生活でも愛し合っていた。しかし、ひかりのストーカーとも言える清掃員・倉沢春子(藤井楓恋)の出現により、二人の蜜月はあっけなくほころび始める。11月10、11日に金沢市民芸術村PIT2ドラマ工房で行われた「劇団あえない」旗揚げ公演『あえなく夢中』(作・演出:大橋茉歩)では、ストーカーやイタズラ電話など自らの妄想に突き動かされた身勝手な行動が溢れ返る現代社会の中で、確かな真実とは何かと必死に手探りしている感触が伝わってきた。
ショーの責任者である篠塚亮介(近江亮哉)は、キャストたちのシフトを組む権限を持っていた。ひかりとの仲を引き裂いて杏子を自分のものにしたい篠塚は、大勢の観客が詰めかける土日や冬休み期間中には杏子を出演させ、人影もまばらな平日はひかりに担当させるというわかりやすいえこひいきを平気でやっていた。また、ひかりに対して「所詮、お前は二番手だ」などと書かれた嫌がらせの手紙を送ったり、無言電話をかけていたのもどうやら彼らしい。
ある日、ひかりが帰り際に用事を思い出して楽屋へ戻ってみると、倉沢がマリーの衣装を着た自分を鏡に映して恍惚としていた。問いただすと、ひかりのショーを見て救われたなどと喋り出す。大切にしていた人形が自宅と一緒に焼けてしまった倉沢は、妄想することでしか生きて来れなかった。ひかりが演じるマリーを見たとたん、運命的な出会いを一方的に妄想してしまったらしい。倉沢はひかりの人間関係も調べ上げ、楽屋の可愛いサンタクロース人形に盗聴器まで仕掛けていた。
ひかりは薄気味悪さを覚えながらも、倉沢に言われた「妄想すればラクに生きられる」という言葉が不安な心に沁み込んでいく。その結果、ひかりと杏子の関係にすき間が生じ、寂しさを募らせた杏子は篠塚と付き合うようになる。そして、楽屋での衝撃の発表。杏子は妊娠しており、篠塚と結婚するという。これは例えば、人気絶頂の女性アイドルが、よくわからない占い師に引っかかり、かつての仲間たちが離れていくといったケースに似ているのだろうか。
片方の舞台袖から他方へと高さ約1メートルほどもある通路が作られ、その上でクリスマス・ショーが演じられる。手前の上手側は衣装掛けハンガーなどがある楽屋。下手側にはパイプ椅子2脚とテーブルが置いてあり、ひかりと杏子が同棲している部屋やひかりが気晴らしに会いに行く人間嫌いの医師・小森一樹(能沢秀矢)の医務室になったりする。
作品の構造としては、楽屋で起こるいざこざの合間にマリーとベルによるクリスマス・ショーが挟み込まれる。その内容は前述の通り、二人の少女がずっと一緒にいたいと祈りを捧げるものだが、ひかりと杏子の正直な気持ちをストレートに反映しているように感じられた。ショーの演技も、見物人たちを意識して声を張り上げるわけでもなく、淡々とした日常的な喋り方。見ているうちに、このショー自体がひかりや杏子の願望ではないかと疑いたくなるほどだった。
妄想とは何か。人間は自分のイメージを通してしか、現実を把握できない。五感に基づいて判断する時、自分に都合の良い解釈が入ってきてしまう。倉沢がひかりに吹き込んだ「ラクに生きられる妄想」とは、現実と自分の解釈との間に生じるズレを絶えず修正し続ける努力を放棄し、信じたいイメージだけに固執することによるむき出しのエゴイズムなのかもしれない。そんなやり方を続けていたら、人間関係が壊れていくのも当然だ。
ひかりと杏子による女性同士の恋愛関係は、生まれつきの「性的指向」ではなく、思春期特有の過渡的なものだったようだ。最終的には周囲からの圧力に敗れ、杏子はできちゃった結婚。ひかりも小森を男性として意識するようになる。だが、ひかりと杏子のひとときの純愛は、周囲にドロドロとした愛憎劇を巻き起こしつつも、そのはかなさゆえにかえってキラキラと輝いて見えたのだった。
《以下は更新前の文章です。》
華やかなショーのステージ裏では、ドロドロとした愛憎劇が繰り広げられている。一年中クリスマスというコンセプトの遊園地「ノエルランド」でもそれは同じ。二人の少女、マリー(大橋茉歩/荒井優弥花)とベル(小嶋菜桜)がサンタクロース(清水康平)に出会い、魔法のツリーに手を重ねて「ずっと一緒にいたい」と願うショーが1日6回も上演されているが、ダブルキャストでマリー役を務めている古野ひかり(大橋茉歩)と柏木杏子(荒井優弥花)は実生活でも愛し合っていた。しかし、ひかりのストーカーとも言える清掃員・倉沢春子(藤井楓恋)の出現により、二人の蜜月はあっけなくほころび始める。11月10、11日に金沢市民芸術村PIT2ドラマ工房で行われた「劇団あえない」旗揚げ公演『あえなく夢中』(作・演出:大橋茉歩)では、ストーカーやイタズラ電話など自らの妄想に突き動かされた身勝手な行動が溢れ返る現代社会の中で、確かな真実とは何かと必死に手探りしている感触が伝わってきた。
ショーの責任者である篠塚亮介(近江亮哉)は、キャストたちのシフトを組む権限を持っていた。ひかりとの仲を引き裂いて杏子を自分のものにしたい篠塚は、大勢の観客が詰めかける土日や冬休み期間中には杏子を出演させ、人影もまばらな平日はひかりに担当させるというわかりやすいえこひいきを平気でやっていた。また、ひかりに対して「所詮、お前は二番手だ」などと書かれた嫌がらせの手紙を送ったり、無言電話をかけていたのもどうやら彼らしい。
ある日、ひかりが帰り際に用事を思い出して楽屋へ戻ってみると、倉沢がマリーの衣装を着た自分を鏡に映して恍惚としていた。問いただすと、ひかりのショーを見て救われたなどと喋り出す。大切にしていた人形が自宅と一緒に焼けてしまった倉沢は、妄想することでしか生きて来れなかった。ひかりが演じるマリーを見たとたん、運命的な出会いを一方的に妄想してしまったらしい。倉沢はひかりの人間関係も調べ上げ、楽屋の可愛いサンタクロース人形に盗聴器まで仕掛けていた。
ひかりは薄気味悪さを覚えながらも、倉沢に言われた「妄想すればラクに生きられる」という言葉が不安な心に沁み込んでいく。この辺は具体的にどんな行動が倉沢から吹き込まれた妄想の影響だったのかがわかりにくかった。とはいえ、ひかりが妄想に生き始めたことにより、杏子との関係にすき間が生じ、寂しさを募らせた杏子は篠塚と付き合うようになる。そして、楽屋での衝撃の発表。杏子は妊娠しており、篠塚と結婚するという。これは例えば、人気絶頂の女性アイドルが、よくわからない占い師に引っかかり、かつての仲間たちが離れていくといったケースに似ているのだろうか。
片方の舞台袖から他方へと高さ約1メートルほどもある花道が作られ、その上でクリスマス・ショーが演じられる。手前の上手側は衣装掛けハンガーなどがある楽屋。下手側にはパイプ椅子2脚とテーブルが置いてあり、ひかりと杏子が同棲している部屋やひかりが気晴らしに会いに行く人間嫌いの医師・小森一樹(能沢秀矢)の医務室になったりする。
作品の構造としては、楽屋で起きるいざこざの合間にマリーとベルによるクリスマス・ショーが挟み込まれる。その内容は前述の通り、二人の少女がずっと一緒にいようと誓い合うものだが、ひかりと杏子の正直な気持ちをストレートに反映しているように感じられた。ショーの演技も、見物人たちを意識して声を張り上げるわけでもなく、淡々とした日常的な喋り方。見ているうちに、このショー自体がひかりや杏子の妄想ではないかと疑いたくなるほどだった。
妄想とは何か。人間は自分のイメージを通してしか、現実を把握できない。五感に基づいて判断する時、どうしても自分に都合の良い解釈が入ってきてしまう。倉沢がひかりに吹き込んだ「ラクに生きられる妄想」とは、現実と自分の判断との間に生じるズレを絶えず修正し続ける努力を放棄し、信じたいイメージだけに固執することなのかもしれない。そんなやり方を続けていたら、人間関係が壊れていくのも当然だ。
ひかりと杏子は本物の「レズビアン」(女性同性愛者)ではなく、無理解な世間に対して「ノエルランド」という夢を広めていく同志または戦友に近い感覚だったのではないか。最終的には周囲からの圧力に敗れ、杏子はできちゃった結婚。ひかりも小森を男性として意識し、普通の大人となっていく。だが、ひかりと杏子のひとときの純愛は、そのはかなさゆえにかえってキラキラと輝いて見えたのだった。